新時代の中学入試を迎え
脱皮を図る塾説明会
中学受験の塾の立場と
塾説明会の意義
中学受験は、保護者が自由に志望校を選び、受験できるという、高校受験などと違ったフリー性を持っている。したがって、塾のアドバイスは受けても志望校決定にあたってそれには束縛されない。
では、なぜ塾は、塾説明会に出かけて学校情報を手にするのかであるが、それは、得た情報をもとに、志望校の合格率向上を狙うというところにある。それは、中学受験のもう一つの特徴である、ほとんど入学試験の素点(点数)のみで合否が決められるという点にある。過去問などで入試問題の傾向などを分析して受験生の合格点獲得を狙うが、さらに志望校の出題意図などの解析でその中学校の入学してほしい生徒像を捉えて、受験指導の方向性を探るのである。
各私立中学校は独自の教育理念と方針に基づいたカリキュラムを持っており、入試問題はその入口である。学校の広い意味の情報を得ることで、合格に寄与できるのである。
一方の、主催側の中学校は何を期待して開催するするのかというと、一人でも多くの受験生を集めたいからで、それには塾の理解と宣伝が不可欠なのである。その気持ちを表した端的な話がある。
1990年頃、当時聖学院中・高校の校務部長真田幸男先生(学校広報のレジェンド。現著作権利用等に係る教育NPO法人理事長)が、塾に「あなたたちは、風呂屋の釜たきのような立場だから、一生懸命吹いて風を送って、中学受験のブームの向上に勤めてほしい。」と。
典型的な塾説明会の形は
一般的には、塾の先生に塾名簿などに従って郵送などで開催通知をして、当日は、1時間〜2時間の説明が行われる。出席の確認は、返信はがき・FAX・Webなどさまざまな方法で行われる。
そして、当日の進行・次第の典型は、
@校長が、挨拶と建学の精神・沿革・教育理念などについて
Aカリキュラムなど教務の実際
B大学合格実績など進路について
Cクラブ活動・生徒会活動など学校生活について
D中学入試の結果報告と、次年度以降の入試要項(変更がある場合は強調)と入学してほしい生徒像などだ。
終了後は、希望者に校内見学(授業見学ができることがある)とか、入試担当者との名刺交換・質問のコーナーが設けられることがある。
説明会の出席者に配られる資料は年々分厚く、詳細になってきているが、中学校によりかなりの差があることも事実である。あまりにも簡単で、にわか作りの印刷物を編集しないでかき集めてきたと思わせるような中学校があるが、やる気がないような印象を与えないか心配だ。
説明会で使ったパワーポイントをコピーして配布する中学校があり、復習したり保護者などに説明するときに助かる。
新時代の中学入試の
塾説明会とは?
2020年からセンター試験の代わりに「大学入学希望者学力評価テスト(記述式)」を導入するなどして、高校教育・大学入試・大学教育の三位一体改革を予定している。文科省主導の明治時代以来の大きな教育改革が行われる。学力の3要素が示され、従来の「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力」と「主体性・多様性・協働性」が問われる入試に発展する。
新方式の大学入試の一部に不透明な部分があるが、このような方向性で実施されることが予想されていて、私立中・高一貫校が大学入試で有利となることが予測されている。
また、世の中の変遷も急激で、未来の社会に生きる子どものための教育改革が待ったなしの状態であることは、保護者を通じて塾の先生が敏感に察知しているようである。したがって、私立中・高校の塾説明会の内容が新時代に符号していないと、受験生とその保護者に受験を促すにいたらなくなる恐れがある。
新時代にふさわしい生徒の育成像を示していただく必要が出てきた。
塾説明会の出席者が若返り
出席者の多くは弱小塾の先生であるが、ここ1〜2年で老先生の出席者が減って、若い先生の出席が増えてきている。リーマンショック以前は景気も良く、どの塾も通塾してくる生徒であふれていたものだ。しかし、その後、長期の不景気と少子化の影響で中学受験する生徒が減ってきてしまい、地域的にもレベル的にも受験生を抱えているとは思えない塾の先生の参加が続いていたのである。
主催側の私立中学校でも、何年も受験する生徒がいないにもかかわらず、参加してくる塾の先生の存在を嘆いておられる。塾説明会では、交通費の名目で1,000円程度の図書カードとかQUOカードが配られることがある。それも、最近では、その配布を中止する中学校が増えてきた。このお土産目当ての先生、または当人が老齢化して出席しなくなったのか、若い先生の参加が増えている。熱心にメモを取るなどしてその学ぶ姿勢は先の老先生よりすがすがしい。私立中・高校の良さを十分に収集して、受験生の保護者に正確に伝えていただけるものと期待が膨らむのである。
情熱のあふれる
印象に残った塾説明会の例
塾説明会例@
大幅な学校改革が進行中の
説明会は的確で具体的
●東京都市大学等々力中学校・高等学校(東京都世田谷区)
2016年の首都圏の中学入試で、最も志願者数が伸びた(2015年・2,123名→2016年・3,444名)急伸中の共学校。東急電鉄系学校法人五島育英会が経営する学校の1校。
平成29年度 入試結果報告会レジュメ
1.校長挨拶
今年度の重点目標と今後の教育について 校長 原田 豊
2.平成28年度入試結果
平成29年度入試について
3.平成28年度入試問題分析
帰国生入試(英語)分析
4.S特選コースと教科指導について
【要旨】
躍進中の大学合格実績は、TQノート(時間管理ノート)などを使った担任との密接で良好なコミュニケーションの結果である。今後の卒業生の学力レベルは入学時にレベルアップしていることもあり、さらに向上する。AL(アクティブ・ラーニング)は3年前から取り組んでおり、来年度の入学生からタブレットの導入を予定している。AL活動、ICT活動などすべて授業中に行い、放課後の自主的活動枠の拡大を狙っている。「等々力の各科目」への思い入れ、東大ロードマップなど資料も豊富で、教科に対する熱意を感じさせる。
塾説明会例A
生徒のための上質で
献身的な教育が見える説明会
●光塩女子学院中等科(東京都杉並区)
1931年創立以来、常に最上の教育を考え続けてきたとされる、カソリックの女子校。昨年まで第2回の入試の中の選択形式で行われていた「総合」入試を、今春2016年から2月1日に独立した形で第1回入試として新設し、大きな反響を呼んだ。
2017年度中等科入試説明会
1.教育理念 学校長 荒木陽子
・「光と塩」
・「自分との出会い」から
「Women for Others」へ
2.カリキュラム・進路
・カリキュラムの構成
・その結果としての進路
3.入試関係
・2017年度入試の変更点
・2016年度入試の結果
4.光塩について
・VIVA! 光塩
・「総合」入試、8年目へ
・「光塩」オリジナルプログラム
・ロールモデルとしての卒業生
入試・カリキュラム・進路の流れが見事なほどに考えられ、仕組まれていて、カトリック精神を下地にした教育は完成度が高く、説明会でもきちんと説明してくれる。
【要旨】
◎光塩が大事にしていること
あなたがたは世の光です あなたがたは地の塩です。
自らの能力を高めて、それを他者に開き、他者とともに、活かしていける人 ―社会へ貢献していける人物― を育てる。
◎「総合」はどんな試験か
「初めて目にした問題(文章・図表)について、今まで学習した小学校レベルの基礎知識を用いて、自分の頭を使って読み解き、きちんと思考して論理的に表現する力」を評価します。
◎「総合」で求めている力
結びつけて考える力、それを表現する力
思考力(Intelligence)考える力
論理力(Logic)筋道を立てる力
基礎力(Basis)基礎となる知識
読解力(Literacy)読み取る力
表現力(Expression)書く力
塾説明会例B
リベラルでフェアな精神の涵養を
目指す教育を丁寧に説明
●海城中学校(東京都新宿区)
真のリーダーすなわち「新しい紳士の育成」を教育理念に掲げる。創立100周年の1992年から始まった教育改革第3期目を迎えて、「国家・社会に有為な人材を育成する」という、建学の精神を時代に即して具現化して脱皮し続ける。
塾説明会を開催する数少ない難関男子校で、積極的に“海城の魅力”を発信している。
「次第」
1.海城の沿革と教育 学校長 柴田 澄雄
2.海城の教育の今と今後 校長特別補佐(教育推進研究センター長) 中田 大成
【要旨】
◎グローバル化を意識した教育が大事で、a.コミュニケーション能力、b.米・英・カナダの海外研修、韓国・モロッコとの国際交流 c.英語の4技能に加え、基礎となる論理的思考力および記述表現力を訓練する。
◎「新しい学力」と「新しい人間力」をバランスよく備えた、人類・社会に有為な人材の育成を目指している。
第1期改革では、生徒参加型授業を行い、「課題設定解決型」の学力要請を目指した。社会科で、探求型総合学習を開始し、自分で設定した課題について取材し、レポートにまとめた。これに伴い、社会科で記述式の解答を求められるので、中学入試段階で思考力・表現力の一定程度のレベルを備えておく必要がある。さらに中3での400字詰め原稿用紙30〜50枚の卒業論文を書き上げて論述の力をつける。2020年の大学入試改革にも備えられる。
◎2002年からの第2期改革では、体験学習プログラム「PA(プロジェクトアドベンチャー)」と「DE(ドラマ・エデュケーション)」を導入して、グローバル化に備えてコミュニケーション能力の育成に取り組んだ。
◎2010年には高校からの募集を廃止して、完全中高一貫教育を完成。「グローバル教育部」を立ち上げ、帰国生の本格的な受け入れ、在学生の留学支援、海外大学進学の支援などと取り組んでいる。この4月からは「ICT教育部」を立ち上げてICT教育にも力を入れていく。
◎世界の舞台でリーダーシップを発揮するには、歴史的大局観や、ぶれない価値観など確固たる信念を持つこと、それを獲得するには歴史の風雪に耐えてきた古典に親しむなどして、人間・社会に関する一般知について学ぶリベラルアーツが欠かせない。
塾側からの塾説明会の印象
洗練してきた塾説明会
保護者から、「最近の学校説明会はとてもプレゼンが上手くなってきている」との指摘があった。これは塾説明会でも同様で、2通りの意味を含んでいるのではないかと思う。1つ目は、パワーポイントなどでわかりやすく表現していて、学校の様子なり、目指していることがよく理解できたということ。
しかし、2つ目は企業のプレゼンのようで、そこには教育・生徒にかける息吹が感じられないということ。システムが時代の先端を走っていることが自慢であるなど、生徒への教育効果の部分が心配になるということである。
生徒の活動報告が
主題の説明会
鴎友学園女子中学校(東京都世田谷区)の学校長吉野朗先生と洗足学園中学校(神奈川県川崎市)の学校長前田隆芳先生などでは、ともに新時代の新教育についての具体的なビジョンを示しながら、在校生とか卒業生の具体的な活動例を話されるので、校長と現場の先生が一体になって学校運営がなされていること、一人ひとりの生徒についてその成長経過を見つめていることがわかり、印象がよい。
バラバラな説明の内容では
教育方針などが伝わらない
男子校の一部に、校長以下が順に話されるのであるが、内容についてのすり合わせがほとんど行われないまま、進行しているように感じさせることがある。プログラム、それぞれの説明の中身、教務方針などが一本になっていないのである。登場してくる先生がそれぞれに担当について話されるが、まとまったその学校のイメージが伝わってこない。私立である限り、独自の教育理念とか教育方針をまとまった形で伝えていただきたい。例えば、アドミッションポリシー・カリキュラムポリシー・ディプロマポリシーについて確認していただくのも一つのあり方だと思う。
塾説明会も
ショー(演劇)だとの認識
塾説明会例C
●八雲学園中学・高等学校(東京都目黒区)
毎年9月1日の午前11時から開催される。学校で綿密な打ち合わせを行い、徹底的にリハーサルを行った上で本番に臨まれているようである。生徒の英語のパフォーマンスから、各先生方の説明がよどみなく流れていくのは見事。しっかりとした構成の台本、事前の読み込み、進行の確認とリハーサルなどを、全校の先生の参加のもとで行われているのではないかと思う。このように、塾説明会を一つのショー(演劇)のように捉えて開催されると、よく伝わってきて良い印象が残る。
入試懇談会プログラム
1.英語教育から見えるアクティブ・ラーニング
2.English Performance by Students 〜That’s How I’m Improving My English〜
3.学校長挨拶・学校概要説明 理事長・校長 近藤彰郎
4.進路指導について
5.卒業生スピーチ
6.生徒会による学校紹介ビデオ
7.募集要項について
(生徒募集要項・願書、高校入試資料)
懇親会(学校見学)
スピーカーの要件の例
入学した暁に「巧みな話術=授業がわかりやすく、聞き取りやすい。ユーモアのある=子どもが授業を面白く聞ける。パッション=情熱的に熱心に指導してくれる」ようで好感がもてる。どれかが欠けていても心配になり、テンションが下がる。
樋口義人氏 プロフィール
1942年生まれ。
「未来教育研究機構・NPO法人」理事長。ソニー・グローバルエデュケーション シニアアドバイザー。
中学受験界でのキャリアは40年以上にわたる。中学受験塾の「日能研」在職時は経営戦略の責任者として、常務取締役・公開模試事務局長など歴任。私立中学受験の大衆化に尽力した業界の重鎮である。
「日能研」を退社後は「首都圏模試センター」代表取締役を経て現職に。この度、「アクティブ・ラーニング」などの研究、教育現場への提言などを行う機構を設立した。
長年の経験と実践に裏打ちされた奥深い提言と面白い語り口は、中学受験界の“良心”として多くの支持を得ている。
著書は「中学受験の常識・非常識」(角川oneテーマ21)、ドラッカーに学ぶ受験マネジメント「がんばれ、さくら!」(遊行社)ほか
「未来教育研究機構(NPO法人申請中)」
理事長 樋口義人
〒169-0075 東京都新宿区高田馬場3-25-3
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