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2019/11 塾ジャーナルより一部抜粋

学力の3要素を求められる
抜本的大学入試改革へ
― 各大学はどのような対応をするのか? ―

株式会社 大学通信 常務取締役 情報調査・編集部
ゼネラルマネージャー 安田 賢治

 

2020年度の改革で
入試はこう変わる

 2020年度から大学入試改革が行われる。文部科学省の「学力の3要素」を基にした試験になる。学力の3要素とは「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に多様な人々と協働して学ぶ」の三つだ。今までの試験が知識・技能に偏っていたとし、この3要素を問う試験に変わる。入試の名称も変わり、一般入試が一般選抜、推薦入試が学校推薦型選抜、AO入試が総合型選抜になる。今までAO入試や推薦入試では、小論文や面接などでの選抜が推奨され、学科試験は課さないように求められていたが学力が必要になる。一方で、学科試験の成績だけで合否が決まっていた一般入試でも、高校時代の活動歴の評価が求められる。

 その中で、もっとも大きな改革の目玉は、大学入試センター試験(以下、センター試験)を廃止し、新たに大学入学共通テスト(以下、共通テスト)が2021年1月から実施されることだ。センター試験はすべてマークシートでの試験だったが、共通テストには数学と国語に記述式問題が導入される。

 数学は解答だけを書く方式だが、数式と短文で解答する。国語は大問が1題新たに設けられ、その中で記述式の問題が小問として3問出題される。字数は20~120文字の範囲内で書く。自己採点もでき、各問とも段階評価だ。小問は3段階のa、b、cで評価されるが、書き表し方にマイナス評価がある場合は*(アスタリスク)がつく。つまり、実質はa、a*、b、b*、cの5段階になる。a、a*は完全な正答とみなされる。この小問の成績を合計して、国語の記述式の評価は5段階のA~Eに集約される。例えば、小問すべてがaかa*の評価だとA評価になる。その中にb、b*の小問が一つあるとBになるというように評価は決まっている。各大学はA~Eを点数化することで評価するところが多い。マーク式の国語は今まで通りの得点なので、記述式の得点を加算して国語の成績とする。例えば、A段階40点、B段階30点……などとして点数化するわけだ。

共通テストの
外部英語試験活用

 英語も大きく変わる。英語の4技能(リーディング、リスニング、ライティング、スピーキング)重視になる。現行のセンター試験では200点満点の「リーディング」と2006年から新しく始まった50点満点の「リスニング」の試験が行われている。これがともに100点満点に変わる。リーディングが半分の点数になり、リスニングが倍の点数になる。ただ、各大学が配点を変えることは自由だ。

 その上に、今まで行われていなかった「ライティング」「スピーキング」の試験が加わる。この二つについては、民間の外部英語試験の成績を活用することになった。文科省の認可を受けたのは当初、ケンブリッジ英検、英検、GTEC、TEAP、IELTS、TOEFL、TOEICの7試験だったが、TOEICが参加を取り下げ6試験となった。高校3年生の4~12月の間に2回受けることができ、その高得点のほうを共通テストの成績とする。もちろん、何度も受けることはできるが、受検前に共通テストの成績とすることを表明することが必要で、それが2回しか行えない。何度も受けて高得点の成績を利用することはできない。各試験ごとに評価は異なるが、それを表のように国際基準のCEFR(セファール)の尺度で判定する。リーディングの試験もB1~A1の範囲で出題される。

 ただ、この外部英語試験利用については、問題点も多い。高校で実施することはなく会場試験になる。今年のセンター試験で英語を受験したのは約54万人にのぼり、2回受験したとすると108万人が受験することになる。これだけの人数を受け入れる試験会場があるのかという問題。さらに、英検は来年受検の申し込み受け付けを始めているが、予約金3000円を納めなければならない。受けない場合は返金制度があるものの、試験も始まっていない、11月中に返金を申し込まなければならない。これだけではない。離島部やへき地に住む受験生にとっては、外部英語試験を受けに行くために経済的な負担が生じてしまう。地域格差が生じることに懸念する大学も少なくない。

主体性等の評価は
どう行うのか

 この他にも学力だけでなく、学力の3要素の一つ「主体的に多様な人々と協働して学ぶ」を評価するために、「JAPAN e-Portfolio」(以下、JeP)というサイトが作られた。大学による実証実験が行われていたが3月に終わり、4月から「一般財団法人 教育情報管理機構」が運営している。

 このサイトに高校生が自ら活動を記録していく。「探究活動や課題研究に関する学び」として、実験、調査、論文、フィールドスタディ、プレゼンデータ、大学研究室訪問、コンテストの成果などを記録する。「課外活動や特別活動に関するデータ」として、部活動、ボランティア、生徒会、留学、各種大会の成績、資格・検定試験の結果などを証拠となる画像を添えて入力していく。高校1年生から入力可能だ。

 この入力内容の事実関係を高校の教員が承認する。出願のあった大学がこの活動歴を見ることができ評価する。文科省としては、こういった活動を通して、生徒が感じたことや気づきを書き込むことを求めている。大学としても、教員が書いた調査書より、本人が書いたJePを活用したい気持ちは強いようだ。ただ、生徒が評価に耐え得るだけの内容のあることを書いているのかどうかが問われるところだ。また、教員との結びつきがない高等学校卒業程度認定試験合格者や通信制の高校卒業生などは不利になるのではないかとの懸念もある。

各大学は入試を
どう改革するのか

 では、大学はこの改革をどう活用していくのだろうか。各大学の2021年一般入試の共通テスト利用方法が公表され始めている。まずは外部英語試験の成績の利用だ。文科省の調査によると、国立大でもっとも多いのが点数化して、共通テストの英語試験に加点する方式だ。33大学が実施する。点数は各大学によって異なる。

 それ以外では成績によって出願要件とするものも多い。つまり、大学が指定する成績をクリアーしていないと出願できないというものだ。A2以上としているのが25大学。東京大、京都大、名古屋大、大阪大、九州大など難関大だ。医学部だけA2以上と言う大学もある。高校が作成する証明書等の併用を行うのが東京大、京都大、名古屋大など。これは外部英語試験を受けられなくても、A2の英語力があると認められる場合に証明書で代替できる。

 次にA1以上が13校で、総合大学では金沢大、福井大、熊本大など。まだ、どう使うか決めていない大学もある。その中で、外部英語試験を活用しないのは、北海道大、東北大、京都工芸繊維大など。東北大は新たに加わる国語の記述式の成績も使わない。こういった大学は人気になりそうだ。

 私立大では、現行のセンター試験利用入試を大学入学共通テスト利用入試に代えるところがほとんどだ。国語の記述式を得点化するのか、などがこれから発表される。これまでセンター試験に一度も参加していなかった学習院大と上智大が、共通テストを利用する入試を実施する。

 大きく変える大学もある。早稲田大の政治経済、国際教養、スポーツ科学の3学部は共通テストを受検しないと受けられない入試に変わる。共通テストと大学独自試験などで合否が決まる。この他でも、上智大は共通テスト利用入試、共通テストと大学独自試験、外部英語試験のTEAPを利用した入試の3方式になる。TEAP利用入試は従来通りの入試だ。青山学院大も経済学部と一部の学部・学科を除き、個別試験で共通テストと大学独自試験で合否を判定する方式を導入する。また、立教大は文学部の一方式を除き、英語の試験はすべて外部英語試験の成績を使う。

 その中で慶應義塾大は今まで通りの入試を実施し、共通テストと外部英語試験の成績を入試に使わない。平成2年から始まったセンター試験は、初めて私立大の参加が認められ16大学が参加した。この時には慶應義塾大は参加したが、早稲田大は参加しなかった。ところが、令和3年に始まる共通テストでは、慶應が不参加、早稲田が参加と対照的な動きとなった。

 また、主体性等の評価では、国立大で筑波大が調査書を得点化するほか電気通信大、東京都立大(現・首都大東京)なども得点化すると公表している。その一方で、名古屋大のように使わないとしている大学もある。私立大では早稲田大、慶應義塾大、上智大などでは、出願時に自ら記入する方式を実施する。現在、ほとんどの私立大がネットでの出願にしており、そこに自ら主体的な活動について、記入できるようにする。しかも合否判定には使わず、入学後の参考にするという。ただ、これも大学によって対応は異なり、記入はなく今まで通りというところもある。

 そもそもJePを一般入試で使うとすれば、出願者の数で各大学の負担は変わる。国立大の中には千葉大のように志願者が1万人を超える大学があるが、前期、後期あわせてなので、実志願者はもっと少ない。大手私立大の法政大、明治大、早稲田大など、延べ志願者は10万人を超えているが、実志願者も5万人を超えている。5万人のデータを見て、しかも評価を短期間で行うのは至難の業だ。今後は検討が進められている調査書の電子化が実施された時に、JePが活用されるのではないかと思われる。現在、JePに参画しているのは25校にとどまる。ただ、志願者が多い限り、一般入試での活用は難しいのではないだろうか。

2021年入試は
どうなるか

 来年入試はセンター試験最後の入試となる。受験生は「浪人できない」と考え、安全に志望校を選ぶのではないかと予測されている。そうなると、2021年入試は浪人生が極端に少ない入試になりそうだ。

 2021年入試では、国公立大離れが文系を中心に起きそうだ。共通テスト受検は負担が増えるのが理由だ。理系は学費の問題があり、国公立大志向は強いが、文系の場合は学費の国私間格差はそれほど大きくない。国公立大受験を最初から諦める人が出そうだ。1979年に初めて共通一次試験が導入されたが、その前年の1978年入試では大手私立大がどこも志願者を増やした。この時と同じようになるのではないかと見られる。

 ただ、現状では、それほど不安になる改革ではないようにも思える。確かに、外部英語試験の負担は増えるが、記述式が入るといっても、それほどの長文を書くことを求められているわけではない。高校3年生も2年生も高校で学ぶ内容は同じだ。だから、問題の聞き方が変わるだけといっていいのではないだろうか。これは同じような問題を解くことで対策を立てることが可能だ。国語では問題文として実用文が出されているが、同じような問題文の練習問題を解けば、それほど恐れる必要はない。マーク式でも解答が複数ある問題が出されるが、慣れれば解ける。

 それよりも、やみくもに共通テストを恐れて、安全志向に走ってしまう方が問題だ。入試が混乱する時には「入れる大学・学部選び」になりがちだ。しかし、本道は「入りたい大学・学部選び」だ。入試がどう混乱しようとも、この考え方で志望校、学部を選んでほしい。

(11月号に掲載いたしました大学入学共通テストについて、文部科学省より2019年11月1日に英語民間試験、12月17日には国語・数学の記述式問題の実施を見送ることが発表されました)


●安田 賢治 氏プロフィール

プロフィール
兵庫県生まれ。灘中高、早稲田大卒業後、大学通信入社。現在、常務取締役で出版編集とマスコミへの情報提供の責任者。サンデー毎日、東洋経済など記事執筆多数。大正大学人間学部で非 常勤講師も務める。
著書に「中学受験のひみつ」(朝日出版)、「笑うに笑えない大学の惨状」「教育費破産」(祥伝社)がある。

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