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2019/5 塾ジャーナルより一部抜粋

中学受験と
2020年からの教育改革

 

教育評論家・放送大学非常勤講師 小宮山 博仁氏

 
     

1.中学受験の現況

 首都圏の中学受験生数は2015年から5年連続の増加で、受験率は10年ぶりに16%台になったと言われている(2019年3月)。ピークは2008年の16.6%で、2014年は14.1%まで下落していた。公立の中高一貫校が東京・神奈川・埼玉では、ここ10年でかなり増え、私立中学受験率が下がったと言われている。しかしここにきて何故私立中学を選択する消費者が増えたのであろうか。

2.中学受験を希望する親子が増えた要因

 来年2020年から小学校・中学校・高校という順に教科書が大幅に変わっていく。2024年以降は大学受験も、小・中・高の学習指導要領をもとにして入学試験を行うことが予定されている。

 大きな変更点は、英語教育、論理的思考を養うプログラミングの導入、道徳の教科化、コミュニケーションを活用したアクティブ・ラーニング(A・L)の導入などである。さらに教科横断的な授業や、学んだことの成果を確かめる試験問題の形式が3択や4択といった選択から、途中のプロセスがわかる記述式の問題に比重が移っていくことも明らかになっている。すでに私立中学のかなりの学校は記述式が増えているが、大学入試がこのような形式に変化していくので、大多数の子どもが受ける高校入試もかなりの影響を受けるに違いない。それだけでなく、小・中・高の授業が急速に変わっていくことが予想できる。

 特に英語は注目されている。同時通訳者で英語教育に造詣の深い鳥飼玖美子氏は次のように英語の新学習指導要領案を簡潔に紹介している。
『(1)外国語を通じて、言語の働きや役割などを理解し、外国語の音声、語彙・表現、文法を、聞くこと、読むこと、話すこと、書くことを用いた実際のコミュニケーションの場面において活用できる技能を身に付けるようにする。
(2)外国語でコミュニケーションを行う目的・場面・状況等に応じて、社会や世界、他者との関わりの中での幅広い話題について、情報や考えなどの概要・評価・意図を的確に理解したり、それらを活用して適切に表現し伝え合ったりすることができる力を養う。
(3)外国語やその背景にある文化の多様性を尊重し、聞き手・読み手・話し手・書き手に配慮しながら、自律的・主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

 高校と中学の目標の違いは傍線部分だけであり、それ以外は大きな違いはない』
(「英語教育の危機:鳥飼玖美子」<ちくま新書>)

 この流れでこれからの英語教育が実践されるとすると、今までの日本で英語教育を受けてきた大人(教師や親)にとっては衝撃であることは疑いないだろう。

 ゆとり時代の教科書は内容量を減らしたが、その反動で2010年以降は逆に大幅に増加した。増加したと言っても1970年代初めの頃の教科内容の量であった。今回は学習量は50年前に比べると同じぐらいか教科によってはやや少ないと言ってもよい。重要なのは学習量や学習項目が増えたことよりも、学習方法が大きく変化していくことであろう。

 今までとは違った学習法が導入される、しかも従来の「学力」とは違った何か別の「学力」がこれからの時代は求められるようだ、といったことを直感的にとらえたのが、高学歴層の家庭であったと思われる。この新しい「学力」または「能力」を身につけるには、今までの「学習法」では難しいことも、大学まで一生懸命勉強して、それなりの企業で安定した収入を得ている人々は、何となくわかっているに違いない。そのため多少なりとも余裕のある家庭では、近くに中高一貫の私立学校を選択するのは当然の成り行きかもしれない。今回文科省が本気で取り組もうとしている教育改革の要の部分は、グローバル化した社会で通用する「新しい学力・能力」である。しかし、3年程の短期間では簡単に身につかないことが、昔の丸暗記式の受験勉強をしっかりとしてきた親はよくわかっている。ではなぜ文科省は学力や能力に関した教育改革を強く行おうとしているのかを、次に考えたいと思う。

3.OECDのPISAのスタートが21世紀の「教育改革元年」である

 OECD(経済協力開発機構)は1990年代から、以前にも増して教育政策の提言をするようになり、2000年に国際的な学力調査PISAを始めた。15歳の子どもの読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーを測定する調査で、3年ごとに実施されている。2000年といえば日本ではエビデンスがほとんどない状況での「学力低下論争」が行われていたので、多くの教育関係者やマスコミが関心を持ち広く知られるようになった学力調査である。
調査の結果は2003年の読解力を除いて、すべての教科で常に上位を占め、従来の国際的な学力調査と同様日本の子どもの学力はかなり優秀であることが判明した。「日本の子どもの学力は低下した」という論調が多かっただけに、意外に思った方も多かったのではないだろうか。

 PISAはOECDがパリに本部を置いていることもあり「ピザ」と一般的には発音している。正式にはProgramme for International Student Assessmentと呼ばれている。このPISAが多くの教育関係者に衝撃を与えたのは、テストの結果ではなく、その問題形式であったことは、意外と知られていないような気がする。センター入試のような選択式ではなく、記述式の設問が多くあり、表やグラフを見て、そして文章を読んで「自分の考え」を述べたり、エビデンスをもとに自分の考えを書く問題が中心であったことだ。数学でさえ記述式の問題がいくつかあった。このような形式の問題は教科書はもちろん、入試問題にもあまり見られないものであった。

 このPISAの影響のもとに2007年から全国学力学習状況調査が始まったことを忘れてはならない。1960年代の全国学力テストと違い、A問題とB問題があり、さらに家庭の学習状況を調査する内容となっている。B問題がPISAを参考にして作成されていることは明らかである。このPISAや全国学力テストのB問題は、従来の学力では測定できない未知の「能力」を測ろうとしていると考えてよいだろう。2000年は21世紀の教育改革元年と言えそうである。

4.学力に対する見方が変化してきた

 知識の量が多いほど「学力は高い」と思われる傾向が1990年代まではあった。しかし知識と知識を合体させ、それから「新しい考え」を創造することが、より重要だと思われるようになった。知識と知識を結びつけて「知恵」にすることによって、すなわち知識を活用することによってイノベーション(Innovation)が生まれると考えてよい。従来のテストで測定されてきた「学力」とは違うもう1つほかの「能力」があるのではないかと考える人が増えても不思議ではない。OECDサイドから出てきた「コンピテンシー(Competency)」という言葉が広まってきたのは、もっと多様な「能力」を人間は持っているのではないかという発想であろう。今までの測定可能な学力や能力を「認知能力」、測定が難しい「非認知能力」という言葉を使い分けて、人間の全体の能力を把握しようという考えがある。子どもの場合認知能力とは、算数(数学)・国語・理科・社会・英語などの知識や問題解決能力及び活用型学力と呼ばれるものである。非認知能力は協調性・協働性、意欲、関心、態度、計画性、継続性、社交性、自尊心などである。

 OECDの教育提言の1つであるPISAの影響で、日本でも学力に対する見方が急速に変わってきている。ではなぜOECDや日本の文科省は「新しい学力観」にこだわるのであろうか。

5.グローバル化した社会で求められる能力

 グローバリゼーション(globalization)という言葉をよく聞くようになった。globeは地球を示す言葉で、「世界的な」という意味も含まれている。国際化という言葉があるのに、なぜあえてglobeなのかと訝る方もいるのではないだろうか。社会学や経済学の分野で使っているグローバリゼーションは、一般的には次のように説明されている。
「技術や経済の進歩によって人・金・物・情報が大量に国境を越えて移動していくことによる、大きな社会の変容を意味する。」(「教育社会学事典」丸善出版)

 国際化は国民国家の単位前提としているのに対し、グローバリゼーションは、国境を越えた超国家的レベルで世界を考えていると、とらえることができる。

 グローバル化した時代は、実は資本主義社会の疲弊による、行き詰まった社会でもある。成熟した社会での経済の停滞、貧困や食糧不足の問題、地球温暖化のような環境問題、民族や宗教の争い、といったグローバルなレベルでの解決しなくてはいけない難問が山積している。一方ではICTなどの科学技術の発展は、2乗に比例するかのように速い動きである。5年でICT関係の技術革新は激変している。最近ではAI(人工知能)の発達によって、人間の仕事の内容が変わってくることが話題になっている。今の小学生が社会に出ていく15年後ぐらいには、社会で必要とされない仕事が急速に増えてくると予測する研究者もいる。

 経済が停滞している状況下で、AIの発展により多くの仕事が消えていくことが現実味をおびてくると、将来に対して不安をいだく人々が多くなるのは当然であろう。それに立ち向かうには、まず自分自身の能力に磨きをかけなくてはならない、そう考える市民が増えてくるのが、グローバル化した社会である。ではOECDや日本の文科省は、何が目的で教育政策の転換をはかろうとしているのであろうか。

6.持続可能な社会を

 持続可能な社会(Sustainable Society)という言葉は2003年度版の中学の社会科の教科書にはなかったが、2011年度版には出ていた。しかもかなりのスペースを占めていた。それ以降、小・中・高の社会科や理科の教科書でよく目にする言葉となっている。また1990年代から地球温暖化をはじめとする環境問題に力を入れ始めたことが、社会科や理科の教科書を見るとよくわかる。

 これらのことを総合的に考えると、日本の教育界では21世紀に入るころから環境教育に力を入れ始め、2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに「グローバル化した社会」と「持続可能な社会」がワンセットで語られることが多くなったと推測できる。

 タイミングよく2015年にUNDP(国際連合開発計画)がSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を17項目発表した。

 これらの大きな流れのなかで2020年の教育改革が実行されようとしていることを忘れてはならない。今回の教育改革の目的は、グローバル化した時代で「持続可能な社会」を考える市民を増やすこと、と簡潔に述べることも可能であろう。

 しかし、現在の中学受験界も含めた教育議論は、受験制度の変更や記述式の入試問題への対策やアクティブ・ラーニングのような新しい学習法に目が行きがちである。グローバルな視点から現在の社会を見る目を養うことによって、なぜ今「持続可能な社会」が教育改革のキーワードになっているかを、我々はもっと議論しなくてはならない。そしてそのことを多くの消費者(主に子どものいる親)に発信していくのが、これからの塾業界の役目の一つであることは確かであろう。

7.これからの中学受験の課題

 従来のアチーブメント形式の入試問題は、知識や解法を覚えればある程度のところまで「到達」できた。しかし記述式や対話型の問題が増え、協力や協働といった学習法が学校で取り入れられ始めると、今までの進学塾の学習法は、2020年からの教育政策との乖離がさらに大きくなることが予想される。私立の中高一貫校の授業は、公立よりも早く変化に対応できる可能性は高いと思われる。英語教育、プログラミング、協力や協調とコミュニケーション能力が必要なアクティブ・ラーニングのような学習法、これらを積極的に取り入れ、6年かけてじっくり実践していくに違いない。

 どのような入試問題になるかで、中学受験の進学塾の勉強法が左右されるはずである。2020年からの教育改革の主眼は新時代に求められる能力を育む学習法の転換である。そのような時代に、クラス分けだけでなく座る席までテストの成績で順位を決める。各教室のカリキュラムが画一的に統一され、どこの教室でも同じ授業をさせざるを得ない大手進学塾。

 入試が近づいてくると1月は公立の小学校を休ませ受験勉強を強要する進学塾があるが、公立の小学校は一般市民の税金で成り立っていることを忘れてしまっている行為である。1人の小学生にどれだけの税金が使われているのかを知れば、受験に受かるために小学校を1ヵ月2ヵ月休むことを、普通の人なら躊躇するであろう。このようなことを多くの人が行えば、公教育が成り立たないことは明白である。

 現在でも関東から関西方面への「受験ツアー」があると聞く。東京方面から腕試しのような感覚で全国で一番難しい私立と言われている灘中に受験をしに行く小6生がいる。開成や麻布に合格すれば灘中に合格しても入学はしない小学生がほとんどである。20年以上前から東京の中学受験の進学塾のチラシに灘中など関西方面の難関校の名前が出ているのを見た方もいるのではないだろうか。

 2020年は、「持続可能な社会」にするための教育改革で、対話や協調性や社会性を重視した内容となっている。大手の中学受験塾が今まで行ってきた受験勉強法とはかなり方向性がずれていることは明らかである。くり返すが私立の中高一貫校は、2020年の教育改革を取り入れた教育を、それぞれの特色を生かして実践するであろう。良心的な私立学校は、先のような受験勉強をして入学してきた子どもを、心の中でひそかに「リセットしよう」と考えても不思議ではない。

 今までの中学受験の勉強法は実は公教育(公立・私立を含む)の学習法とかなり違っていたが、さらにその溝は広がる気がしてならない。高学歴の賢い親は先のような中学受験の問題点を知りながら通わせている。残念なことだが、通っている進学塾は単なる「通過点」と考えているからである。

 最後の節で、いろいろと中学受験の勉強法の問題点を拾い上げた。2020年の教育改革をきっかけに、少しずつ中学受験の勉強法の改革が進むことを願っている。

8.塾が社会的認知を得るチャンス

 これからの私立の中高一貫校は、富裕層中心に一層注目されるに違いない。2020年から始まる学習法の大幅な変更や、PISA型学力を意識した授業に臨機応変に対応できるのが、私立の強みと言える。

 この時2つの大きな問題を抱えることになることを忘れてはならない。格差問題と大手進学塾の学習システムである。前者は塾ジャーナルのコラムで論じているので、ここでは後者に関して簡潔に述べておく。

 難関私立中学の合格者数は、大手の進学塾が圧倒的に多い。そしてその進学塾の受験勉強システムは、先に示した通り今回の教育改革とはベクトルがかなりずれていることは明らかである。特に勉強法は180度違うといった場合もある。小学生に毎週テストを行い、決まったカリキュラムで全教室が同じ授業をする。このようなシステムに違和感を持ち、中学受験には参入しない大手塾もあると聞く。

 1988年に社団法人全国学習塾協会が設立されたことによって、塾はビジネスとしての認知を得た。その後文部省(当時)も塾の存在を認め、21世紀に入ると塾業界から何人かの国会議員も誕生し、政治的認知も得られた。しかし中学受験のような他の世界ではあまり例のない特殊なシステムは、まだまだ社会的認知は得られていないのではと考えている。親は心の中で「合格のための通過点」、私立学校は心の中で「リセット」とひそかに思っているのが普通の感覚ではないだろうか。今回の教育改革をきっかけに、特異な中学受験システムが徐々に2020年の教育改革の主旨に近づいていくことを願っている業界人の1人である。塾が真の社会的認知を得るチャンスが、今回の私立中学ブームではないだろうか。

             

■認知能力と非認知能力の関係
認知能力と非認知能力の関係を図で示すと次のようなイメージになる。
能力=全体集合(U)認知能力=部分集合(A)非認知能力=補集合(A(-))
A→算数(数学)・国語、理科・社会・英語などの知識や問題解決能力、活用型学力
A(-)→Aに含まれない能力、協調性、協働性、意欲、関心、計
画性、継続性、社交性、自尊心など

小宮山博仁(こみやま・ひろひと)
プロフィール

1949年生まれ。教育評論家。放送大学非常勤講師。最近は活用型学力やPISAなど学力に関した教員向け、保護者向けの著書、論文を執筆。
著書:『塾-学校スリム化時代を前に』(岩波書店・2000年)、『面白いほどよくわかる数学』(日本文芸社・2004年)、『子どもの「底力」が育つ塾選び』(平凡社新書・2006年)、『「活用型学力」を育てる本』(ぎょうせい・2014年)、『はじめてのアクティブラーニング社会の?(はてな)を探検』全3巻(童心社・2016年)、『眠れなくなるほど面白い数学の定理』(日本文芸社・2018年)、『眠れなくなるほど面白い数と数式の話』(日本文芸社・2018年)、『大人に役立つ算数』(角川ソフィア文庫・2019年)など。

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