10坪の教室に約100人
楽しく親しみやすい塾
マンションの1階にある堀川紫明教室。“軒に提灯”の外観が、塾らしからぬ雰囲気だ。
「居酒屋と勘違いして入ってくる外国の方もいらっしゃいます。子どもたちの自転車を見て、レンタル自転車屋と思われたりね」
教室内にはタヌキや骸骨・特撮ヒーローなどの置物も並ぶ。「ちょっと面白いでしょう。『あの骸骨は勉強を頑張りすぎて過労で死んだ子どもの骸骨や。可哀想なことしたわ』なんて作り話をしたりしてね。生徒にはまず、ここに来ることを『楽しい』と思ってほしいんです」。
10坪の教室内はブースで分けられ、講師1人対生徒2〜3人という個別指導がそこここで繰り広げられる。ブースといっても背の低い仕切りがあるだけ。声はもちろん、表情も丸見えだ。
「それがここの良さです。顔を上げれば全員見える、顔色もわかる。規模を拡大しない理由は、家のリビングで勉強しているような、この雰囲気を大切にしたいというのもあるんです」
自然に生徒同士の交流も生まれる。「この塾に来なかったら話すこともなかった子たちがコミュニケーションする、それによって人間関係の広がりができる。中3の受験生が一生懸命やっているのを中1や中2、小学生の子が見る。何も言わなくても勉強に対する意識が高まります」。
アルバイト講師の4分の1がOBであることも生徒の刺激になっている。大学生のお兄さん、お姉さんが数年前まで自分たちと同じように学んでいたことは、何よりの説得力を持つ。
「どうやって勉強したかというOBの意見が一番参考になっているみたいです」
そういったことも手伝い、同塾に通うと誰もが70点程度はとれるようになるという。しかも授業料は中学受験専門の大手個別の3〜4割安。子どもたちも「楽しんで」行っているのだから、保護者も大満足だろう。そのような塾の噂を聞き「おじいちゃん、おばあちゃんが『うちの孫を』と頼んでくることも多いんですよ」というのも頷ける。
生徒はとことん面倒を見る
気持ちは「用心棒」
生徒の学力が向上する理由はもちろん環境だけではない。アルバイト講師の質へのこだわりは、競争率5〜15倍という数字からも読み取れる。選ばれた講師たちは良き兄、姉のように生徒たちと接し、生徒・科目ごとに「担任」を受け持つことで、責任を持って指導にあたる。
講師を管理・監督する教室長の岡本久嗣教室長は「講師には生徒たちの成績を『いつまでにどれくらい上げるか』を常に意識するように言っています。生徒ごとに学習計画を立てさせ、それに沿って授業をさせています」と話す。
また、山本塾長の各方面へのきめ細かなサポートも強みだ。岡本教室長と密に連携し、月に1回実施する講師研修会では講師たちに具体的な要求を伝える。私学フェアや学校説明会などにもセールスマンのように足繁く通い、情報を集め、顔をつなげる。
「特に京都の中堅私立は面白い。あまり知られていませんが、特待生制度も充実している」
そうした中、成績が上がり、勉強に興味を持ち始めた生徒が、中学受験を考え出すのは意外なことではないだろう。山本塾長も「中間層をしっかり見てくれる中堅校で学ぶことは、生徒にとってプラスに働くのでは」と考え、学校との相性が良いと思われる生徒には受験を勧めるという。そういった経緯もあり、近年では、立命館、同志社、同志社女子、京都女子をはじめ、大谷、聖母女学院、京都文教、平安女学院(立命館コース)、精華(全額免除特待)、龍谷大学付属平安(全額免除特待を複数人)、今年度は学校改革で注目の花園に全額免除特待生を送り込んだ。
「私立の先生は顔を知っているので、こちらとしても安心なんです。何かあったら塾として意見もしますし、介入もします。代わりに文句を言うのも仕事、気持ちは用心棒です(笑)」
家庭の教育方針や
子育ての相談にも乗る
親しみやすい塾でありながら、その気になれば私立中学受験も考えられる。保護者からすればさぞかし使い勝手のよい塾だろう。
「最近では『公立はちょっとうちの子に合わない』という理由で私立を考える保護者もいます」
そういったときは家庭の教育方針まで詳しく話を聞いたうえで相談に乗る。
「保護者の方は私立についての所有情報にはばらつきがある。どの程度の知識をお持ちなのか、把握したうえで話をしていきます。当塾は学校の先生の子どもさんも多いんです。当塾の情報収集力を評価していただいているのかもしれません。嬉しい限りです」
そして、このような面倒見の良さは私立受験に限った話ではない。「ここは指導も個別なら、相談も個別。『学校の先生とうまくコミュニケーションをとれない』といった相談にも乗ります。不況になると、お父さんは仕事に追われ、子どもの教育にまで手が回らないことも多い。そこで、誰かお母さんの相談相手が必要になるんです」。
ここまでサポートを行う理由には「塾は核として『指導力』が必要だが、その周りの部分こそ大切」との山本塾長の思いがある。「私は異業種出身だから核がない。だからそこは岡本教室長に任せて、周りの部分を僕が充実させたいんです」。
とは言っても、実は山本塾長は教育者の顔も持つ。大手証券会社、会計事務所勤務という前職から、同志社大学大学院、京都学園大学の非常勤講師を務めているのだ。「大学で教えるよりも小学生の算数のほうが難しいですよ」と笑うが、保護者にとっては、そういったことも信用につながっているに違いない。
そんな塾長を「相手にどういうことを提案すれば良いかをすごくよく考える人間です」と岡本教室長は評する。だからこそ生徒数は増え続け、“求めずして”結果も出ているのだろう。
「最近はチャレンジ精神のある子どもは減った。そこそこやればいいかなというゆるい子が増えた」とも言われるが、出会いがあれば意識は変わる。それは保護者においても同様だろう。学びの価値が多様化し、選択肢も広がった現在だからこそ、トップ校への進学だけが正解ではない。同塾のように「生徒とその保護者にとっての正解は何か」を普段からコミュニケーションを図ることでとらえ、相手の欲するタイミングで適切な情報を届けることが重要ではないだろうか。 |