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2018/11 塾ジャーナルより一部抜粋

~ 永遠に未完の塾学 ~

第27回 ⅠCT(アイ・シー・ティー)教育の暗黒面

俊英塾 代表 鳥枝 義則(とりえだ よしのり)
1953年生まれ、山口県出身。
京都大学法学部卒業後、俊英塾(大阪府柏原市)創設。公益社団法人全国学習塾協会常任理事、全国読書作文コンクール委員長等歴任。関西私塾教育連盟所属。
塾の学習指導を公開したサイト『働きアリ』(10,000PV/日)には、多くの受験生
や保護者から「ありがとう」のコメントが。
成りたい人格は「謙虚」「感謝」「報恩」…。

 学校の先生との会話で、「OA入 試。」と言ったら「AO入試です。」 と訂正され、「CIT教育、今盛んで すよね。」と言ったら、あきれ顔で 「ICT教育ですよ。」と修正された 無知な私が、今回は厚かましくもI CT教育について語ろうと思う。 ICT(Information & Communication Technology)とは、 「コンピューターやインターネットな どの情報通信技術のこと」、 「従来のI T(情報技術)に 「Communication(通信)」が加わっ た用語」、 「教育分野では、電子黒板やタブレッ トパソコン、デジタル教科書などデ ジタル技術全般を活用した教育をさ す」、 のだそうだ(『コトバンク』による)。

 2015年に佐賀県武雄市で全中 学生がタブレットを購入し、授業に 導入して大いに注目を集め、当地で も近畿大学附属高校がいち早く 2013年からタブレットを有効に 活用して全国から見学者が殺到した ことなどは記憶に新しい。

 また、九月、十月は塾対象の学校 説明会が開かれるシーズンだが、今 ではどこでも「わが校はICT教育 にも力をいれており…、」という言葉 を耳にする。

ⅠCT教育の長所

 学校や塾で、ICT教育の長所とし て挙げられている実践例としては、① 電子黒板やプロジェクター、パソコン、 タブレットなどのデジタル機器を完 備することで、②インターネットと接 続して検索や調査をすることが容易 となり、また、無線LANを使って 学校のサーバーとタブレットを連動 させ、学内の連絡や学習履歴、成績 資料の共有を効率的におこなえて、③ 今まで言葉や板書では伝達が困難で 時間がかかっていた教育内容を、豊 富な写真や図が活用できるデジタル コンテンツを教材にすることで瞬時 に理解させることができる、の三点 を挙げられるのではなかろうか。

 最初は新しいものを本能的に忌避 していた私のような年寄りも、今で は検証例や教育効果の立証はないも ののICT教育はいいものだと漠然 と思っているし、思わされている。

ⅠCT教育の暗黒面

 ところが最近、在米経験の長い二 人の方の論考を、それこそインター ネット上で目にして、私は驚愕する ことになる。

 最初、偶然目にしたのは畠山勝太 氏(ミシガン州立大学博士課程)の 投稿であった。

 それは、大意「アメリカでは、有 色貧困層の教育になんの効果もない テクノロジーの活用が進められる一 方、白人エリート層の子供はそんな 教育を受けることはない。これが、 EdTech の重要な側面である。」 (EdTech とは、「テクノロジーの力で 教育にイノベーションを起こすこと をさすビジネス用語」)

 そして、鈴木大裕氏(『崩壊するア メリカの公教育:日本への警告』(岩 波書店)の著者)

 「貧困地区ではテスト対策に特化し AIと非常勤講師を駆使した超格安 教育が広がる反面、アメリカのエリ ート達はテストとは無縁の全人教育 を質の高いベテラン教師から受けて いる。」

なぜ、貧困層にⅠCT教育?

 なぜ、貧困層だけにICT教育を 導入するのだろうか? 私は大いに 疑問に思って、さらに調べてみた。

 すると、前述の畠山氏の説得力あ る論証を見つけることができた。

 畠山勝太氏の論文『日本の教員配 置システムが優れている理由││過 度に分権化すると避けられない問題 点』によると、

 「日本の場合は、都道府県ないしは 政令指定都市の教育委員会が一括で 採用試験を行い、配置は教育委員会 が行う。」

 「米国の場合は、州よりも下の学区 レベルで教員採用が行われ、給与も 各学区が全額負担する。学校を異動 したい場合は、教員自ら別の学区の ポストに応募して採用されなければ ならない。」

 「そこでアメリカの教員は、経験を 積み、実績を上げ、教員採用市場で の交渉力が高まったら、環境が良く、 高給で、みんなが行きたがる学区の 教員採用に応募する。」

 「結局、環境の良くない学校にいる 教員は、基本的には経験の浅い人か、 能力が無くて良い学区に移れなかっ た人たちかの、どちらかになる。」

 アメリカは、家庭の所得や教育水 準によって居住地域も異なっている ことはよく知られている。

 畠山、鈴木の両氏は、アメリカで のAIによる教育、ICT教育は、能 力のない教師による低いレベルの教 育が顕在化しないように糊塗する手 段に過ぎず、ICT教育を熱心に導入 しているのは環境のよくない地域の 学校に限られていると証言している のである。

 その結果、ITを使った見かけだけ の低レベルな教育と、能力の高い教 師による高度な教育の差がますます 広がり、階層の固定化がさらに進んで、 努力次第で教育によって社会におけ る地位を上昇できるという理想は完 全に失われつつある。その大きな要 因がICT教育ということになる。

言われてみれば日本でも

 わが国でも、文部科学省の白書な どを見ると、地域間における教育格 差を解消する手段として、あるいは 過疎地の子どもたちに平等な教育機 会を与える方策として、ICTの活用 が推奨されている。

 今までは疑問を感じることはなか ったが、アメリカの現状を知った今、 文部科学省の施策も、教育技術の本 質を検証することのない弥縫策では ないかとの疑いを持たざるをえない。

 ICTでは代用できない、有能な 教師の採用や、現役教師の高度な指 導力の養成こそが本筋なのではなか ろうか。

 塾の人間である私も、今までいろ いろな教育機器に「騙されて」きた。 多くの時間とお金を使ってきたが、 それだけで成績が上がるような夢の 機器やシステムは皆無だった。

 結局、四十年をこえる年月を経て たどり着いたのは、塾の講師として の自分の技量を上げること以外に、 塾の信用を高めて親と子の信頼を得 る方法は絶対にないという結論であ った。

教師は最後に生徒の心となる

 では、AIをはるかに凌駕する、経 験を積み実績を上げたベテラン教師 の質の高い教育とはいかなるものな のだろうか?

 私などはベテランではあるが、自 分の教授法を「質が高い」などとは、 まだ恥ずかしくて口が裂けても言え ない。

 それを考えていると、産経新聞の コラム『素粒子』の中に、背筋をピ ンと伸ばしてくれる言葉を発見した。

 「将棋の元名人、升田幸三は、著書 の『王手』でこう説いた。」

 「師匠が弟子を叱るのは、基本を身 につけさせる段階までです。」

 「そして基本を出て、最後は、その 人の心になる。」

 弟子を叱るのは勉強に対する基本 を身につけるところまで、最後は学 んだ人の心になる。

 教えるものの本願を表現する、涙 が出るほど美しい言葉ではなかろう か。

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