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2018/9 塾ジャーナルより一部抜粋

通信制高等学校の可能性

 

土屋 和男

 
     

 学校といえば普通、全日制の学校をさす。しかし、最近は通信制の高等学校が脚光を浴びるようになってきた。通信制高校には、差別的にとらえている人も多いが、全日制高校よりもはるかに可能性が大きく、その成果が明らかになってきている。

拘束時間の少ない通信制高校は生徒本人次第で様々な可能性を実現できる

 通信制高校も、全日制高校と同じように、文部科学省の定めた学習指導要領に基づいて行わなければならない。卒業に必要な条件は3年間以上在学、74単位以上の科目の単位修得と30時間以上の特別活動が必修である。通信制高校の場合、学年制(留年あり)よりも単位制が多く、留年はない。各校で定められた開講科目を選択して履修すればよい。卒業に必要な単位の修得は学習指導要領に従っておこなう。すなわち、各教科・科目ごとに(レポートの)添削指導回数、面接指導回数(いわゆる必修スクーリング時間数)が定められており、その条件を充足しなければその科目の単位を修得することはできない。

 通信制は全日制に比較して、場所的に時間的に拘束する時間が少なく、生徒本人の自律性さえあればいろいろな可能性を実現することができる。以上が通信制高校についての一般論である。

 上記の原則を順守しつつ、学校設置者はそれぞれがもつ特色や可能性を利用して様々な通信制高校を経営している。

 公立の通信制高校――全日制と併設の場合が多い。生徒数が増えて独立して単独校になる場合もある。

 学校法人立の通信制高校――最初から目的意識を持つ単独校が多いが、通共通共通信制の好況ぶりを見て、当該学校法人の起死回生策として併設校として運営する場合もある。併設の場合、教職員の意識の切り替えが必要である。

 株式会社立の通信制高校――構造改革教育特区では、株式会社が運営することができる一方で、多用なカリキュラムを組むことができる。

 学校法人に対しては都道府県から教育にかかわる経常的経費について補助金を受け取る。また、その他の間接助成もある。株式会社立の場合、学校法人のような補助金は一切ない。世間一般では株式会社立の場合、異様と感じて低く見る人が多いが、事実は逆で、教職員に安易観がなく真剣勝負の学校経営が行われるので成果は大きい。

 学校判断の基準として、生徒の卒業率を聞かれる。当該学校の教職員の意識の相違というべきか、一般に公立よりも学校法人立、株式会社立の学校の方が卒業率は高い。

目的意識を持った生徒が多く各分野で才能を発揮する

 通信制高校の発足当初は高校卒業資格が全日制よりも容易に取れるという点だけが強調されていた。通信制にしか行けないという生徒というくくりをする人が多かった。不登校生、全日制の落ちこぼれが行く一段下のところと理解して通信制高校に協力する人も多い。しかし、最近は「通信制高校だから全日制に勝てる」と断言する森 和明相生学院高等学校理事長のような学校経営者もいるように現実は変わっている。森は続けて曰く、「通信制が単に全日制に行けない子供たちの受け皿で、マイナーな学校だというのは誤ったイメージです。自分の夢が実現できるのは全日制の学校よりも圧倒的に通信制だと自信をもって言えます。通信制は義務として登校しなければならない拘束時間が極端に短いから、自分の時間をたっぷりとることができる。自分のやりたい勉強を、スポーツを十分にやる時間があって、オンデマンドでいつでもどこでも日本のトップレベルの先生の授業が受けられるのです」。と述べておられる。ここでは授業内容の質の高さにまで言及しておられる。通信制高校は色々な産業界(例えば、食品業界、建設業界)と提携関係を結び、生徒の学力向上だけでなく技能習得、資格取得、授業料負担の軽減の推進にも積極的に貢献している。

 通信制高校のクラブ活動――特に体育系のクラブ活動については非常に活発である、学校の経営方にもよるが、最近は国内だけの競争相手ではなく世界を相手として競争する高い指導目標を掲げて指導をする学校もある。テニスについていうと、野球の甲子園に対して、硬式テニスは福岡県の博多の森で全国選抜大会が行われる。全日制、通信制の差別なく対戦するが、森理事長の相生学院高校は、そこでは優勝を繰返し、2010年には世界国別対抗戦「ジュニアデビスカップ」で日本初の優勝を勝ちとった。まさに世界を相手にして勝利したのである。テニス以外にボクシングでも活躍しており、また、ジュニアゴルフでもアメリカで開催された若手ゴルファー世界一を決める世界ジュニアゴルフ選手権大会で、相生学院の生徒が日本人2度目に優勝を勝ち取った。

 したがって、入学生も学校近辺出身者の通学だけでなく、遠方からも目的意識をもった生徒が入学してくる。指導内容も高度化しているので、いわゆるアウトソーシングで専門家に指導を任せている学校が多い。外部のプロテニスクラブとか、サッカークラブと提携している。

 生徒の進学率を向上させるために、進学予備校と提携する。もともと優秀な生徒が入学しているので、実績も上がりやすい。相生学院の例をまた引くが、アメリカのカルフォルニア大学バークレー校に合格している。世界大学 ランキング6位の超難関大学である。

 実際に多くの私学の通信制高校は生徒の学習に便利なように、機能的に提携していていわゆる資質向上のために外部人材のアウトソーシングで実績をあげている。つまり内部化するよりも効率的である。特に進学率の向上は当該通信制高校の名声を高め生徒募集に好循環の効果をもたらす。

通信制高校は時代の変化に対応した新しい学校形態である

 私は、通信制高校は全く新しいスクールモデルであると考えている。つまり既存の学校制度―全日制・定時制―とは全く違う発想が必要だということである。恐れずに言うならば、既存の日本の学校制度は崩壊過程にあるのではないかとさえ思うことがある。通信制高校は時代の変化に適応した新しい学校形態であると思う。社会が複雑化し、価値観が多様化する中で人々はますます忙しくなっている。それに応じて自由時間の価値は高まりつつある。通信制高校にはその自由時間が多い。「時間資本主義の到来」(松岡真宏著 草思社)といわれる今日、最終目標とする価値の高い自由時間の得やすい通信制高校は非常に魅力的である筈だ。人気の秘密はここにあると思われ、通信制高校はこれからもますます発展するであろう。

 公立高校を定年退職したのは今か26年前のことである。当時は、通信制高校は全国でも非常に少なかった。通信制は教育用語として定着している全定通(全日制・定時制・通信制の略式表現)の通り最下位として位置づけられているので、いまでも、差別的な視点で通信制のすべてを判断する人がある。全日制と同じように卒業資格が与えられるのかと疑う人も時にはおられる。同等の視点で見るべきである。最近はしかし、通信制の発展可能性を見通して、異業種からの参入も多く全国的に見ていろいろな特色を持つ通信制高校が出現し刺激的である。

 今ではほとんどの学校が海外語学研修を実施している。私は通信制高校に勤務していた時、日本で初めてニュージーランドのオークランドにあるマヌカウ工科大学と提携して2週間ほどの異文化理解の研修を実施した。その後オーストラリア、さらにロンドン・ケンブリッジのベルカレッジ(小泉元首相が昔留学したといわる)と提携して語学研修を実施した。

 通信制高校は多方面で多様な展開が可能である。

 私は1955年に卒業以来、公立高校の教員・管理職(37年間)、定年後、学校法人立の通信制高校(16年間)、株式会社立の通信制高校(7年間)、仏教系の併設通信制高校(3年間)で管理職として働いた。地域別、学校の設立母体の相違、時代の相違等いろいろ思い出すことが多いが、最も大切なのは生徒に寄り添うことであると思う。


土屋和男氏プロフィール

 1955年より公立高校勤務、各校の教諭・教頭・校長歴任・1992年、定年退職後学校法人立、2008年より株式会社立通信制高校の副理事長・校長として経営に参加、2015―18年3月まで佛教系の高等学校で併設通信制課程管理職として勤務。その間、外務省派遣講師として、キルギス共和国首都ビシュケクで企業幹部対象の「国際会計基準講座」講師、和歌山大学・四天王寺大学の非常勤講師を務める。

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