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2015/3 塾ジャーナルより一部抜粋

―塾の原点―
より成果を出すために教材選びは慎重に

 

PS・コンサルティング・システム 代表 小林 弘典
PS・コンサルティング・システムの代表を務める学習塾経営コンサルタント。学習塾の個別コンサルティングを主業務とするかたわら、講演・執筆活動の他、塾経営者の勉強会「千樹会」「伍泉会」なども主宰している。塾ジャーナルでは「塾長のマンスリー・スケジュール」を連載中。

 
 1月8日(木)、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された全国学習塾協同組合主催の「塾教育総合展」を皮切りに、新年度採択に向けたこの春の教材展があちこちで始まっています。私も毎年いくつかの会場に足を運ぶことにしていますが、今年はどうも様子がおかしい。どこでも一部、活況を呈しているブースはあるものの、全体的にはなぜか雰囲気が重い。

重かった雰囲気

 昨年5月に東京ビッグサイトであった「教育ITソリューションEXPO」の印象も同様でした。主催者発表によると来場者2万7,002人、出展者581社。大規模な展示会だったにもかかわらず、さほど熱気や活気を感じ取ることができませんでした。教材展もEXPOも来場者数、出展者数ともに例年以上ということですから、関係者の関心が薄いというわけでないことは言うまでもありません。昨年春あたりから、教育界や塾業界全体になにやらどんよりしたものが漂い始めていて、それが続いているということなのでしょう。

 では、それはなんなのか。とりあえず結論を申し上げておきますと、私はそれは教育現場にある「戸惑い」ではなかろうかと思っています。

 周知のように、2013年10月の教育再生実行会議の提言に続き、昨年12月に文科省の中央教育審議会の答申が出て、「高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革」の方向性がほぼ確定しました。大学入試センターの試験を廃止し、それに代えて高校在学中に「高等学校基礎学力テスト」と「大学入学希望者学力評価テスト」(いずれも仮称)とを実施するという例の改革案です。

中教審の改革答申

 「一体的改革」ですから、もちろん大学入試の改革だけが目的ではありません。簡単に整理しておきますと、中教審ひいては政治・行政が目指す学校教育の目的は、子どもたちの「生きる力」を育むことにあります。その「生きる力」とは「豊かな人間性」と「健康・体力」と「確かな学力」の3つを総合したものと定義づけられていますが、入試にかかわるのはこのうちの「確かな学力」で、これは「基礎的な知識及び技能」と「それら(基礎的な知識及び技能)を活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力等の能力」と「主体的に学習に取り組む態度(主体性、多様性、協働性)」の3つ(学力の3要素)からなるとしています。

 そこで大学入試では、1つ目の「基礎的な知識及び技能」を「高等学校基礎学力テスト」で評価し、2つ目の「課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力等の能力」を「大学入学希望者学力評価テスト」で評価し、3つ目の「主体的に学習に取り組む態度」を「個々の大学の2次試験」で評価して選抜するのがよろしかろうと主張しているわけで、確かに理屈としては筋が通っています(「基礎学力テスト」は、「基礎学力の証明や把握の方法の1つとして、AO・推薦入試が本来の趣旨・目的に沿ったものとなっていないなど、入学者選抜が機能しなくなっている大学において、その結果を用いることも可能」という程度の扱い。必ずしも選抜のための試験として想定されるわけではない)。

わかってはいても…

 しかし、筋が通っていることは理解できるとしても、学校現場や塾現場で今すぐ、その3要素の涵養に十分対処することができるかどうかとなると、これは甚だ難しい。9割9分の現場では、基礎的な知識や技能の習得指導にさえ汲々としているのが実態です。そうした現場から見れば、これはどこの世界の話かということになっても無理はないでしょう。「お説はごもっともですが、できるかどうかは…」というところから「戸惑い」が生じることになります。「政治・行政」と「学校現場・塾現場」との間に大きな認識の差があるといってよかろうと思います。

 とはいうものの、現場が戸惑っている、困惑しているからという理由で政府・文科省が引き下がるかというと、今回に限ってはそれもまたありえないことだろうと思われます。

 図@をご覧いただけますでしょうか。国立社会保障・人口問題研究所が12年に予測した日本の将来推計人口(出生・死亡ともに中位の場合)です。12年時点で1億2,770万人あった人口が27年には1億2,000万人を、38年には1億1,000万人を、47年には1億人を切ってしまうと予測されています。

 人口減少の問題は、たびたび少子高齢化の問題と結び付けられて論じられていますが、問題はそれだけではありません。

 人口が減るということは、国内市場が縮小するということでもあります。ちょっと古いデータですが、次に図Aを見ていただきましょう。OECD(経済開発協力機構)が05年に作成した、世界のGDPに占める国別シェアの推定値です。こちらは11年に7%だった日本のシェアが30年には4%に、60年には3%に落ちてしまうと推計されています。

 もっと困ったデータもあります。図Bに示したIMF(国際通貨基金)が作成している、国民1人当たりの名目GDPの世界ランキングの推移です。01年まではIMF加盟180数ヵ国中で常にトップ5の位置にあった日本の順位があれよあれよという間に低下、現時点ではトップ20に入れるかどうかという状態に陥ってしまっています。

貧乏国転落の危機

 要するに90年代までは、経済的には世界のトップグループを走っていたこの国がいつの間にか脱落してしまった。このままでは第2グループはおろか第3グループ、さらにはもっと下の貧乏国に転落する恐れがある、それを回避するには「教育改革」しかない。おそらくはこれが、異常ともいえる速さで矢継ぎ早に教育改革を推し進める政治・行政の認識でしょう。であるとすれば、政治・行政が引き下がるはずがありません。

 ところで、「教育改革」といっても進め方は大きく2つに分かれます。1つは国民全体の底上げを図って平均的な教育水準を上げていく方法、もう1つは一部の国民を超世界水準に育て上げて、結果として全体の平均を高くしていく方法です。

 ご存じのように、戦後約50年間のこの国の教育政策は、基本的には前者の方法で進められてきました。それがバブル経済破綻後の混乱の中、90年代後半に一気に後者へと転換されます。その頃から始まった飛び級、公立中高一貫校、スーパーサイエンスハイスクール、高校の全県一区化、ここ数年のスーパーグローバルハイスクール、スーパーグローバル大学、国際バカロレア高校などなどがその具体策といってよいでしょう。教育政策へのいわゆる「新自由主義」の導入です。

天井知らずと現状確保

 経済政策の分野でよく耳にする新自由主義は、「トリクルダウン理論(trickle down theory)」をその前提としています。トリクルダウンとは「少しずつ滴り落ちる」の意で、上が富めば下に少しずつ富が滴り落ちて、下も豊かになる、したがってまずは上に力を入れるべきと論じる考え方ですから、教育政策への新自由主義の導入は「下はとにもかくにも現状を確保しつつ、上は天井知らずに」という方針で動いていくことになります。

 この春、教材展をいくつか回り、併せて何人かの教材制作者から聞いた塾専用教材の印象は、まさにこの「天井知らず」と「現状確保」の並存でした。先に述べたのは大学入試の改革ですが、大学入試が改革されることになれば当然、高校入試も中学入試も同じ方向で進むことになるでしょう。すでに首都圏の私立中学300数校のうち先を見越した32校では、新制度大学入試の初年度生となることが予定されているこの春の新中1生を選抜するにあたって、入試科目に「英語」を取り入れています(1月1日付「朝日新聞」)。また、私立中高の入試問題の制作にかかわっている知人には昨年、「思考力、判断力、表現力等の能力を問う問題の作成を」という注文が相次いだそうです。したがって教材制作者の側では当たり前のことながら、こうした動きに呼応して、パイロット版であれ何であれ意欲的かつハイグレードな教材を作成しなければなりません。その一方でまた彼らは、なんとか現状を確保したい、できることなら少しでも基礎学力の向上を図りたいと訴える現場の声にも応えなければなりません。その結果が並存という形で出てきたのでしょうが、以下、簡単にこの春の教材について、いくつか気付いた点をご報告しておくことにしましょう。

通年教材に変化は?

 新年度から小学校の教科書が改訂版に移行します。とはいえ、全面改訂ではありませんので、塾用の通年教材の内容にあまり大きな変化は見られません。問題数を少々追加した程度ではないでしょうか。

 中学校の教科書は改訂前ですので、どこも変えてはいないようです。が、売れ行きの面では幾分変化が出てきていると言われています。目立つのは教科書準拠教材や基礎・基本を繰り返す問題集の増加のようで、背景には年々激しくなる学力の低下問題があるのでしょう。

 通年教材ではなく講習用の教材に関しても、特に単元別の特化教材や、必要な単元だけを取り出して利用できるオンデマンド教材の売れ行きがよくなってきていると言われています。こちらも学力低下を反映しているのでしょう。

 ところで、学力低下といえば、全体としての学力の低下問題といわゆるフタコブラクダ型の出現問題という2つの問題が指摘されています。

 前者に関しては、残念ながらすぐ手に入る、歴年の学力を正確に比較した適切なデータが見当たりません。が、塾現場の感覚はおそらく的を射ていると思われます。小学校を例にとれば、「ゆとり教育」は実質的には1992年4月に始まって2011年3月まで続きました。基礎学力の習得面で問題の多い「ゆとり」の中で小学校時代を過ごした中学生を指導するにあたって、塾現場が物足りなく感じるのも当然でしょう。また「ゆとり」の中で中学・高校時代を過ごしたために、指導力に難のある学校教員が増えてきたことも、それ以前の講師の多い塾現場からみれば物足りなく感じられるのではないでしょうか。

 フタコブラクダに関しても、実はあまりデータが見当たりません。公立高校入試の得点率の分布表をいくつか探してみましたが、どこもたいていは正規曲線を描いていて、近いのは山梨県の26年度後期入試の英語くらいのものでした(図C・D参照)。ただし、この後期入試は、比較的学力の高い前期募集の決定者1,983人と、比較的受かりやすい私立高への入学決定者約2,000人を除いた受験者4,432人のものであって、山梨県の高校入学希望者全員のものではありません。それゆえ正確なことは確認できないのですが、こちらも塾現場の感覚のほうが正しいのではないかと申し上げておくことにしましょう。

ICT関連教材

 ICTを利用した塾用教材といえば大きくは講義映像教材とCAI関連教材、データベース関連教材とに分けられますが、三者とも目下出尽くした感があります。昨年の「EXPO」でも目立ったのは電子黒板だけでした。少なくともソフトに関しては、今は一段落、各社とも既存の商品の強化を図りつつ、次の展開の準備を進めているというところでしょう。

 B to B主体の塾用教材ではありませんが、気になるのがB to Cの個人配信用ICT教材の動向です。こちらは最近、雨後のタケノコのようにドンドンと増えています。表@の内閣府「消費動向調査」(14年3月調査)や表Aのデジタルアート(株)の調査結果を見ればおわかりのように、ICT関連機器は一般家庭や小・中・高校生個々人に十二分に行き渡りました。個人用教材はそれを背景に増加しているわけで、このままでいけばこうした個人用教材に押されて、塾が存亡の危機に陥る懸念もないとは思えません。

 それを防ぐためにどうすればよいかは皆さん、すでにおわかりのはずです。塾もまた、自身で塾生向けに配信すればよいわけです。当然のことながら個人配信用ICT教材には利点と欠点とがあります。店舗は不要、教師も最小限で賄えますので、低料金で提供可能というのが第一の利点、好きな時間に好きな場所で利用してもらえるというのが第二の利点。欠点は、強制力とか動機づけの要素が少ないために、生徒によっては学習効果が低いということでしょう。

 塾が塾生向けに配信した場合はどうでしょう。通常通りの対面指導の料金がかかりますので、トータルでは安いというわけにはいかないにしても、配信部分に関しては現在の料金に少々上乗せするだけで十分ですし、何よりも生身の講師とのかかわりの中での利用ですから、学習効果という点で大きなメリットが出てきます。ここ数年のどこかで、こうした家庭配信を行う塾が一気に増えるのではないでしょうか。

 なお、昨年の佐賀県武雄市の「スマイル学習」をきっかけに「反転学習」が注目を浴びています。武雄市の反転学習は「ビデオ配信で予習を行ったのちに授業を受ける」形だそうですが、わたしは、学力が極めて高く、また学習意欲の旺盛な児童生徒はともかく、大多数の一般小・中学生にとっては復習用に「ビデオ配信」を行うほうがはるかに効率的だと考えています。念のために付け加えておきます。

幼児・小学校低学年向け教材

 先にこの春、教材展をいくつか回り、併せて何人かの教材制作者から聞いた塾専用教材の印象は「天井知らず」と「現状確保」の並存だったと申し上げました。「現状確保」の典型が通年教材であったとしたら、「天井知らず」の典型はこの幼児・小学校低学年向け教材でしょう。幼児・低学年分野では、よくある算数、国語、英語、書道、書きかた、そろばん等々から、英会話、理科実験、パズル、速読、語彙、ロボット、プログラミング等々通常の教科の範囲を超えた分野まで、さまざまな教材教具が産み出されていますが、そのうちの一部はまさに「天井知らず」のハイレベルかつ意欲的な教材教具であり、それらで指導を行う塾もそれぞれかなりの活況を呈していると言われています。

 それには母親の学歴という大きな理由があるようです。高学歴の母親ほど、子どもの学歴に対する思いが強いのは容易に推察できることですが、それが数字に表れた資料がありますので紹介しましょう。ベネッセ教育総合研究所が12年1月〜2月に実施した『幼児期から小学校1年生の家庭教育調査報告書』です(図E・F)。ご覧のように、高卒までの母親がわが子に対して四年制大学以上の学歴を期待する割合は、子どもが男児の場合55.2%、女児の場合25.0%。一方、四大卒以上の学歴を持つ母親の場合は男児94.2%、女児86.9%。ビックリするくらい大きな差といってよいでしょう。

 実は今、幼児・低学年市場ではそうした高学歴の母親が急増しています。わかりやすい例を挙げますと、現時点で第1子が小学校1年生の子どもを持つ母親の平均年齢は36歳(表B/内閣府『子ども・子育て白書』ほか)ですが、この36歳の女性が18歳の時、すなわち1996年の女子の四年制大学進学率は24.6%でした(図G/「学校基本調査」)。その10年前を見てみましょう。86年の進学率はその半分の12.5%でした。10年前に比べて、わが子に高学歴を期待する四大卒の母親の割合が倍増しているのですから、教育熱心な母親の割合が倍増するのは当然で、結果、幼児・低学年向けのハイクラス塾が活況を呈することになるという「構造改革」が目下、進行中というわけです。

 ところで、こうしたハイグレード塾の教材が、最初から「政治・行政」の目指す「確かな学力」を意識して制作されたものであるかどうかについてはよくわかりません。ただ、結果としてそうなっているのはほぼ間違いないところで、おそらくはこれから先もそうした方向で進むだろうということも間違いないだろうと思われます。

英語教材

 内閣の教育再生実行会議が民間の英語検定の活用について初めて触れたのは、13年5月の第3次提言「これからの大学教育等の在り方について」の中でした。このときは「大学入試や卒業認定試験におけるTOEFL等の外部検定試験の活用」、「外部検定試験については、大学や学生の多様性を踏まえて活用するものとする」といういささか軽いものでした。それがわずか1年数ヵ月のうちに既定路線となり、大学入試での民間検定試験の採用がほぼ確定したようです。

 どこの団体の検定試験が利用されるのかはまだ決まっていません。とはいえ、昨年12月2日に開催された文科省の「英語力評価及び入学者選抜における英語の資格・検定試験の活用推進に関する連絡協議会」第1回会合には、TOEFL Junior Comprehensive、GTEC、ケンブリッジ英検、英検、TEAP、IELTS、TOEFL iBT、TOEICの8検定が招かれて説明を行うとともに、配布された参考資料にはこの8検定とCEFR(「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ共通参照枠」)との対照表もあるところから、おそらくはこのうちのいくつか、あるいはすべてが利用されることになると思われます(表C)。

 ところで教材です。中教審が「大学入学希望者学力評価テスト」で合格圏に想定しているのは、例えば「英検2級〜準1級」や「TOEFL iBT60点前後」を指すもののようです。現在の入試英語ではとても太刀打ちできるものではありません。それを見越してか、幼児や小学生向けの英語教材、特にICT利用の教材には、かなりレベルの高いものが散見されるようになりました。中学生向けも同様で、すでに英語で書かれた数学のテキストまで出現しています。しかし、ほぼ確定となったのが数ヵ月前のことですから、準備不足は否めません。今年1年、各社ともに新たな英語教材作りに邁進ということになるのではないでしょうか。

 さて、以上、今年の塾用教材の動向を見てきました。繰り返しになりますが、極めてハイグレードな教材が出始める一方、基礎・基本の習得に専念という教材も目立つというのが今年の印象でした。今いる生徒の成績を伸ばしてナンボというのが塾の原点ですから、教材選びにはどうか慎重になっていただきたいと申し上げて、稿を閉じることにします。

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