第一部 記念式典
全国学習塾協会の副会長である碇優氏による開会の辞で幕を開けた塾の日シンポジウムは、平成元年に10月9日を塾の日として発足し、東京で第1回のシンポジウムを開催してから、毎年地域を変えて開催され、今回で27回目を数える。最初に壇上に立ったのは、会長式辞を述べた安藤大作全国学習塾協会会長。
「日本は今、過去に例を見ない少子高齢化の波に覆われており、このままの状態では30年後に人口が半減すると言われております。そんな中、塾もボーダーレス化が進んでおり、業種や国境を超えて人のためになるよう、今までの指導方針をさらに充実させるという使命が生まれています。互いに手を取り合い、この使命にどのように対応していくかが、今後の塾団体の課題となるでしょう。
その課題解決の手段のひとつとして、今年度4月より民間教育10団体による『全国塾コンソーシアム』が立ち上がりました。独自の特徴を持つ団体同士が率直な意見を出し合い、切磋琢磨できる場として、今後に期待がかかります。次世代により良いバトンを渡していくためにも、ここにいる自分たちを含め、塾関係者が今、目の前にある使命を胸に刻んで、今後も活動を続けていくことを期待しております」
続けて来賓祝辞に移り、経済産業省からは落合成年商務情報政策局サービス政策課サービス産業室長が登壇。「IT化やグローバル化など、新たな時代に移行しつつある現代社会で、いきいきと活躍できる人材教育を、公教育と連携して進めてほしい」と祝辞と激励の言葉を述べた。また、文部科学省や参議院からも来賓が出席し、塾に期待していることが多いと話した。
来賓祝辞の最後として、森貞孝全国学習塾協同組合理事長が立ち、「塾の日と決められた今日。改めて子どもたちにどんな思いで指導をしていくのかを考える日としたい」と告げた。
そして、自主基準遵守塾の表彰、全国読書作文コンクール優秀作品表彰とプログラムが進んだ後、教育活動推進プランの報告では、門真市教育委員会を代表した三村泰久学校教育課課長と祖父江準全国学習塾協会常任理事が壇上に上がり、門真市で始まっている「放課後教育プラン」を紹介。現在、日本政府としても目が離せない状況となった子どもの貧困問題を取り上げ、公立高校に入学を希望しているが、貧困で塾での受験勉強ができないハンデを背負った生徒のため、通塾を助成する制度を公教育と塾が手を組んで行っていることを報告した。この制度は先日テレビの情報番組でも特集されており、会場ではそのビデオを上映。他の地域の参加者が真剣な目で画面に見入っていた。
第二部 記念講演
第二部の記念講演は講師を依頼していた株式会社堀場製作所の堀場雅夫最高顧問の急逝により、大幅に内容を変更して開催された。
堀場さんは戦後間もない焼け野原となった日本で、復興のために力を尽くした努力の人である。昨日、某外国産の自動車の排気ガスデータの改ざんを見つけたのも、堀場さんの会社が作った測定機器により発覚したものだ。このように、堀場製作所の製品は派手ではないが、日本のみならず、世界中で信頼が寄せられる良質の機器である。
昨年、この講演の依頼をした際、「これからの塾はどうなるか」と質問を投げかけられた堀場さんは「教育の原点を見失わない限り、塾は必要とされ続ける」と力強く応えたそうだ。
塾の日シンポジウムの講壇に立つことを非常に楽しみにしていたという堀場さん。その追悼として、第二部では堀場さんの残した文章や映像を交え、堀場さんの生涯とその理念、そして、塾へ託された熱いメッセージを伝える場となった。
中でも参加者の心を打ったのは、『堀場氏から日本の子どもたちへ』としたためられた文である。
「あなたのお父さん、お母さんは、あなたたちにいろんな力を与えてくれました。あなたはある分野では、誰にも負けない力を持って生まれてきたのです。学びの中からその分野を自分で見つけ、研究し、生涯の仕事として取り組み、自分の豊かな人生をつくる努力をするとともに、人のために貢献できるようになってください。私はそう祈っています」
この言葉に続き、堀場さんの経営理念や経歴が紹介された。
堀場さんのモットーは『おもしろおかしく』。常に真剣に生きてきた堀場さんは、勉強でも仕事でも主体性を持ち、おもしろがって取り組むことを推奨してきた。
「おもしろがれば、仕事も勉強も効率が良くなる。今まで勉強が嫌いだと思っていた人は、おもしろがることで勉強が好きになり、その気持ちの落差が伸びる基礎力となる。また、自分の仕事が誰かの役に立っているという誇りが持てれば、その人とともに企業も伸びていく。勉強とは明確な目的を持たずに進めることが多い。しかし、大学進学後や就職後にその知識が生かされることもある。だから、学生のうちに基礎力を身に付けられるよう、親や先生が責任を持って指導してほしい」など、さまざまな重みのある言葉が発表された。
続いて、堀場さんの肉声と録画された動画映像が流れると、画面を見つめながら、参加者全員がその突然の死を悼んだ。
この後、第三部として民間教育交流会を開催。参加者同士が歓談しながら、塾での指導などに活用しようと、互いの情報を真剣に交換。多くの触れ合いが持たれる時間となった。
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