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2015/11 塾ジャーナルより一部抜粋

大学入試改革が教育界に与える影響とは?

  株式会社 大学通信 常務取締役 情報調査・編集部
ゼネラルマネージャー 安田 賢治
 
     
 唐突な提案に思える大学入試改革だが、そこに至る経緯はある程度、理解できるものだ。高校教育、大学入試、大学教育の三位一体の改革を目指すのは、現状の大学入試を見れば頷けるところでもある。学士として卒業する大学生に、本当にそれだけの力があるのか疑問に思う人は多いのではないだろうか。進学率が5割を超えているからは理由にならないだろう。入口である大学入試が、本来の機能を果たしていないことにあるとの考えから改革が実施される。

今、なぜ
大学入試改革なのか
その背景を探る

 表1の「受験生人口推移グラフ」を見てほしい。1992年をピークに少子化が進み、18歳人口減少が続いている。志願者数と入学者数の差はほとんどない状態だ。92年は志願者が92万人、入学者が54万人だった。それが今年は志願者は66万人で、92年に比べて28%減。一方、入学者は62万人で15%増。競争率(志願者÷入学者)も1.7倍から1.06倍にダウンしている。まさに大学全入時代到来だ。

 志願者が減って入学者が増えたのだから、大学には入りやすいのは当たり前だ。では、なぜ入学者が増えたのだろうか。そのもっとも大きな理由は、92年と比べて大学数が1.5倍の779校に増えたことだ。それ以外にも短大を4年制大学の学部に改組したり、夜間部を廃止して昼間部に学部を新設した大学も多い。大学の入学定員は92年と比べて、今年はおよそ11万人分、23%も増加している。

私立大の定員割れは43%で
名ばかりの入試が増加

 この先も18歳人口減少に歯止めはかからず、2018年問題と言われるように、2018年以降よりいっそう18歳人口は減少する。大学にはますます入りやすくなる。受験生にとっては喜ばしい状況だが、大学にとっては入学者確保に苦しむ氷河期に突入する。

 特に厳しいのが私立大。国公立大はやはり学費の安さもあって人気が高いままだ。表2の「私立大の定員充足率別大学数の推移」を見てほしい。今年の定員割れの私立大は43%にも上っている。2005年には30%を切っていたのだから、急速に定員割れの大学が増えていることがわかる。今後、少子化が進み、この割合はもっとアップすると見られ、私立大の淘汰が一気に進む恐れもある。

 大学は定員を充足してこそ経営が安定する。そのため、募集の厳しい大学では入試の軽量化を図り、入試のハードルを下げることで、入学者を増やしていこうという戦略をとる。学科試験を課さない推薦やAO入試で、入学させるケースが増えている。

 先頃、国立大学協会から、今後、推薦やAO入試での入学者割合を3割まで増やすと公表された。東京大が今年から初めて推薦入試を実施するが、定員は100名程度で入学定員の3%ほどに過ぎない。一方、私立大の推薦入試やAO入試の入学者は、全体で5割を超えている。今や一般入試での入学者は5割を切っている状況だ。

 国立大の推薦入試やAO入試は、センター試験を課しているところが多く、学力担保がなされているが、私立大では学力試験を課す推薦やAO入試を実施しているのは少なく、多くは小論文や面接だけで合否を判定している。そのため、学力の低い学生が合格している可能性が高い。文科省はある私立大の「受験生と大学の同意に達したら入学を許可」の入試方式に対し警鐘を鳴らしている。また、大学の正規の授業で中学生の英語から教える教育に「大学の教育水準に達していない」と指摘している。そのため、高校生がもっと学力をつけて、大学に進学させたいとの考えが強くなっている。それが大学入試改革につながっている。

2020年以降に行われる
新テストはどう行われるのか

 「基礎的な知識及び技能」「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」「主体的に学習に取り組む態度」の「学力の三要素」から構成される「確かな学力」を育むために、大学入試改革が行われる。

 2020年から実施予定で、今年の中学1年生から新テストを受検することになる。大きな目玉はセンター試験の廃止。新テストは2つあって、ひとつが「高等学校基礎学力テスト」(仮称)で、もう一つがセンター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)だ。

 高等学校基礎学力テストは高校2年生から受けられるため、2019年から年2回実施される予定だ。高校卒業までに4回受けられ、文科省関係者によると「複数回受けることで成績の伸びを実感し、学ぶ楽しさを感じてほしい」という。主に専門学校に進学する生徒や就職する生徒を対象に実施される。大学も入試に活用していいが、19〜22年に実施される成績は大学入試には活用できない。教科は国語、数学、英語になる。

 一方、大学入学希望者学力評価テストは複数回実施とされてきたが、当面は1回だけとなりそうだ。センター試験がマークシートだけでの実施だったが、新しい試験では記述式問題も出題される。20〜23年は短文記述式で、24年以降に長文記述式問題も出題するとなっている。しかも出題は「教科型」「合教科・科目型」「総合型」を組み合わせて出題され、やがては「教科型」の出題をなくすという。「合教科・科目型」はわかりにくいが、「言語」として国語と英語を一緒に出題したり、科学として理科全科目からの出題など、科目を横断した出題になる。センター試験より科目数を減らすと発表されている。社会では歴史的思考力、英語は4技能(読む、聞く、書く、話す)、数学と理科を融合した新科目「数理研究」の出題を想定している。さらに、CBT方式(パソコンやタブレットなどで解答)で実施するとしてきたが、これは2024年からになる。2024年に先延ばしされるものが多いが、これは2024年から新学習指導要領の改定による入試となるからだ。今年も新学習指導要領に基づく最初の入試だったが、さらに次の学習指導要領改定実施後に、入試が大きく変わることになる。

入試改革の狙いはわかるが
実施には問題が山積み

 こういった文科省の改革の狙いはわからなくもない。縦割りになりがちな各科目の垣根を低くして、各科目や教科を横断的に出題し、知識に偏重した出題ではなく、考えさせる入試にしていくということだ。記述式の出題も思考力、判断力、表現力を測る意味では欠かせないだろう。

 ところが、問題点はたくさんある。まず大きいのが、このテストの点数を公表せず、段階別表示にすることだ。10段階以上と言われているが、これには大学の反発が大きい。現在、国公立大ではセンター試験によって2段階選抜を行っている。東京大の文系では定員の約3倍を超えるとセンター試験の成績で合否を決め、不合格になると大学独自の二次試験を受験できない。段階表示でそれが可能なのかということだ。例えばAから順に段階別になった場合、東京大がA段階としても、それが定員の5倍に当たる志願者があった場合、全員に二次試験を受けさせることができるのかという問題だ。

 さらに、私立大でもセンター試験利用入試を実施している。センター試験の成績だけで合否を決める方式で、地方の受験生はわざわざ大学に受験しに行かなくてもよく利用しやすい。私立大一般入試志願者の約3割を占めるほどだ。これが実施しにくくなる。はっきりと得点で合否ラインを引けず、想定以上の合格者数となり、入学者超過になりかねない。段階別評価では使いにくいのだ。

 次に問題となるのは、新テストの得点に加えて行われる大学独自の試験の内容だ。文科省は図1のような試験を推奨している。つまり、学力試験に関しては大学入学希望者学力評価テストを使い、二次試験として小論文、プレゼンテーション、集団討論、面接などを行うとのことだ。しかし、志願者が多かった場合、これが実現できるのかということだ。今までの推薦、AO、一般の入試区分を廃止し、この二次試験を勧めるが、志願者が桁違いに多い私立大での実施は事実上、不可能だろう。

 さらに、実施時期も問題だ。短文とはいえ記述式問題が出題される以上、今まで以上に採点に時間がかかる。そうなると、来年のセンター試験は1月16、17日に実施され、国公立大の出願は1月25日から始まり、わずか中1週で出願開始となっているが、新テストでは無理だ。入試を遅く実施するか、あるいは新テストをもっと早く実施せざるを得ない。そうなると高校3年の授業に大きく影響することになる可能性が高い。

先を見越して動き出す
新テストを睨んだ入試

 こういった実施についての問題点は他にもあるが、すでに新テストを睨んでの入試の動きも出てきている。一つは新テストでは英語の試験の代わりに、民間の検定試験や資格試験を活用することを認めている。

 今年から、上智大が一般入試で初めて民間の検定試験であるTEAP(Test of English for Academic Purposes)を利用した新方式入試を実施した。TEAPは上智大と英検が開発した入試のための検定試験で複数回実施されている。この試験の成績が上智大の各学科が定める基準点を超えていれば、国語と選択科目の2教科で合否判定される方式だ。今年の志願者は9,106人、実質競争率は7・5倍で、大学全体の5・6倍を上回る高い競争率だった。来年は立教大、法政大、関西学院大、近畿大など、多くの大学でさまざまな民間の検定試験の成績を英語の試験の代わりにする新方式入試が実施される。今後、この方式を実施する大学は増えると予測され、さらに新テスト導入に向けた新しい入試方式が実施されていくと見られる。

 一方、新テストへの不安が大きいのが中学受験の保護者だ。現在の中学1年生から新テストを受けることになるからだ。そのため、来年の中学入試では大学付属校の人気が久々にアップしそうだ。付属中に入学させれば、大学入試を受けずに内部進学できるわけで、どうなるか見えない新テストを敬遠する動きと見られる。

 今後、新テストはどうなっていくのか予断を許さないが、現行課程では概ね教科型学習は続くわけで、入試だけが変わると考えたほうがよさそうだ。必要以上に不安を感じることなく、対応していくことが求められるのではないだろうか。

安田 賢治氏プロフィール
1956年兵庫県生まれ。灘中高、早稲田大卒業後、大学通信入社。現在、常務取締役で出版編集とマスコミへの情報提供の責任者。サンデー毎日、東洋経済など記事執筆多数。大正大学人間学部で非常勤講師も務める。
著書に「中学受験のひみつ」(朝日出版)、「笑うに笑えない大学の惨状」(祥伝社)がある。

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