自前教室を持たず、他塾や
幼稚園・保育園での出張教室
2010年創立した株式会社オフィス地球丸は、幼児教育に特化し、国立大附属小学校受験希望者をメインに指導する。神山代表は長年幼児教育業界に携わり、経営者としてはこの地球丸が初となる。他塾で勤務する中、国立小学校を受験する子どもたちのクラスを単発で担当し、そこで知り合った保護者の方々に徹底した聞き取り調査を行った。噂ではないリアルな情報を積み上げ、独立後、満を持して国立小学校受験クラスをレギュラー化した。
「創立当時は国立の情報が少ないというより、いろいろな噂が飛び交って本当のところがよくわからなかった。聞き取りをしていくうちに、受験当日の点数ではなく、行動観察や口頭試問から、人間性、いわゆる『子どもらしさ』を重視しているのではないかと感じられた。ただ、『子どもらしさ』をテクニックとして子どもたちに教えることはできない。スキルではなく“フツウ”でいいんだと今は思っています」
地球丸の最もユニークなシステムは「自前教室を持たない」こと。目的は授業料を徹底して抑えるためだ。他塾での委託授業の他、幼稚園や保育園の午後の空き教室を使用し、同園の子どもたちを対象に授業を行う。そのための宣伝は特にせず、幼稚園側がHP掲載や園内でのチラシ配布を行ってくれたり、お母さん方の口コミなどで参加者を募集したりする。最近では定員オーバーのため、参加できない子どもたちも出てきているという。
「現在160名の会員さんがいます。一つのクラスで定員は15名。私と2人の講師の3人で授業を進めています。今は個別指導が流行っているので、お母様方が『子ども15人は多すぎるのでは?』と心配されるのですが、筑波小学校は30人一度に試験をするんですね。それこそ大人数に慣れておいたほうがいいと思い、人数設定しています」
ここ数年の国立小学校の受験者数は横ばい状態。が、受験対策塾の受講者数はうなぎのぼりだ。今まで家庭学習で国立に挑んでいた層が塾に流れているためだという。この傾向は今後も続くと神山代表は見ている。
幼児教育は高額という
イメージのアンチテーゼに
「以前の幼児教育は、○○式とか△△メソッドと言われる理論に基づいた教育法が人気でした。私たちは逆に理論はいらないと思ってやっています。子どもに寄り添う、家庭に寄り添う。そんな普通のやり方です。今は理論より、『小学校受験は最終的に子どもをどこに連れて行ってくれるのか?』ということを問われます。『合格しますよ』なのか『その後もしっかり役立っていきますよ』なのか。行き先をしっかり見せてあげることも大事ですね。『受かる』ということに重きを置くより、その先を見据えたほうがいい。そのご家庭の一番いいところで勝負させてあげられるようにしたほうが、結果として先々まで喜んでもらえるのではと思っています。そういう意味では、私たちは長所伸展法ですね。
幼児教育は素晴らしいし、続けていると将来的に必ず何らかの益があると思います。ただし、今、良質な幼児教育が受けられるのは、やはり高収入のご家庭の子どもたちだけなんです。だから、このままだと教育格差も年収格差も埋まらなくなってしまうと思っています。幼児教育をやっていて一番怖いのはそれですね。あと、教育を受けてきた子とそうでない子が、公立学校で同じ教室になったら、教室運営がかなり難しいとも思っています」
そんな思いの中、一人でも多く幼児教育に触れてもらおうと、幼稚園で行う受験指導の場合は最高でも月(4回)1万円だ。その破格値に驚く人も多いが、そこは「従来のやり方とは真逆」を掲げる神山代表。本当に普通の人が受けられるようにしたいと力説する。しかも将来的にはさらに価格を下げ、裾野をどんどん広げていきたいと展望を語る。
また、幼児教育の教材は高額で有名だが、地球丸ではなるべく費用をかけずに教える方法を提案している。
「私たちがお母様方や幼稚園に常々言っているのは、どこかに行って高額なものを買わなくても、日常の中に使えるものはいっぱいあるということです。例えば、公園に落ちている枝ひとつ拾っても使えますから、と。教材費は年2回いただいていますが、それも各5,000円くらいです。やはり多くの人が参加できるようになるべく抑えています。場所によっては入会金をいただく場合もありますが、それもせいぜい1万円くらいです。
幼児教育はなぜこんなに高額になってしまったのかと思います。理由のひとつとして、やはり立地条件の良い固定の教室というのもあると思うんですね。だけど、そうじゃない方法を我々は模索しています。施設使用料、要は家賃をかけない方法でお客様に還元していく方法でやっていきます。社員は私含めて2人、スタッフ2人の4人で、いろいろな園や塾を回らせていただいています」
受験を考えていない子どもたちにも教えるが、授業内容も、保護者へのアドバイスも、受験希望者へのそれと全く同じだ。そのため、途中で受験希望へ転身する子どもや保護者にも対応可能だ。
保育園へ教えに行くと、本当にいろいろな家庭がある。そんな中で、キラリと光る子どもたちが多く、そういう子たちを埋もれさせるのは心底もったいないと感じるという。所得の差によって教育格差を作りたくないという思いから、裾野を広げていきたいと強く願う。
現在、活動の場は東京都のみだが、今後地域を広げていく予定だ。
「世間でいう『幼児教育は高額すぎて手が出ない』という概念のアンチテーゼになっていきたい。スイミングやリトミック、新体操などの習い事の同一線上にあるように、幼児教育を当たり前にしたい。誰でも気軽に行ける、幼児教育全体がそうなっていくといいと思っています」
従来にない挑戦を行っている地球丸の、今後の動向に注目したい。
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