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2018/1 塾ジャーナルより一部抜粋

~永遠に未完の塾学~

第21回 老兵は死なず、ただ消え去るのみ

俊英塾 代表 鳥枝 義則(とりえだ よしのり)
1953年生まれ、山口県出身。
京都大学法学部卒業後、俊英塾(大阪府柏原市)創設。公益社団法人全国学習塾協会常任理事、全国読書作文コンクール委員長等歴任。関西私塾教育連盟所属。
塾の学習指導を公開したサイト『働きアリ』(10,000PV/日)には、多くの受験生
や保護者から「ありがとう」のコメントが。
成りたい人格は「謙虚」「感謝」「報恩」…。

 私は来年、六十五歳になる。一般社会では、以前は六十で定年退職だったが、今は六十五が普通であるようだ。世間に合わせると、来年が私の去り時ということになる。 だが、個人塾は自分が事業主であるから、自分の引き際は自分で決めるしかない。

老醜はハゲからはじまり…

 小・中学生は問題文中の大事な言葉は平気で見落とすくせに、大人の頭髪の変化に対してだけはすこぶる敏感である。

 私の場合、黒板に向かって塾生に背を向けたときの、「先生、わかってる?頭のてっぺん、やばいで。」攻撃が皮切りだった。

 身体のコンプレックスは気にしたら負けだ。開き直りこそが最大の防御となる。

 「知ってるよ、フランシスコ=ザビエルを目指してるんだ。社会の教科書を見てごらん、頭の頂上だけがつかっこええやろ。」で、何とかしのいだ…、つもりだった。

 一昨年のことである。中一の女子生徒を注意したら、「うっさい、このハゲェ!」と反撃された。彼女こそ、豊田真由子女史より一年も前にハゲなる語を超効果的に用いた先駆者ということになる。

 さらに歳をとると、頭髪に反比例して鼻毛と眉毛が異様に伸びるようになる。これがハゲに続くからかいの種になった。

 近年はもっと情けないことに、脇汗と、腋臭に始まる加齢臭が嘲笑のネタになっている。

 耳も遠くなってきた。何度も聞きなおしては、塾生に嫌がられる。

 眼も衰えてきた。見間違いで板書もしょっちゅう間違える。

 記憶力は既に無いに等しい。用事を思いついて事務所にもどり、「あれ、何をしに来たんだろう?」と、思い出せなくて教室に帰ることが珍しくなくなった。

 そろそろ辞め時かと、ふと思う瞬間である。

マッカーサーの有名な言葉

 こんなとき、かのマッカーサーの有名な言葉、「老兵は死なず、ただ消え去るのみ(Old soldiers never die,they just fade away.)」が頭をよぎる。

 終戦直後に日本を占領した連合国軍総司令部(GHQ)の最高司令官マッカーサーは、朝鮮戦争の勃発により国連軍の総司令官に転じ、北朝鮮軍とそれを支援した中国軍を北緯三十八度線まで押し戻した。しかし、膠着した戦況を打破すべく原爆による攻撃まで画策したため、トルーマン米大統領によって解任されることになる。「老兵は死なず」は、アメリカ上下両院で彼がおこなった退任の演説の一節である。 ただ、この言葉の解釈には諸説あって、定説はない。「老兵は死なず」に重きをおくか、「消え去るのみ」を真意と見るかによって、真逆の意味になる。

 おそらく、老いを自覚した者がこの言葉を思い浮かべるとき、ある者は「老兵は死なず」と唱えて、まだまだできると闘志を燃やし、別の者は「ただ消え去るのみ」と諦念して、ここが辞めどきだと引退を決意するのであろう。

先輩方の後ろ姿

 個人塾が、隆盛の絶頂でやめるということはまずありえない。

 私は、個人塾の団体である関西私塾教育連盟に所属している。今まで何人もの先輩方を見てきたが、退陣を決意された後、社員か、塾生を最後まで見届けての引退が多い。尊敬する先人である八尾の内田先生などは、古参社員が年金をもらう歳に達するまで会社を維持し、最後まで残った中三生一人の進学を見届けてから粛々と塾をたたまれた。男の中の男だと感じ入ったものだ。

 最後まで現役を貫かれた先輩方もおられる。先日、畏友の岡山先生から百歳を迎えられた大嶋先生を顕彰する会を開いたらどうかというご提案があった。連盟から感謝状を贈ることにしたのだが、大嶋先生は八十代後半に体の自由が利かなくなるまで、教室を開いておられた。

 つい最近、最後の卒塾生を送り出して塾を閉じられた学習塾協会の元会長の石井先生は八十五歳だが、まだ教え足りないようで、教室を無料開放し、自治体の要請にこたえて地域の中学生の面倒を見ておられる。

 先輩たちの背中を見て、いかにわが身を処すべきか?

いまだ夢と希望のゆくえを見ず

 実はマッカーサーの著名な言葉の前後には、あまり知られていないもっと感動的な言葉がちりばめられている。

 まず、「老兵は死なず」の前には、次のような言葉がある。「私が陸軍に入隊したとき、まだ世紀が変わる前でしたが、それは私の少年時代のすべての希望と夢が成就した瞬間でした。(When I joined the army, even before the turn of the century, it was the fulfillment of all my boyish hopes and dreams.)」

私はなぜ塾という仕事に
生涯従事してきたのだろうか

 最近よく思い出す幼年期の光景がある。私が生まれてすぐに父の経営していた会社が倒産したせいで、我が家は赤貧洗うがごとき生活を余儀なくされていた。丸い卓袱台だけの六畳の一部屋に家族が六人。そんな就学前の私が同年輩の子どもがいる近所の家に遊びに行って、よくした遊びが「勉強ごっこ」であった。着ているのは親戚のおさがりの襤褸服、引け目だらけで何も自慢するものがない私が唯一、勉強ごっこのときだけは「賢いね」と褒められた。その時の誇らしい気持ちが、今でも脳裏に焼き付いている。その時の誇らしさがどれだけ私を慰め、癒し、勇気づけてくれたことか。その気持ちを塾生にも体験させてあげたい、そうした思いがこの仕事を続けさせてきたのだと、今になってわかる。

 そんな境遇であったから、教科書以外の書籍は我が家にはなかった。小学四年生の担任であった小林先生は優しい先生で、私の窮乏を見かねたのであろう、学校に見本として出版社が送ってきた、教師用の解答が赤字で刷り込まれた問題集を一冊わけてくださった。その一冊にどれだけ惹きこまれたことか。たった一冊の宝物を何度も何度も読み返しながら、これが勉強するということなのかと感激したものだ。私と同じその感激を味わってほしくて、塾をしてきたのだなと、今は理解できる。

 しかし、私は全身全霊で、誉められることの誇らしさ、学ぶことの喜びを、悔いの残らないほどに子どもたちに分け与えることができたのか、顧みると、まだその境地には全然至っていないようにも思える。

神の導きのままに

 「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」の演説を、マッカーサーは次の言葉で締めくくった。

 「私はいま、私の軍歴を終え、消え去ります。神があかあかと照らし示してくれたわが義務を、ただ一途に果たそうと努力してきた一人の老兵として。(I now close my military career and just fade away, an old soldier who tried to do his duty as God gave him the light to see that duty.)」

 老兵は死なずにまだ夢と希望に向かって勇敢に戦い続けることができるのか、それとも与えられた義務を果たして静かに立ち去るべきなのか、それは人智ではなくて、神の御心が決めるということなのであろう。

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