皆で食事をする時間は
情緒を育む大切な時間
2014年4月、昭和区元宮町に開塾した教養学舎。近隣には椙山女学園や名古屋大、南山大、名古屋市立大があり、それに伴い、塾も多数点在している教育熱心なエリアである。
「激戦区にふらりと入り込んでしまい(笑)、別次元で歩んで行こうと決心しました。進学塾で働きながら抱いていた、より良い学びへの思いと、『子育て当時にこうだったらどんなに助かっただろう』という思いを実践しています。母親業の先輩として、いま頑張っているお母さん方の応援ができればと思っています」と望月塾長。
「エコル・ア・パンセ」の意味は「考えるための学校」。対象年齢は4〜18歳で、4〜10歳のジュニアクラス、10〜18歳の本科生クラスがある。今年は小学受験から大学受験まで、すべての受験生を指導した。現時点で名大医学部など、志望校への合格はほぼ100%だ。
他塾との大きな違いは、心を育てる一環として、おやつや夕飯を皆で食べること。「子どもは環境で育つ」と考え、可能な限り良い環境作りを心がけているのだ。食事は望月塾長の友人でもある契約シェフの手作り夕食である。食卓を囲む中で、さまざまな話題が出る。学校であったこと、プライベートなこと、上の学年が下の学年の子にアドバイスをするなど、世代を超えたコミュニケーションが生まれ、家族のような雰囲気になる。
「食事の時間も大事なものとして位置付けています。講師と生徒のコミュニケーションの時間であり、お客様をお迎えしていろんな話を聞く場にもなります。特に海外からのお客様は、子どもたちに世の中は広いということを知ってもらえる良い機会になります」
教科学習は基本、子どもたちの自主性を尊重し、各自の進め方や解き方を講師がチェックしながら質問された事項を問答形式で教えるスタンスだ。高校生の塾生は自学自習の習慣がついており、自らどんどん学習を進めていく。あまり出番がなく逆に寂しいときも、と望月塾長。一方、小学生は「もっと知りたい」とばかりに次々に質問をしてくる。知的好奇心が旺盛な子どもたちには学年の枠が邪魔な場合もあり、そんなときは先の学年の内容でも構わず進めていくという。中学生はさまざまで、高校生のように自分のペースを堅持する子もいれば、小学生並みに頼ってくる子もいる。一人ひとりの性格や理解力に合わせた対応をする。
「秋に行うイベントも子どもたちが発案し仕切って、企画からすべて動きます。漢字検定、算数・数学検定も子どもの発案で始めました」
時代に備えて
自分で問題を見出し
考え、解決する力をつける
望月塾長が子どもたちを大切に思う気持ちの裏側には、現代社会への厳しい視線がある。
「社会の歪みのしわ寄せが子どもたちにいくのを何とかしたい。これだけ見えない時代に巻き込まれていくと、お母さんも右往左往する。子どもたちは学校や家庭で厳しく言われ、ここに来てまでやかましく言われたら、もう逃げ場がなくなってしまう。小さな子どもに多くを課せば自主性の芽が育たぬまま、いずれどこかで行き詰まる。子どもが少なくなっているこの時代、もっと子どもを、子どもの心を大切にするべき。ひとりたりとも無駄にできない、大事な大事な宝ですから」
以前、勉強に対してアレルギー反応にも近い状態の子どもたちを受け入れた。小さな頃からエリート教育を期待され続け、ついには塾に行けなくなってしまったという。押し付け勉強を拒絶する心を解きほぐすには、わかることの嬉しさを何度も実感させていくしかない。そんな子どもたちが、最近「勉強教えて! 教えて!」とせがんでくるようになった。「あんなに勉強嫌いだったのによくぞここまで…」と子どもたちの成長に心から感動したという。
しっかりとした社会人を育てるという軸がぶれなければ、学齢の節目で指導するべきことは決まってくる。そのため、学校や世の中が求めていることと、塾の方針がずれないよう常に意識しているという。また、思考力全体を高めるよう、就学前の子どもたちから小学生には算数と言葉の習得を中心にし、木製教具やタブレット教材なども用いて反復練習、あとは「なぜ?どうして?」と自ら疑問を持ち、考えていく力を養えるように環境を整えている。
「中学入試の問題も、以前とは全く違う。見たこともない問題を見てもひるまずに挑んでいく精神を育てたい。今後、学校でも社会でも、知らないことをやれと言われるケースがどんどん増えていくはず。既存の成功体験に頼らない本物の力を子どもたちにもつけてほしい」
人と人とのつながり、感謝の気持ち
大切なことは皆ここにある
開塾から2年が過ぎた。最初は手探りで行ってきたが、現在は随分落ち着いた。望月代表の幅広い人脈が塾の運営をサポートしてくれる。塾の建物も友人の所有物だ。リビングにある図書は、父母や友人からの寄贈が多く、子どもたちがくつろぐ大きなソファも譲り受けたものだ。望月塾長がいかに友達を大切にしているかが伝わる。その様子を見ている子どもたちも、人を大切にすること、助け合うことの大切さを学んでいく。
教室は土曜日曜にはランナーズステーションにもなる。望月塾長が所属するランニングチームの本拠地だ。館内にはシャワー室が3室あり、部活帰りの子どもたちにも開放している。部活の疲れを癒し、仮眠を取り、夕食を食べ、勉強する。ここは第二の我が家と言える。子どもたちも広いリビングで本を読みながらのんびり過ごし、勉強するときは勉強する。緊張感のオンオフがここでは可能だ。
子どもたちを見守る望月塾長の言葉の奥からにじみ出るもの、それは子どもたちへの深い愛情とこれからの日本の社会に対する祈りだ。子どもたちの心を大切にし、情緒を育む。「人とものを傷つけない」というきまりを根本に据え、その上に挨拶や感謝、高い目標などのスローガンを掲げる。人として最も基本的な部分を幼少の頃から育もうとする姿勢が伝わる。それも押し付けるのではなく、さりげなく。
「友人やかかわってくれる皆さんのおかげで、教養学舎は成り立っています。今は子どもたちといるのが一番楽しい。本当に充実しています」
感謝の気持ちを忘れない姿勢は、子どもたちの心にも染み渡っていくだろう。
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