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中学・高校受験:学びネット

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2016/5 塾ジャーナルより一部抜粋

保護者の意識が変わる中学受験
未来教育研究機構 理事長 樋口 義人

     

 2016年度の中学入試は、時代の変革と要請に伴ったさまざまな要素が影響して、前年度までの入試と比較して、大きく変わってきた。
 今春、文科省の高大接続システム改革会議で「最終報告」(案)について報告があった。
 文部科学省は、2020年の大学入試改革に伴って、今までの「知識・技能」に「思考力・判断力・表現力」と「主体性・多様性・協業性」を加えて、学力の3要素を提示した。そして、大学入試の新しい形が報告されたが、記述式の解答方式が採り入れられる。
 今年度の中学入試では、この大学入試改革の方向性に沿った出題が増えた。そして、中学校の入試要項が多様化された。さらに、保護者の意識の変化が加わり、新しい時代の新しい中学入試の幕開けだったといえる。
 エピソードを交えて、報告する。

1.2016年度の中学受験結果

 首都圏の2016年度の中学入試は、2年連続で受験者数を増やした。これは、私立中学校への進学熱が確実に上昇してきていると言ってよい。

 推定受験者数は、4万3,700人(昨年比500人増)、受験率14・75%(同0・37%増)、約330校に延べ29万4,660人の出願があった【グラフ1参照】。1人当たりの出願数は6・75校を数えた。これらが、大まかな中学受験の概要である。

 しかし、受験者数とか受験率が増えたことよりも、中身の変化のほうが話題になっているのである。保護者の意識の変化、入試形態の多様化、出題される問題の変化、生徒の対応能力の変化、塾の新中学入試問題傾向への対応などと、全般にわたった変革は、中学受験もいよいよ21世紀の姿を現し始めてきたと言える。

保護者の意識変化

 脱偏差値・御三家(麻布・武蔵・開成・桜蔭・女子学院・雙葉)神話からの離脱・21世紀を乗り切る力を備えてくれる学校への志望上昇などと、大きく変化してきた。そして、2020年大学入試改革に対応を説明したりして、21世紀型の教育をアピールする私立中高一貫校への期待が高まっているのである。

 このように志望校決定の流れが、今までの価値観では説明できない動きを見せ始めてきた。本来、中学入試は誰にも拘束されずに受験できるという性格をおびているのであるが、その本来の姿を取り戻してきた感がする。それは、偏差値などこれまでのランキングの枠組から解き放たれ、自由・奔放な志望校選びの時代を迎えたように思える。各人が各様に志望校を決めていたのである。

 男子の志望は、2014年度では、冒険受験が減少し、確実な合格を狙う安全志向だった。御三家(麻布、武蔵、開成)、駒場東邦、海城、早稲田などのトップ校で応募者が減少した。そして、2015年度では一転チャレンジ精神旺盛で、麻布、開成、駒場東邦、桐朋、早稲田、攻玉社などへの志望者が増加した。

 しかし、2016年度の今年度は、麻布、武蔵、海城、芝、攻玉社、巣鴨、本郷などの応募者が増加し、開成、駒場東邦、城北、早稲田、早稲田大高等学院で減少というように、一定の傾向のようなものが見られず、多様な志望動向であった。

 女子校と一部の共学校は、サンデーショックの揺り戻しで、入試日程のほとんどが2014年度に戻るが、今年度の保護者の意識変化が影響して、今までにない受験地図になった。

 2016年度は女子も男子同様に多様な選択がなされたようだ。例えば進学校だから、伝統校だから、ミッション系だからなどというグループ分けができるが、今年の場合は、選択の理由がばらけていて、そのグループごとの人気の特徴は見当たらなかった。

入試形態の多様化が進み
まるで、百花繚乱状態

 従来の2科・4科目の入試に加えて、コース別(グローバル、インターナショナル、国際学級、ダブルディプロマ、医進・サイエンス、WILL入試など)、総合型(合教科型)入試、適性検査(PISA)型(86校に増加)、帰国生入試、英語(選択)入試(64校に増加)、中村中のポテンシャル入試、宝仙理数インターのリベラルアート入試などと、実に多彩であった。

 この中の一部には、低学年から進学塾に通っていなくても、挑戦可能な入試が行われていた。

 最も特徴的なのが適性検査(PISA)型入試で、なんと延べ7,000人以上が応募した。応募者数の上位校を見てみよう。@聖徳学園387人、A共栄学園246人、B開智日本橋学園196人、C郁文館165人、D佼成学園150人と続く。従来の、公立一貫校受験の肩慣らし・試し受験が減り、この適性検査型入試で私立中学に合格して、入学したいという受験生が増えた。

 また、総合型(合科型)の入試が人気を得ていた。光塩女子学院、品川女子学院、共立女子、十文字などが、記述式解答を求めるなどしながら、思考力・表現力を試す最新傾向の入試を行った。

インターネット(web)のみの出願校が
56校に増加した

 佼成学園、聖学院、成城、東京都市大付、獨協、日本大豊山、明法、浅野、鎌倉学園、サレジオ学院、逗子開成、横浜、鴎友学園女子、大妻中野、神田女学園、晃華学園、麹町学園女子、十文字、東京女学館、日本大豊山女子などが実施したが、今後も急速に増加する。受験側には便利な出願形態ではあるが、学校を訪問しないで受験している受験生がでてきた。大事な中学・高校教育を託すのだから、最低一度は訪問するなりして、学校を知る必要があると思う。ミスマッチを防ぐためにも。

2.中学入試の出題傾向が
「2020年の大学入試改革」に沿ってきた

 人工知能(AI)が大変な話題を呼んでいる。10年から20年後に日本の仕事の約49%が代替される。世界トップ級の棋士に勝ち越した。人工知能を使って創作した小説が、文学賞の1次審査を通過したなどである。

 また、今の日本の教育内容とそのレベルでは、世界を相手にした仕事の推進はとてもじゃないが無理であることは自明であると言われている。

 このような時代を迎えて、次世代に生きる若者に施す教育には、今回文科省が提唱しているように大学・大学入試・高校の三位一体改革が必要になってきているのである。文科省は『「知識・技能」の習得のみならず、知識・技能を活用して、自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し、成果等を表現するために必要な「思考力・判断力・表現力の能力」や主体性をもって多様な人々と協働する態度などの真の学力の育成・評価に取り組むこと』と発表している。

 中学入試の出題傾向が、この文科省の改革を先取りする形で変わってきている。

 新中2から2020年の新しい大学入試に臨むことになっていて、私立中学・高校は、それに適応できる教育に変えようとしている。そして、中学入試でもそのような新傾向の入試で選抜しようとしてきているのである。思考力・総合問題入試が多くの中学校で実施された。

 記述の回答方式が、国語はもちろんのこと社会科・理科でも増加している。そして、時事問題が社会科・理科で増えており、さらに国語でも合科型の出題が最新の傾向になっている。

 例えば、社会科の時事問題は過去最多で、首都圏の主要校の96%で出題されていた。テーマは、選挙年齢18歳以上に引き上げ、明治日本の産業革命遺産、新幹線開通、2016年の夏の参議院選などと続く。

 アクティブ・ラーニングを取り入れた教育の推進が文科省の主導で、いろいろな教育機関で叫ばれている。このような中学入試の出題傾向に対処するために、小学生にもアクティブ・ラーニングを取り入れた教育を施す必要が出てきたと言える。

 今年度の入試問題の一部を見てみたい。

 「十文字」では2月2日の記述式総合問題で、思考力と表現力をみる入試を行った。理科系と社会系問題が出題されていて、その社会系問題では、


【問】

そう遠くない将来、人工知能の開発が進み、単純な労働だけではなく、様々な仕事がコンピュータやロボットに取って代わられるとも言われています。あなたはどの仕事が人間の仕事として残ると思いますか。その仕事をひとつあげて、その理由を150字程度で説明しなさい。
(参考資料として、小学生・女子が将来なりたい職業が表で示されていた)


 同校のコメントは「結果は、人工知能と人間の違いを述べたりしながら、その理由付けをしっかり書いていた受験生が多く、白紙答案はいませんでした」ということでした。塾で、総合問題と記述の対策をして受験していることがうかがえる。

 「成蹊」の2月1日の理科で、いしいひさいち著の漫画「くるくるクロニクル」から、地震について考えさせる問題が出題された。


【問】

図7のマンガについて、以下の各問いに答えなさい。

新しくてじょうぶな家の中で地震にあったときCのような行動はまちがっています。家の中で地震に気付いたときには、どのように行動したらよいのか書きなさい。
(筆者註:解答用紙に20字位の記述欄)


 同校のコメントは、「採点担当者からの報告では、特に『国語』『理科』で明らかに問題文を読まないで解答している受験生が目立ちました。問題文を読んでいけば、自ずと答えを導き出せるような構成になっていますので、だまされたと思って始めのところから問題を読んでいってほしいです」。

 「高輪」では、国語の試験で問題文をしっかりと読まずに設問にとりかかったのか、何人かからの質問、「国語の問題なのに算数の問題があります」があった。

 2月2日B日程の、国語の出題文(長文の物語)の途中に以下の文章が挿入されていた。


【問】

図1のふりこの糸の長さを10センチずつ変えて、ふりこが一往復する時間をはかったところ、表3のような結果になりました。糸を80センチにして、おもりを引いてはなしたら、何回最下点を通過しますか。整数で答えなさい。


 これは「算数の難しい問題が解けない」という内容で、設問でも本文の部分を抜き出して書いてあったのだが、設問しか読んでいなかったようだ。

 成蹊中と同様に、本文をじっくりと読まないで、設問を先に読んで解答するくせのある生徒がいる。これは、ストップ・ウォッチで答え出しのスピードを競うような、塾の指導の悪い面が出た事例だ。進学塾での今後の新しい対応が必至といえる(図1は同別途)。

 ご参考までに、2016年3月、文科省の高大接続システム改革会議「最終報告」(案)から抜粋する。

高大接続システム改革の
実現のための具体的方策

〈改革の方向性〉
学習・指導方法の改善と
教員の指導力の向上

 これからの時代においては、「何を知っているか」だけではなく、「知っていることを使ってどのように社会・世界とかかわり、よりよい人生を送るか」という観点から、知識・技能、思考力・判断力・表現力等、人間性や学びに向かう力など情意・態度等にかかわるものの、すべてを総合的に育んでいくことが求められる。

 こうした必要な資質・能力を総合的に育むためには、学びの質や深まりが重要であり、課題の発見・解決に向けて生徒が主体的・協働的に学ぶ、いわゆるアクティブ・ラーニングの視点からの授業改善を図ることが必要である。

 

樋口義人氏 プロフィール

1942年生まれ。
「未来教育研究機構・NPO法人」理事長。ソニー・グローバルエデュケーション シニアアドバイザー。
中学受験界でのキャリアは40年以上にわたる。中学受験塾の「日能研」在職時は経営戦略の責任者として、常務取締役・公開模試事務局長など歴任。私立中学受験の大衆化に尽力した業界の重鎮である。
「日能研」を退社後は「首都圏模試センター」代表取締役を経て現職に。この度、「アクティブ・ラーニング」などの研究、教育現場への提言などを行う機構を設立した。
長年の経験と実践に裏打ちされた奥深い提言と面白い語り口は、中学受験界の“良心”として多くの支持を得ている。
著書は「中学受験の常識・非常識」(角川oneテーマ21)、ドラッカーに学ぶ受験マネジメント「がんばれ、さくら!」(遊行社)ほか

「未来教育研究機構(NPO法人申請中)」
理事長 樋口義人
〒169-0075 東京都新宿区高田馬場3-25-3
Tel: 090-2163-403103-6908-6596
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