個性や環境に応じた
選べる学習スタイル
時代の流れとともに、通信制高校の状況も変化している。高等学校卒業の資格を取るということが前提だが、その学びが自分のペースとスタイルで学ぶことができるということで、通信制高校への注目が高まっているのだ。
和歌山の紀美野町に本校を置く、広域通信制の慶風高等学校は選べる学習スタイルとして4つの学びのスタイルを提供している。創立当初、田原校長は「さまざまな家庭環境や心の悩みを持つ方、一方で勉学やスポーツに特化して目標を持つ方などおられました。そのために、それぞれのニーズに応じたスタイルを設置したのです」と設立当初を振り返る。
学習塾から学校を立ち上げただけに、生徒一人ひとりに応じた教育を提供するのが学校教育の努めだと話す田原校長。その考えは、生徒・保護者に浸透し数年後には生徒数も増加。今年創立11年目を迎えた。さらに、広域通信制ということで全国のサポート校(43校)が慶風の学びをサポートしている。
慶風の選べる学習スタイルを挙げてみよう。
●週2日登校型
学習支援教室に週2日登校。レポート作成や苦手教科など、直接指導を受ける。
●通信型
家庭学習でレポートを作成し、添削指導を受ける。年2回開催するスクーリング(面接指導)に参加する。メディア利用もある。
●週5日登校型
支援センター(サポート校)へ週5日登校。高等学校各科目の学習や大学、短大、専門学校の受験指導を受ける。その他、修学旅行や各種行事への参加。さまざまな検定試験にチャレンジし、取得を目指す。
●スポーツ中心型
運動部に所属し、クラブ活動やボランティア活動に励みつつ、支援センターへ登校。レポートの作成や各科目の学習を受ける。受験指導や各種行事への参加、検定試験にチャレンジする。
生徒の中には、通信型から2日登校型へ、さらに週5日登校型へと進んでいく人もいて、緩やかではあるが不登校を克服した生徒もいる。また、プロの選手になるため、スポーツに集中したいという生徒も在籍しており、特にテニス部は強豪で男女とも2013年、全国高校総体県予選で団体5連勝を果たし、高校総体女子シングルスで高校日本一になった生徒はその後、プロの選手として世界で活躍している。一方で、難関大学を目指す生徒は勉学に集中し、見事合格を果たしている。
諦めずに
成功するまでやり続ける
昨年の創立10周年で田原校長は「この間、いくつかの困難もあったが、諦めず、成功するまでやり続けるという強い信念を持ち続けたことが良かった。そして、子どもには必ず良いところがある。良い面を見ることが大切」だと語った。
田原校長のプロフィールは教育一筋ではあるが、教育を実践するにつれて、そのバイタリティーが開花していく。
大学卒業後、公立高校の数学の教師として赴任。その後、結婚を得て学習塾を立ち上げる。子育てをしながら、子どもたちの勉強を見る日々は楽しかったと語るが、これもお母さん方から頼まれてのこと。頼まれるといやと言えない性格だと笑う田原先生の塾は、どんどん生徒が増えていき、法人化へと進化していった。時代の流れをすばやく察知した田原先生は、その後、専門学校や福祉関係の事業へも進出していく。
慶風高等学校創立のきっかけは、この福祉に携わったことから派生していった。これも地域の人たちからの「廃校となる学校の跡地に学校を作ってほしい」という強い願いがきっかけであった。和歌山県下初の私立通信制高校の創立は、前例がないため、何度か挫折をしながら約2年の歳月を経て、正式に行政から申請が降りた。
田原先生の考えには「子どもたちのために何ができるのか」や「自分が生まれ育った和歌山のために何ができるのか」ということがある。
慶風高等学校に入学し、自分たちの目標に向かって学ぶ子どもたちだが、すべての生徒が順風満帆に目標を達成して卒業していくことはない。能力的や体力的な面で、働く場所がない生徒や、一般企業に就職しても働きづらいという生徒も慶風には在籍している。行政や地域の企業とも連携しながら、生徒の出口の部分にも尽力する田原校長だが、「なかなか厳しい現実です。ですから、働く場所を自分たちで作れば良いんだと、発想を転換しました」。
具体的には
@慶風の卒業生が働ける場所
A世の中に役立ち喜ばれるもの
B地域の活性化になるもの
などだ。
出口の部分は
発想の転換を
現在、田原グループでは介護職員を養成する「有限会社ブレインサービス」を運営しており、そこの卒業生が働ける場所として老人ホームさくら園を運営している「株式会社朋久」も設立している。昨年、朋久において始めたヤングブレイン(障害者福祉サービス事業)では、ふるさと納税の返礼品にも選ばれた、和歌山県産の米を使用した「金芽米」やその米を使用した「和歌山県の茶粥」を和歌山県の観光土産として販売している。また、慶風高等学校の生徒たちとともに考えた緊急携帯用トイレ「行っトイレ」も、慶風の卒業生が製造している。ネーミングも慶風校内で募集し、生徒たちが考えたもの。今年4月に起きた熊本地震では、5月に田原校長と教員、生徒会長の3名で熊本に行き、「行っトイレ」を1,000個寄付してきた。
直近では、1ヵ月前から地域の商店街の協力を経て、慶風高等学校が運営する慶風農園(卒業生が中心となって始めた)で収穫した野菜を朝市と称して販売し始めた。人通りの少なくなった地元商店街では久々の人だかりだ。慶風農園のスタッフが8時頃から準備を始めると、産地直送のたまねぎやじゃがいも、なすびなど、瞬く間に売り切れてしまった。通勤途中の人も立ち止まり、眺めていく姿も増えている。
商店街の中で食堂を経営している大里さんは「商店街の活性化を願って、店先を提供させてもらっています。ゆくゆくはもっと商品を広く販売できるような方法を田原先生と考案中です」と元気に話してくれた。
慶風生が野菜を栽培し、卒業生が販売にかかわっていく。田原校長の意図する生徒たちの出口保証がこんなところにも実を結びつつある。 |