決め手は充実した職業人人生
── 今年、創業35周年を迎えられます。永井専務はいつ頃入社されたのですか。
永井 正社員としての入社は創業から6年後の1988年ですが、その前から開成教育セミナーに居着いていました(笑)。
と言うのも、中学3年生のときに母親に無理矢理行かされた塾で、講師をしていた太田代表に英語を教えてもらっていたのです。その後、大学1年の夏休みに、太田先生が自分で塾を始めたと聞いて遊びに行ったのが、開塾して2週間ばかりの開成教育セミナーです。マンションの2部屋が教室で、狭いキッチンが事務室。ですが、事務員はおらず、先生が授業に入ると電話を取る人もいない。何か、手伝わなきゃいけないような気がして、コピーをとったり、生徒たちの自転車を整理したりして。そこから今に至ってる感じです。
── その流れで就職された?
永井 いえ、教職も選択肢にあったので、大学卒業後は塾講師を続けながら、自分の出身高校で非常勤講師も務めていました。
そうした中で、充実した職業人人生とは何かを考えました。一番は松下幸之助さんのように、自分で事業を立ち上げて大きくしていくことだと思いますが、自分にはそんな力はない。だったら松下幸之助になれなくても、支える人になろうと考えたのです。開成教育セミナーを開塾から6年間見てきて、太田代表は絶対にビジネスを大きくしていく人だと確信していましたし、実際に教室もどんどん増えていました。この仲間と一緒にもっと大きくしていきたいという気持ちで成学社に入社しました。
ただ、当時は今とは違い「塾に就職なんて論外」という時代でしたから、両親や親戚中から猛反対されましたが(笑)。
── 確信が見事に現実となったわけですね。入社後はどのようなお仕事をされたのですか。
永井 最初は高校生コースを担当して、その後、立ち上げたばかりの個別指導の担当になりました。
学校の成績を確実に伸ばすシステム
── 創業から右肩上がりの成長を続けてこられました。現在の売上高を教えてください。
永井 連結で109億円、成学社単体で104億円ぐらいです。塾生は2万5,000人。このうち1万3,000人がフリーステップの生徒です。
── 個別指導の競争が激化していく中で伸び続けている要因は何ですか。
永井 90年代初めの頃は、個別指導という形態自体が売りになっていましたが、個別指導塾が増えてくると、親御さんには他塾との違いがわかりません。このままではいつかダメになると思い、差別化を図ったのが「S−CUBE」システムです。
── 詳しく教えてください。
永井 学校の定期テストの点数を確実にアップさせるシステムです。個別指導は講師が一人ひとりの生徒に合わせて教えるので、その子が解けるような問題を選んで教えます。しかし、塾でわかったとしても、学校のテストはその生徒に合わせてくれないので、点数はなかなか上がらない。塾内の指導記録では「授業内容をよく理解した」となっていても学校のテストでは結果にならないわけです。生徒一人ひとりに合わせすぎる弊害です。そこで、個々の問題が「できた」のか「できなかった」のかを明確化するために、確認のラップテストをシリーズ化しました。これが「S−CUBE」の最初です。次にカリキュラムと教科書準拠のテキストを作成。どの講師が教えても一定の水準を維持できます。
── ラップテストの問題を解ければ、定期テストも大丈夫なのですか。
永井 うちの生徒が通っている中学390校の定期テストを分析して、カバー率88%、つまりラップテストが完璧にできれば、定期テストで88点とれるように作成しています。カバー率100点も可能ですが、そのためには特異な問題も入れなければならない。分量が増えすぎると、年間44週の授業では消化できません。分量とカバー率のバランスが「S−CUBE」の精度、つまりフリーステップの授業の精度を決定すると思っています。
── 「S−CUBE」システム導入の成果は?
永井 学校の成績が伸びると生徒が集まってきています。これは広告の成果でもありますが。
地域密着の広告戦略
── 広告についてお聞かせください。
永井 チラシに点数アップの実例を載せています。似たようなことは多くの塾でもやっていることですが、フリーステップのチラシには生徒と担当講師の写真、氏名、学校名、学年、通っている教室名、教科名とテスト名、上昇点数まで掲載しています。掲載するのは、15点以上アップした生徒の中から毎回30人です。
── フリーステップ全体から30人を選んでいるのですか。
永井 チラシの配布エリアにある教室から30人です。例えば、大阪の豊中市に折り込むチラシであれば、豊中市の教室から選びます。もし、豊中市に折り込まれたチラシに大阪市内の教室の生徒しか載っていなかったら、豊中市の教室は点数が伸びていないということになりますから。
── 大手塾なのにチラシは地域密着。説得力がありますね。全体では何人ぐらいの生徒さんが載るのですか。
永井 2016年の1年間で4,106件です。15点以上アップしていても、保護者の同意が得られず掲載できないケースもあるので、実際はもっと多くの生徒が該当しています。
── チラシの写真を見ると、皆さん本当に嬉しそうですね。
永井 実は、この広告の狙いは他にもあります。子どもにとってチラシに載るというのは「すごいこと」なんですね。地域の人が見ているから、学校や近所で反響がある。注目されて褒められます。普通の生徒は、そんな経験はほとんどありませんから、「もっと勉強頑張ろう」という動機付けになります。本人だけでなく、他の生徒たちも感化されます。
生徒だけでなく、お母さんも喜んでくれるので、口コミにもつながっていきます。ただし、教室長は大変です。チラシ配布内に8教室あるとすれば、1枚のチラシのうちの30人の枠を8教室で取り合うわけですから。
── 教室間の競争にもなるわけですね。フリーステップの生徒のほとんどは中学生ですか。
永井 うちの強みは、点数アップと大学受験。高校生が全体の半数近く、46〜47%を占めています。今年はフリーステップ生だけで、国公立に174名、関関同立に791名合格しました。これも数字だけでは信憑性が薄いので、チラシに名簿(氏名・教室名・高校名)を掲載しています。匿名希望も28%ほどいますが、その場合でも教室名は載せています。
── やはり地域ごとに分けて?
永井 大学合格実績は全域です。それぞれの地域には伝統塾が存在します。塾歴が長いだけでなく、生徒数も多いし、合格実績も素晴らしい。そのような塾と競争するためには点数アップの地域ネタだけでは勝負はきつい。しかし、関西全域の競争である関関同立大学入試791名はどこの個別塾にも負けませんから。
東京進出に加えて
保育事業と日本語学校に注力
── 創業以来、大阪を中心に関西で教室展開されてきました。2011年に一足飛びに東京に進出されたのは何故ですか。
永井 関西圏では成長余力がなくなってきたからです。上場企業として成長ゼロというわけにはいきません。
── いま東京は何教室ですか。
永井 開成教育セミナーも含めて23教室です。当初は生徒募集に苦戦していました。まず最初に出したのが、2011年3月。東日本大震災の直後ですから、計画停電で体験授業ができないことが多く、思うように入塾につなげられませんでした。それに関東ではネームバリューがないので、講師集めにも苦労しました。チラシも最初は東京での点数アップの実績がないから数がそろわない。関関同立大学受験も東京では使いにくい。関西で武器にしていたものが有効に使えませんでした。今は教室数も多くなってきましたから、点数アップ事例も安定して出るようになりました。
── 東京進出だけでなく、ここ数年で業種の幅も広げられていますね。
永井 以前から広告や飲食業も手がけていましたが、2014年に小学生の滞在型アフタースクール「かいせいこどもスクール」、2015年には保育事業を開始しました。今年4月からは海外からの留学生に日本語を教える「開成アカデミー日本語学校」がスタートします。
── その中で、今後拡大を予定されている事業は。
永井 保育事業と日本語学校です。認可保育園の開園は、保育所不足が社会問題となっている今がチャンスです。行政がもういらないとなれば認可が下りませんから。また、日本語学校は国際交流が増えるにつれて、さらに必要となってきます。
── 他の日本語学校との差別化はどうですか。
永井 学習塾が母体ですから、日本語だけでなく大学受験指導まで行います。
── 多角的な事業展開が次の成長への助走となりそうですね。永井専務はこれまで会社が成長していく中で、ナンバー2という太田代表を支える立場として心がけてこられたことはありますか。
永井 太田代表を支えるというより、常に顧客の期待に応えていくことで会社を大きくすることを考えています。
── 最後に学院長として、成学社の教育方針を教えてください。
永井 「野球を頑張ったけど甲子園に行けなかった。でも、野球からいろんなことを学んで、今の仕事に役立っている」という元野球少年の大人が世間にはいっぱいいますよね。受験勉強も同じです。仕事で役立っているのがボールの投げ方ではないように、方程式の解き方ではありません。努力の過程で得られるものが、将来の財産になります。努力の大切さや忍耐する心、簡単に諦めず挑戦すること、人のせいにせずに自立する心、そして周囲への感謝です。講師陣にこれらを生徒にきちんと伝えてくれるように指導しています。 |