前月号では、大学入学後に応募できる自治体奨学金について書きました。今回は、大学入学時点で決定される奨学金について紹介したいと思います。
@大学を指定する自治体奨学金について
一部の自治体では、大学と連携して奨学金付きの地域枠入試を実施しています。自治体が大学に学費等の納入金の一部を支払う代わりに、学生は卒業後にその自治体で一定期間医師として従事することで返済義務を免除されるという仕組みです。
例えば、2017年度募集で、兵庫県は、兵庫医科大学兵庫県推薦入学制度として兵庫医科大学に入学する学生5名のそれぞれに6年総額4480万円を貸与しています。
兵庫県の制度は昭和50年代に始まっており、兵庫医科大学の他に鳥取大学、岡山大学の地域枠入学者に資金を貸与しています。このような制度は、福島県、千葉県、東京都など42の自治体が実施しています。
奨学金額は月額100,000円〜300,000円程度で、義務年限は奨学金貸与機関の1.5倍とするところがほとんどです。
地域枠を受験するにあたって気をつけなくてはいけないのは、自治体によって卒業後のキャリアの考え方や赴任先病院のレベルがまちまちだということです。
例えば、愛知県は義務年限に含まれる初期臨床研修を大学付属病院や愛知県がんセンター、国立病院で実施することができますが、自治体によっては赴任先病院の設備が十分ではなく、教育について知見が浅いと考えられる場合も見受けられます。一生にかかわることですので、必ず自治体に問い合わせ、卒業後のキャリアパスのプランがどのようなものになっているか確認すべきでしょう。
A自治医科大学
自治医科大学は医療に恵まれない地域での医療の確保と住民の福祉の充実のために設立された私立大学です。運営は全国の都道府県が設立した法人によって運営されており、学費は全額都道府県が負担するため無料です。
さらに、家計事情に応じて月額50,000円〜150,000円の奨学金を借り入れることができます。卒業後9年間、各都道府県の指定する公立病院等で医師として従事することで返済が免除されます。
募集は都道府県単位で行われ、定員は都道府県ごとに2〜3名程度です。
自治医科大学は、へき地または医療の充実していない地域の医療を充実させるために設立された大学なので、カリキュラムは総合診療に関するものが多く、地域医療についての授業も実施されます。
B東北医科薬科大学
医学部新設の最大のミッションは2011年の東日本大震災後の東北の医療を担う人材を育成し、総合診療力を持った医師を東北に根づかせることにあります。
2011年3月11日に発生した東日本大震災により、沿岸部の医療機関は大津波により壊滅的な被害を受け、もともと医師不足に悩まされていた東北地方は一層の医師不足に直面しました。
東北医科薬科大学は、こうした東北地方の医師不足を解消することを目的の一つとしており、そのため、入学者のうち55名に東北6県から奨学金が貸与されます。
奨学金はA枠が6年総額で3000万円、B枠が2500万円以上です。学費は6年総額で3400万円ですから、奨学金により学費の大部分を賄うことができます。
卒業後は、奨学金を貸与した自治体の指定する病院で一定期間、医師として従事することで返済が免除されます。
しかし、ここで返済免除要件に気をつける必要があります。A枠では義務年限が初期臨床研修を除く10年となっています。自治医科大学を含むほとんどの自治体奨学金では返済免除要件が貸与機関の1.5倍で、その中に初期臨床研修を含みます。すなわち、へき地医療に従事する期間は7年なのです。
自治体によっては、7年間すべてをへき地での勤務とするのではなく、後期研修期間は大学病院や規模の大きな病院で勤務することができ、キャリアアップにつながるように設計されているところもあります。東北医科薬科大学は制度が始まったばかりです。進学を考える際には、将来のキャリア設計をあらかじめ考えておくことが必要でしょう。
C目的別大学
1)防衛医科大学校
防衛医科大学校の学生は防衛省職員(特別職国家公務員)で、学生手当が1か月113,300円(平成29年4月1日現在の金額)、それに年2回の賞与が支給されます。学費は全額貸与で、卒業後に9年間自衛隊に任官すると返済が免除されます。
しかし、9年未満で除隊または任官を拒否した場合は、ただちに学費を一括償還しなくてはいけません。(中退した場合、償還義務はありません)
6年間はすべて寮生活で相部屋ですが、パーテーションでほとんど2部屋に仕切られた準個室です。部屋では5・6年生は同じ学年同士でペアを作りますが、4年生以下は1年生と3年生、2年生と4年生がペアとなり、上級生が下級生を指導しながら生活します。
寮には門限があり、平日は原則外出不可、土日は朝8時〜23時まで外出可能、外泊は休日の前日のみ許されます。
カリキュラムは戦場や災害地での活動を想定して、内科も外科も一通りの治療ができるように組み立てられており、火傷や銃創などの治療、支援の無い場所での医療行為の方法も含まれます。また、自衛隊員としての訓練の時間もあり、6年間で507時間が実施されます。そのうち170時間は部隊での実習です。
・卒業後のキャリア
卒業後は9年間の任官義務があります。9年の内訳は、初任実務研修2年、部隊勤務2年、専門研修2年〜4年、部隊勤務1〜3年です。希望者は防衛医科大学医学研究科(大学院)で博士号を取得することもできます。中には専門研修後、アメリカやヨーロッパの医療機関に留学する人もおり、この期間も義務年限に含まれます。また、医官は当番制で国際緊急援助隊のメンバーに選ばれ、必要な場合は自衛官として海外へ派遣されます。
2)産業医科大学
産業医科大学は、昭和53年に世界で唯一の産業医育成専門大学として設立された私立大学です。産業医学振興財団が学生1人当たり6年間で19,193,200円の奨学金を支給するため、卒業までに必要な資金は11,296,800円です。
奨学金の返済は、卒業後に、初期臨床研修を含めた9年間、大学に指定された医療機関で勤務すると免除されます。
産業医科大学のカリキュラムには、最先端の医療技術だけではなく、企業で働く医師として必要な知識や考え方も含まれています。卒業と同時に産業医の資格を取得し、2年間の臨床研修終了後に3〜4年間の産業医卒後修練課程を受け、産業医として必要な知識や技術を身につけます。
産業医は常時50名以上の労働者を雇用するすべての事業場に選任することが義務付けられており、企業・労働者と共に、最適な労働環境を作り出すことを目的としています。 |