普通の塾にはない
一風変わったスタイル
渡された名刺には、吉岡克志の表記の下にJimmy Yoshioka。こちらが戸惑っていると、「生徒たちにも、国籍不詳、年齢不詳と言われています」と吉岡塾長は笑った。塾内ではイギリス人と日本人のハーフ、戦争に行ったという噂もまことしやかに流れているらしい。
「以前はメーカーで働いていました。中東アフリカが専門だったんです」。そのような経緯もあって、今もジミーと名乗るのだという。「そうすれば、生徒たちは面白がって、家でもそれを話すでしょう。すると、家庭で会話が生まれる。そういう流れを作りたいんです」。
同じ理由で、吉岡氏をマンガチックなイラストにしたスポーツタオルやストラップ、クリアファイル、ティッシュペーパー、シール、ぬいぐるみなども作製している。「生徒たちが『こんなんいらない』って笑いながら嫌がるんですよ」。
どうやら知Q塾は他の進学塾と様相が異なるようだ。
「塾の理念は『夢ふくらまそう』です。常に夢を持ち、その夢を当塾でふくらませてほしい。そのためには学力はもちろん、人間力も高めなくてはいけません。世界で通用する『地球人』となるきっかけをここでつかんでほしいのです」
一般に国際人というと「国際」の言葉の定義にこだわる人が多い。だが、吉岡塾長は「言葉の問題ではなく、同じ地球に住むものとして、どこでも誰に対しても対等でありたい。生徒たちにもそうあってほしい」と考えている。
だからこそ、生徒がお客さん化しているといわれる今の時流においても『吉岡流』を貫く。「宿題を忘れたら叱る。2週間以上、無断で休んだら退塾にする。友達感覚で授業は受けさせません」。
それは、教える側と指導を受ける側が対等であるべきだという考えに基づく。
「最近の塾の先生は生徒たちに好かれようとする。でも、子どもたちにとって、本当にそれで良いのでしょうか?」
知Q塾では生徒にやめられるのではなく、やめさせるほうが多い。それでもクレームが来たことは一度もない。「親御さんから謝られたことはしばしばありますが」。
生徒募集に関しても同様の姿勢だ。体験レッスンに来ても勧誘は一切しない。住所や電話番号すら聞かない。「3回くらい来た子は必ず入塾します。来たければ来るんです」。このやり方が時代に逆行していることは十分わかっている。それでも悩み抜いた末、「自分がやりたい塾をしよう、自分が塾を楽しもう」との思いに行き着いた。
「今まで、2度ほど考え方がぶれて、意図的に生徒を増やしたことがあるんです。でも、生徒への目配りができない。相談にも乗ってやれない。気付いてもやれないんです」
その経験を思い返すと「もうぶれたくない」のだという。「年齢的にも後10年。このスタイルが受け入れられず、生徒が来なくなったらそれも仕方ない。自分にとって毎日がとても充実しています」。
●指導のポイント
教える側と指導を受ける側が対等であるべきだという考えから、人として大切なこともしっかりと教える
個別指導塾だからといって
優しいだけの教え方はしない
8年前に独自の方針でやっていくと決めて以降、学習指導にもいっそう熱が入る。「体験に来た子には『しんどいよ』って前もって言っています。体験のときにはむしろきつめに指導します」。そう告げるだけあって、どんな生徒でも成績を伸ばすのだという。
「夢を実現するには、どこかの時点で必ず努力をしなくてはいけません。生徒には『今が理屈抜きに努力するときだ』と言っています」
そこまでさせるのには、教え始めたときの経緯がある。もともと教師志望だった吉岡塾長はその思いが強まり、メーカーから福山の塾へ転職をした。「教えてみたら、めちゃくちゃ楽しい。でも、生徒のレベル差にがく然としたんです」。
生徒に「わかったか」と尋ねると「わかりません」と返ってくる。「ふざけているのかと思ったら、本当にわかっていなかったんです」。
そこで吉岡塾長は、生徒たちに「何がわからないか、どこまでならわかるかをとことんヒアリングをしました」。そして、弱点を丁寧に見直すことで、徐々に成果が出るようになる。「やれる」との自信を得て独立をしたのは、40歳を前にした時だった。
満を持して始めた塾は、他塾がやらない塾を目指した。コンセプトは「塾らしい予備校、予備校らしい塾」。「普通のおじさんが教えているようで、内容は最先端。でもやっぱり丁寧に面倒を見てくれるという感じにしました」。
開塾3年目には、近隣ではどこもやっていなかった代ゼミサテライン予備校を取り入れた。
「当時は『ビデオじゃ成績は上がらない』と高校の先生などからたくさん嫌味を言われました。でも、生徒たちには好評で、京大・阪大・早慶に合格するような生徒も出た。最後は東大にも入ってくれました。正直、お金の面で大変でしたけど、私の『何とかこの井原市という地方から、早稲田や慶応に』という夢をかなえてくれました」
お金にならない経営スタイルは今も続いている。例えば、少数定員制、個別指導で週5日まで、何時間でも月謝は定額など。「自慢じゃないけど経営的には厳しいですよ。でも、お金に重点を置いてしまうと『夢ふくらまそう』という自分のゴールと違ってしまいますから」。
これからも、このスタイルで生徒の学力を伸ばし、夢をかなえたいと吉岡塾長は笑顔を見せる。「それでええが。塾ですから」。
●運営のポイント
目的のためなら出費をいとわない。生徒の学力を上げるために必要なときに必要なものを採用する
塾は生徒の夢につながる場所。無駄な思考を落として、シンプルに向き合う
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