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2014/5 塾ジャーナルより一部抜粋

全国初の取り組み
中学生に月額1万円を助成!
大阪市「塾代助成事業」のその後

     
 大阪市が平成24年度から実施している塾代助成事業。西成区での試行実施を経て、平成25年12月より大阪市全域に拡充している。学習塾や文化・スポーツ教室にかかる費用を月額1万円を上限に助成するもので、全国で初めての取り組みだ。

 試行実施では、助成対象者の約4割の生徒に交付したが、学習塾や保護者からの反応はいろいろ。アンケート調査では「効果があった」とあるが、課題も出ている。

事業概要と西成区での
利用者状況
学習塾や保護者の反応は

 「子育て・教育環境などの充実により元気な西成区の実現」を目指して特区構想に取り組んできた橋下市長は、塾代助成事業はその事業趣旨に沿うものと、平成24年9月から、まずは西成区から試行実施した。あいりん地区を抱える西成区は、他行政区よりも少子高齢化が進んでいる地域。同地域の活力が、大阪市の活力につながるという橋下市長の強い意向もあった。

 塾代助成事業とはいかなるものか。概要はこうだ。

 「学習塾や文化・スポーツ教室の学校外教育の利用にかかる費用を、月額1万円を上限に助成する」

 月額1万円は、学習塾費の年間平均額の半額相当の助成として設定した金額だが、助成額の10%は、学習塾等の参画事業者が協力・負担することになっている。

 経済的な理由で、学習塾などに行けなかった子どもたちにとっては、学ぶ機会が提供されることになり、かつ子育て世帯の経済的負担が軽減される。対象者は、大阪市に居住のご家庭で、就学援助や生活保護を受けている家庭の市立中学校等に通学する中学生で、助成を受けるには申請が必要である。

 大阪市のこども育成事業担当課長の笠井氏によると、西成区での利用者状況は対象者数1,031人中386人に交付し、交付率は37.4%。そのうちバウチャーを使用したのは298人、使用率は77.2%。参画事業者(学習塾、文化スポーツ教室)の登録状況は約500事業所中84事業所(教室数)が参画していた。

 「当初、西成区内だけでは学習塾等の事業所が少なかったため、その周辺の6区、大正区・天王寺区・浪速区・阿倍野区・住之江区・住吉区に広めさせてもらいました」

試行実施後の検証
対象者の約4割に
バウチャーを交付

 西成区での実施時には、対象者の約4割にバウチャー(クーポン券)が交付されている(現在はICカード)。その効果や課題を検証するためにアンケート調査も実施された。

 「申請された方にクーポン券を交付させてもらいましたが、利用されているのは7割から8割。残りの方は利用されていません。理由としては、自分がいま行っている塾で使えなかったとか、新たに行きたいと思っている塾で、それが使えなかったなどです」

 生徒の利用目的は、回答数の上位から、@自分の学習の向上。A親に勧められて。B将来の夢や目標のために学習や習い事をしたかった。保護者の主な理由は、「家計の経済的負担の軽減」が70%を占めた。

 一方、保護者が申請をしなかった理由としては、@こどもが学習塾に通いたいと言っていない。A通っている塾等でクーポン券が利用できない。B交付申請の手続きが面倒など、が上位を占めた。申請はしたが、未利用の理由としては、@希望先で使用できない。A使用先が決まらない。Bこどもに通塾の意思がない。その他、1万円の助成では塾に通えないという声も上がっている。

 効果のほどはどうだったのか。生徒たちからは、@学習する機会が増えた。A自分の不得意な学習がわかりやすくなった。B学校の成績が良くなった。C学校の授業がわかりやすくなったなど、複数回答であったが、7割以上が肯定的な変化があったと答えている。保護者からは、@経済的負担が少なくなった。A塾代が軽減された分、こどもの教育に役立つものへの支出を増やすことができた。Bこどもの学力が向上したなどの回答があった。

学習塾の
登録理由とその効果
市のPRが届かず

 西成区での84参画事業者の内訳を見ると、学習塾が72、文化教室7、スポーツ教室が5と学習塾が圧倒的に多い。その登録理由を聞くと、@「経済的な理由で学習塾に通えないこどもたちに、学校外での教育の機会を提供したい」が約70%。A「生徒数を増やしたい」が約50%であった。趣旨への賛同が一番多かったが、生徒募集が厳しい塾にとっては、この事業に参画することで、生徒増に期待していることがわかる。これも正直なところだろう。

 実際の効果については、@「特に変化はない」が約50%。A「在籍者がバウチャーを利用して通うようになった」が約40%。B「バウチャーを利用した新規入会生が増えた」が約30%となった【表グラフ1参照】。

 試行実施後の効果・課題を分析すると、「約半年という短期間のうちに、約4人に1人がバウチャーの利用によって、新たに学習塾などに通うことができ、事業目的でもある『こどもの学力などの向上や子育て世帯の経済的負担の軽減』に関して、多くの生徒や保護者に効果が見られた【表2参照】」と大阪市では総括している。よって、利用者のニーズ面や他の区民からの事業拡充への要望があることもみて、平成25年12月から全市域に拡充することになった。

 全市域になって参画した大阪と奈良に教室を持つ淀川区の進学ゼミナールMYの中村吉克塾長は「新規での入塾は今のところないです。むしろ在籍者がバウチャーを利用していますので、趣旨には賛同したものの10%負担は厳しいですね。助成するのであれば100%、1万円を助成していただきたい」と本音を話す。

 早稲田育英ゼミナール関西本部の大村大吉部長は「平野区の1教室だけを見ると、通塾生が2割ぐらいバウチャーを利用し、新規入塾は3人いました」。大村部長の話では、平成25年9月に保護者から2,3本の問い合わせがあり、急遽制度内容を調べて登録した。通塾生からも11月の段階で「使えますか」と問い合わせがあった。反応はまずまずだったが、この制度を使って、生徒募集をする気はないという。「保護者の心理を利用しようとは思っていませんので」ときっぱり話す。

 ただ、これらの塾代助成事業については、保護者からの問い合わせがあって、初めて知ったと両者ともいう。登録した理由については、どちらも趣旨に賛同したことはもちろんだが、「利用者からの選択肢に入っていないと、他塾に行かれる可能性もあるので」と現実的だ。

 編集部から大阪市の塾に何件か問い合わせてみると、大阪市からの塾代助成に関する案内が届いていなかった(見落としたかもしれない、含め)という塾が多かった。保護者には対象者は先述のように限られてはいるものの、実施前に大阪市立中学校等を通じて、生徒全員に「塾代助成事業の案内」が渡されている。

大阪市全域では
利用者数の伸びは緩やか
課題克服で今後に期待

 全市での実施状況は、約2万2,000人の対象者中5,958人に交付し、参画事業者は1,014事業所の登録があった(3月1日現在)。大阪市で約2,000事業所があるが、そのうちの半分が登録していることになる。本来の趣旨からすると、全事業所が登録してもおかしくはないと思うが、そこには課題が多く、登録することに二の足を踏んでいる事業所もあるようだ。

 試行実施した西成区での非参画事業者から登録申請しない理由として、@バウチャーの換金率が90%で、事業者の負担が10%ある。A交付申請手続きが面倒。Bバウチャーが換金される時期が遅いなど。また、参画事業者からの制度改善についての意見では、@バウチャーの換金率が90%ではなく、100%にしてほしい。A換金の事務処理の簡略化。B塾代助成事業を利用する中学生が増えてほしいなどが挙げられた。

 少子化はもちろん、高校全入時代や私学の授業料無償化などが影響し、通塾を控える風潮から、特に個人塾での生徒募集は厳しい現状。新規生が見込めるとはいえ、10%の負担は大きく、在籍している生徒のみが制度を利用するとなると、減収である。さらにその登録申請の手続きが面倒となると、「やめておこう」となるのはもっともかもしれない。加えて、知らなかったという事業者も多く、先にあるように保護者からの問い合わせで初めて知り、慌てて大阪市のHPを確認したという声がある。まだまだ周知されていないようだ。

 笠井課長は「引き続きPRを強化する必要があります。ご案内の配布やHP、ポスターの掲示などです。利用者の申請は随時受け付けていますので、今後、人数はさらに増えていくと思います。学習塾等の参画事業者には、助成額の10%をご負担いただき、この事業にご協力いただいています。学習塾等の参画事業者の登録申請も随時受け付けており、利用できる学習塾等の選択肢が増えることで、利用者の増加も期待できるので、ぜひご協力をお願いします。保護者の方の経済的な負担を減らすという意味では、できるだけ利用してもらったほうが、効果があると思います。ただ、この制度は強制ではなく、経済的な理由で塾などに行きたくても行けない人のための施策ですから、ご家庭にとっては選択肢の一つです」と話した。

 なお、学習塾等がこの事業を把握していないという課題もあるが、大阪市では利用したい学習塾等が登録していない場合には、利用者からのリクエスト(「参画事業者登録リクエストシート」の提出)により、その学習塾等に対して個別に事業の説明を行うとともに、この事業への参画を依頼するなど働きかけも行っており、登録を検討している事業者からの問い合わせには、「大阪市塾代助成事業運営事務局」で対応している。

 西成区の活性化が、ひいては大阪市の活性化につながる、ということで始まった塾代助成事業。選択肢の一つというものの、活性化に期待するのであれば、多くの事業所の参画やご家庭がこの制度を利用してほしいものだ。経済的な理由で子どもたちが学ぶ機会をなくすことのないように、さらに明日の大阪を担う子どもたちを育てる一助になることを忘れないでほしい。

HPアドレス:http://www.juku-osaka.com/
問い合わせ:大阪市塾代助成事業運営事務局
TEL 06-6452-5273(12:00〜20:00)
(休業日:日曜日、祝日、年末年始)

●株式会社成学社【開成教育セミナー・個別指導学院フリ−ステップ】
経営企画部学費課長 尾川 賢治氏に聞く

 株式会社成学社が展開する開成教育セミナー・個別指導学院フリーステップは、西成区のときから参画し、大阪市全域に拡充後も引き続き登録している。現在の登録教室数は57教室。関西を中心に東京にも教室展開、生徒数が2万6,000人という大手塾だけに、その登録数には納得できる。

 西成区で導入された段階では19教室登録、36人がバウチャーを利用していたが、57教室に増加した現時点での利用状況は約400人になっている。

 「事業の全体を見ると、対象者の人数のわりに申請者が少なかったですね。あまり浸透していなかったという感じを受けます。我々にも大阪市からの働きかけがなく、新聞で確認したと思います」

 参画事業所として登録したのは、「趣旨への賛同は当然ですが、塾生が利用できない、新しく利用したいと思った生徒さんが使えないとなると申し訳ないですから。我々もできるだけ利用者側の立場に立って考えています」。

 参画を考えている事業者への大阪市からの働きかけや利用者が、塾代助成事業の内容を把握できていないという課題もあるという。「この事業を良いものにしていきたいという気持ちがありますし、今後、この事業が続くのであれば、多くの課題をぜひ解決していただきたいです。そのためには協力は惜しみません」。

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