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2020/9 塾ジャーナルより一部抜粋

授業づくりへのアプローチ 国語
記述とはこんなもの
――京大の入試問題をもとに

仲国語ゼミ
塾長 仲 光雄

     

 「記述問題はどうやったら点数がとれますか?」と生徒が質問にきた。曰く「本文に何度も出てくるキーワードを書けば部分点がもらえるというのは本当ですか……」。また曰く「重要だと思う箇所を抜き出して書いておけば うまくいくと教わったのですが……」。

 国語の記述問題が出題される国公立文系志望の受験生のことばとは思えない。キーワードをつかまえれば何とかなる、問題文の要約ができれば記述はOKという安易な考えが念頭にあるのだろう。困った諸君である。

 今回は、本格的と定評のある「京大の現代文記述問題」を二題紹介して、記述問題のありようを体験してもらおうと思う。先生方も一緒に考えてくださるとうれしい。

何は何と『調和しない』のか?

 例文Ⅰは、清水哲郎氏の文章で、「死に直面した状況における希望」を論じたきわめて現代的なテーマである。

 設問は、「何は何と調和しないのか」を書かせる論理的な記述を求めている。

 私の模範解答を示す。

―――――――――――――――――――――――― ○ ――――――――――――――――――――――――

 自分の病気の奇跡的な回復や例外的に遅い進行に望みを見出すのは、自分の置かれた状況を適切に把握することが今後の自分の生き方を主体的に選択するのは人間にとって大切だという考え方とは相容れないから。

―――――――――――――――――――――――― ○ ――――――――――――――――――――――――

 この模範解答を見て、そんな答でいいのかと言う塾生がいた。記述問題は本文の要約と教わっている生徒にとっては、違和感があったのだろう。

 しかし、〈なぜ「調和しない」のか〉に答えるには、Aのこういう考え方とBのこの考え方は「相容れない」と説明すればいい。設問の意図に正しく答えるのが「記述問題」の鉄則なのである。

 もちろん、筆者の主張したいのは、〈そういった希望的観測ではダメだ。自分の置かれた状況を的確に把握することで、生き方を主体的に選択することができる。それが、死に直面した状況における希望と言える〉といったものであるが、ここで問われている解答ではない。

「人に羨まれる種が増えた」とは

 例文Ⅱは小説で、高井有一の「半日の放浪」の一節である。論理的な文章でなく取り組みやすいとある塾生は言うが、なかなか骨のある設問である。

 「気持ち」を尋ねているのだが、形容詞一つをつけた「うれしい気持ち」のような解答ではダメ。解答枠は、ヨコ5・1㎝、タテ13・9㎝で、京大現代文らしい本格記述である。この枠なら、120〜130字で書かないといけない。

 「気持ち」を説明する際のポイントとなる表現を二つ取り上げる。一つは「人に羨まれる」で、もう一つは「種が増えた」である。

 前者はおさえやすい。「いい息子だな」「お前は息子で苦労しないで済んでるから羨ましい」などとあり、ほめ言葉だとわかる。さらに今回「私」は「気の優しい息子の家族と暮す安定した老後」を手に入れたのだから、「また人に羨まれる」がぴったりである。

何が不都合なのかを読み取ろう

 もう1つの「種が増えた」は難しい。「種が増える」はよいニュアンスで使うことはなく、困った事態を想定して言われる。このように説明を始めると、塾生の一人はそんな表現は知らない、困った事態と決めつけていいのか、と不満げに質問をした。

 そこで、切り口を変え、「私」が息子の毅夫に対してどんな思いを抱いているかを考えさせた。「いい息子」「人に羨まれる息子」のほかに、「反撥心」「毅夫の指示は受けない」などの否定的な反応があることに塾生は気づいたようである。

 さらに全体を丁寧に整理していくと、否定的な思いの要素として「息子のそつのなさを物足りなく感じる」「新しい家に自分の意志が生かされていない」等の要素をおさえることができる。いずれにしろ、「私」の気持ちはバンバンザイなどではなく、何かすっきりせず、内心穏やかではないのである。それを記述させるようとする設問は、まさに一筋縄ではいかない。

私なら、こんな模範解答を

 私の模範解答を示しておく。

―――――――――――――――――――――――― ○ ――――――――――――――――――――――――

 同僚からも出来のいい息子を持ったと言われ、今また彼の家族と一緒に安定した老後を暮すことになって人に羨まれるだろうが、息子のそつのなさに物足りなく感じるし、二世帯住宅への建て替えも自分の意志が生かされない妥協の産物で、すっきりせず内心穏やかではなく思う気持ち。(129字)

―――――――――――――――――――――――― ○ ――――――――――――――――――――――――

 塾生の「そんなのは難しすぎる、そういった体験をした先生くらいにならないと(私は年齢的にはとうに超えている)書けない」「社会常識を前提にしていて、いい問題だとは思わない」などの声は無視しよう。本文を丁寧に読めば、理解できる心情なのだから。

 京大の現代文の記述問題を二つ取り上げたが、「記述問題=内容のまとめ」といった安易な問いでないことがわかっていただけたと思う。ある場合は論理の手順を整理させるものであったり、ある場合は本文全体を踏まえて主人公の「気持ち」を整理させるものであったりするが、文章に対してそれこそ真剣に取り組まないといけないものばかりである。

 来年度から始まる「共通テスト」の国語から「記述問題」がなくなったが、課題文の一部を抜き出すことで正解とするような安易な「記述」とならない方がずっといいと思う。

例文Ⅰ……(清水哲郎「死に直面した状況において希望はどこにあるか」)より

 「患者が最後まで希望を持つことができるためにはどうしたらよいか」ということは、ことに重篤な疾患にかかわる医療現場において切実な問題である。病気であることが知らされる――だんだん状態が悪くなることを知り、有効な対処法はないことも知る――自分の身体がだんだん悪くなり、できることがどんどん減って行く――死を間近に感じるようになる。

 このような状況で、「希望」とはしばしば、「治るかも知れない」という望みのことだと思われている。あるいは「自分の場合は通常よりもずっと進行が遅いかもしれない」ということもあろう。いずれにしてもまさに「希望的」観測である。だが、希望とはこうした内容の予測のことなのだろうか。

 もしそうだとすると、それこそ確率からいって、そうした患者の多数においては、はじめに立てた希望的観測が次々と覆されるという結果にならざるを得ない。それでは「最後まで望みを持って生きる」ということにはならないだろう。そもそも、「癌」と総称される疾患群をモデルとして、「告知」の正当性がキャンペーンされてきたのは、患者が自分の置かれた状況を適切に把握することが今後の生き方を主体的に選択するために必須の前提であったからではなかったか。右に述べたような望みの見出し方は、非常に悪い情報であっても真実を把握することが人間にとってよいことだという考えとは調和しない。

問 傍線部について、なぜ「調和しない」のか、説明せよ。

例文Ⅱ……(高井有一「半日の放浪」)より

 毅夫が初め私に提案したのは、今の家の建替えではなかった。彼は土地も家も売って、郊外へ移ろうと言ったのである。二番目の子供が生まれて、いかにも手狭になった社宅住まいを切上げたくなったのであろう。それには借金をして独力で建てるよりも、行くゆくはどのみち自分の物になる親の財産を活用した方が利口だと計算したのであろう。そうした考えを私は咎めはしない。私だっていつかは彼の一家と同居する心積りはしていたのだから。しかし、何事にも周到な彼が郊外分譲地のパンフレットを持ってやって来たとき、自分でも予期しない反発心が湧いた。(中略)

 毅夫の説明は、すべてについてそつがなかった。陽の当らぬ下町の低湿地から陽光あふれる郊外の高台へ。自分たち一家の利害が基本にあるとは言え、彼が精一杯に誠意を尽そうとしている事は疑いようがなかった。いい息子だな、と私は皮肉でなく言った。お前は息子で苦労しないで済んでるから羨ましい、と同僚に言われたことが思い出された。確かに毅夫は出来がいいとは言えぬまでも、手間のかからぬ息子である。小学校から大学まで際立った成績は示さなかった代りに、中位以下に下りもしなかった。高校、大学の受験と就職試験に一度も失敗しなかったのは、彼が常に自分の能力で手の届く範囲を慎重に計量した結果である。お前みたいなのは一流にはなれんぞ、と酔ったまぎれに私が言ったとき、一流とか二流とかそんなこだわり方は時代遅れだ、と彼は答えた。私の自分の性格へのひそかなこだわりを、彼は見抜いていたかも知れない。

 なるべく急いで検討してみて下さい、と毅夫はパンフレットや契約説明書を私の方へ押して寄越した。その必要はないよ、と私は押返した。この家を売る気はないからね。ここで曖昧な態度を示してはいけない、と私は思った。毅夫の指図は受けないという私の意志が、語気を通して伝わるように喋ったつもりであった。

 それからは紆余曲折があった。妻が間に立った。妻は毅夫の話を私より先に聞いて、内心私の賛成を期待していたらしい。どうせあたしの方が後に遺ってあの子の世話になって暮すのだから、あの子の気に入らない事はさせたくない、と言った。私は黙っていた。妻は毅夫の社宅へ泊まりがけで出掛け、今の家を壊して、跡地に二世帯が階上階下に分れて住める家を建てる案を、大凡の費用分担まで含めて決めて来た。いいだろう、俺だって何もお前と二人きりでいたいわけじゃない、と私は言って、これでまた人に羨まれる種が増えた、と思った。気の優しい息子の家族と暮す安定した老後。まさにその通りに違いない。

問 傍線部には、「私」のどのような気持ちがこめられているか、説明せよ。

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