3 法人が得か、個人が得か
1.個人と法人の大きな違い
学習塾のほとんどは、個人事業の形で経営されています。それは、対象となるお客様が個人であるため、法人にすることのメリットを感じないからかもしれません。確かに、地域の子どもたちに自分の指導方針や指導方法で学力をつけることを目的としている個人塾では、個人事業で十分なのかもしれません。いろいろな場所に多店舗展開するのでなければ、多くの資金を用意することも不要です。それよりも子どもや母親とのコミュニケーションを密にすることの方が必要であるという考えもわかります。
しかし、学習塾も一つの事業体である以上、考えなくてはいけないことがあります。それは事業に対する経営責任ということです。経営者の身勝手で事業を閉鎖したり、休止したりすることは責任を果たしていないといえます。これが法人となると、それがそういった身勝手な行動がしにくくなります。法人とは「人間以外で、法律上の権利義務の主体となることを認められたもの」のことです。個人とは切り離された、法人という人格が法律上で認められるということなのです。
例えば、事業資金として借りた借入金であっても、個人事業では借主はあくまでも個人で、仮に倒産するようなことがあれば、個人財産をもってしても返済をしなければなりません。これを「無限責任」といいます。しかし、法人として借りたのであれば、借主は会社であり、債務が及ぶのは法人資産の範囲内であり、原則として経営者個人の資産にまで支払義務が及ぶことはありません。(経営者が借入金の個人保証をしている場合を除く)これを「有限責任」といいます。
また、賃貸契約、売買契約なども法人で行えます。また銀行口座も法人で開設することが可能です。経営体としての形を整えることができるのです。これは経営者が死亡などの緊急事態であっても、企業の継続ができるということなのです。経営者が死亡の際、銀行の個人口座は凍結され、引き出すまでさまざまな手続きが必要となります。
2.法人化のネックは何か
起業する時に、誰しも個人でいくか法人にするかを考えるでしょう。確かに個人事業は、税務署に開業届をだすことでスタートができます。法人の場合には、資本金の準備、会社の機関設計、法人設立の手続きなど面倒な手順を踏まなければなりません。そういったことがネックとなり、個人事業を続けているという人も多くおられるのではないでしょうか。
ここで法人化へのネックについて、次の2つをあげることができます。
一つは、法人化へのメリットです。先ほども述べたように、学習塾では法人化のメリットはいったい何があるのか、これを考えると個人事業のままでいいのではという結論になるのかもしれません。この法人化のメリットについては、次の章で詳述します。
二つ目のネックは、法人化への手続きの複雑さです。これについては前の章でも述べましたように、今回の会社法では、著しく簡単になりました。そのため、このネックについては、減少されたと考えてもいいのではないでしょうか。
3.会社の種類
ここで、新会社法で定められている会社の種類について、簡単に述べておきます。新会社法では、株式会社のほかに、合名会社、合資会社、合同会社を設立することができます。旧法にあった有限会社はその中に入っていません。今後は設立できないということです。ただし、今現在の有限会社は、そのまま特例有限会社として継続することはできます。
合名会社は旧法と同じく、無限責任社員で構成されています。それに加えて、法人も社員になれることと、1人でも設立ができるということが定められました。
合資会社も旧法と同じく、有限責任社員と無限責任社員とで構成されています。また法人が無限責任社員となること、有限責任社員が代表権を持つことを認められました。
合同会社は、すべての社員が有限責任しか負わないという点で、株式会社に近いものとなっています。一方、会社の運営については、法律の規制がほとんどなく、組合に近いものとなっています。会社設立は1人でもよく、社員全員が業務執行権をもつのが原則です。また利益配分方法を自由に決めることができ、出資額に応じた比率に準ずる必要がありません。学習塾で経営者の勉強会を継続させるために、組合形式で会社を設立するというときに最適なものかもしれません。 |