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中学・高校受験:学びネット

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2014/1 塾ジャーナルより一部抜粋

塾と学校の共存共栄
塾がどこまで地域に貢献できるか
土曜日の教育活動の可能性

     
 土曜日の教育活動を豊かにするため文部科学省が「土曜日の教育活動推進プラン」を発表し、学習塾にも協力を呼びかけているが、すでに独自の取り組みで「学び」の構築を図っている自治体がある。大阪府大東市が実施している「学力向上ゼミ」では教育委員会と公益社団法人全国学習塾協会が連携し、市内の小・中学生を対象に土曜日に算数・数学・英語の指導をしている。4年目に入り、子どもや保護者からの評価は高い。今後、他地域でも広がる可能性が大だ。

学力向上ゼミに潜入
子どもたちの表情を見ることが大事

 9月のある土曜日、9時過ぎ。大東市の市民会館3階では、9時30分からの授業を待つ小学校4年生たちで廊下があふれ返っていた。講師が来ると元気に「おはようございます」と言って、机や椅子を並べ始める。48人の参加で満席だ。宿題のチェックから始まり、授業がスタートする。

 「今日は面積の出し方を勉強します」と、講師であるホリエグループ代表の荒川雅行さんがワーク(教材)の問題を解説する。「面積とは広さを表すものですが、広さを説明するときはどのように説明しますか」と生徒に視線を向ける。特に答えを求めているわけではない。頭を傾げる生徒の表情を見ながら「わかりやすいように基準を決めています」と黒板に1cm四方の図を書き、たて×よこ=面積と公式も書き足した。さらに例題として「たて6cm、よこ7cmの場合は」と図を書き、その中に1cm四方の大きさがいくつ入っているか、一個一個書き入れていく。

 子どもたちは真剣だ。ノートに記載する生徒もいる。

 面積の出し方の説明を十分に受けた子どもたちは、ワークの問題に取り組む。すらすらと進む子や鉛筆を持った手が止まる子などいろいろだ。荒川さんは順番に子どもたちの席を回っていき、丹念にチェックをする。

 授業は50分授業で、10分の休憩の後に次の5年生が授業に入る。4年生の授業がまもなく終わろうとした頃には、廊下には5年生が整列をして待っていた。授業に参加できることがいかにも嬉しそうな表情だ。

柔軟な対応に
生徒のモチベーションがアップ

 学力向上ゼミは4年生から中3生までを対象とした希望制。5年生の中には4年生から続けて来ている子もいる。当初から講師は荒川さんのため、生徒は信頼を持って授業を受けている。友達2人で参加している女子は、「先生の授業はわかりやすい。叱られるときもあるが楽しい」と素直に話す。5年生にもなると、勉強への取り組みは一歩前進している。言われなくても授業を受ける態勢で講師の言葉を待つ。私語はない。

 「では、ワークの70頁。分数の足し算を勉強します」。仮分数が出てくれば、必ず帯分数にすることを説明し、割り算で割り切れないときはどうするか。と、例題を出した。「2÷7を少数で表すと? 誰か応えてください」「0.28」と生徒の声。「四捨五入したら?」「0.29」と数人の生徒の声。「じゃあ、分数で答えると?」一瞬静かになり、ある生徒が手を上げ、「100分の29」と答えた。講師は少し考え、「ごめん、まさか100分の29と答えるとは思わんかった。びっくりした。確かにおおよそ100分の29で合っています」と謝り、答えた生徒を讃えた。照れる生徒も絶妙な講師の対応にモチベーションも上がったようだ。

ゼミ開講の目的と人気の要因
参加することへのメリット

 当初は、教育委員会所管の野崎青少年教育センターと北条青少年教育センターの独自事業としてスタートした。東部地区の子どもたちの学習機会の拡充が目的で、地域の小・中学生へと広まってきた。注目は公教育と私塾が連携し、塾の先生が授業を受け持ったことだ。

 北条の末松良三センター長はこういう。「実際には学校の勉強もあり、塾に通っている子もいる。これが現実です。その中で、塾に行きたいけれど、月謝が高い。月謝を安くして塾みたいな形態でやってあげるのも一つの方法だと思いました。塾の先生の指導には違和感はなかった」。

 ニーズもあり、昨年度よりさらに対象地域を広め、西部地区の子どもたちにも学習の機会を広めた。教育委員会・学校教育部教育政策室課長参事の澤邊正人さんは、「学校の予習を中心に授業をしてもらっています。一度習っておけば、自信を持って学校の授業に臨めるだろうというのが、もうひとつの目的です。生徒募集は学校を通じて、対象の学年の全児童・生徒にチラシを配布しています」と話す。

 実際使っている教材は教科書準拠のワーク。幅広い学力の生徒が来ているため、講師と相談して進んでいる生徒は、どんどんワークの問題を解いてもよいとなっている。

 先述のように、今年実施している市民会館での生徒の参加数は非常によい。最初、どの学年も定員が25名だったが、小4・小5生の申し込みが予想外に多く、大きな部屋と48名の定員に変更をした。しかし、それぞれに72人と70人の申し込みがあり、厳正な抽選となった。申込多数となった要因のひとつには、低価格の授業料にもある。

 小学生は月1,000円に年間教材費1,100円。中学生が月2,000円に年間教材費が2,200円。毎週土曜日、年間44回実施で、授業料徴収は11ヵ月。特色は、受講生が生活保護法の規定による生活扶助および就学援助制度を受けている場合は、受講料が免除される点だ。ただし、教室の問題や講師の問題もあり、定員が決まっている。受講希望者すべてを受け入れられないのが、今後の課題だ。

 大東市の小・中学生全体の数と比較して、参加率を聞くと、次のようになっている【表1参照】。

 子どもたちへのメリットは学力向上もあるが、小・中ともに対象が市内の小学校と中学校に通う生徒。そのため、学校という垣根を越えての友達作りができることだ。学校間での情報交換や勉強の仕方なども自然と話ができるようになり、コミュニケーション力も付く。土曜日の過ごし方でいえば最適だ。

 「学校以外のところで、大人と接する機会ができるのは良いことです。勉強以外に挨拶なども指導していただいているので、総合的に考えてみても、子どもたちにとってはいいんじゃないでしょうか」と澤邊課長参事は言う。

近畿支部所属の
先生方が活躍
充実してきた取り組み

 そもそも学力向上ゼミで塾の先生が指導するに至った経緯は、協会担当者によると、大東市の市長による青少年教育センター事業の見直しの意向が第一にあった。その中で、今まで実施していた「○○教室」の見直しの議論もし、本来の教育センターの役割の一つである「学習に関する事業」の取り組みとして、学習教室の支援講師を外部から求めるという改善案が出され、教育委員会を通じて協会に問い合わせがあった。「箱(教室)さえあれば大丈夫」という協会側の対応で、連携することになったという。教育委員会の澤邊課長参事は、「市としては、公平性とか妥当性とかなければ、塾さんに簡単に頼むわけにいきません。調べましたら、全国学習塾協会さんが唯一、公平性を担保できる団体さんでしたので、話をさせていただいた。と当時の担当から聞いております」とのこと。

 地域が大阪のため、近畿支部が対応。常任理事であった神田進学セミナーの祖父江準さんが運営の中心となり、ゼミを実施してきた。協会に所属する先生方も近畿支部が全国の中でも一番多く、スタッフには困らない。

 「講師の選択には充分な配慮をお願いしました。指導力や人柄で子どもたちの態度が違ってきますから。指導内容については50分授業で予習を先行させるなど、当時の教育委員会の担当や各教育センターの所長が集まって練られました」

 結局、能力にばらつきがあるので、復習よりは予習を先行させていくことになった。問題は講師の先生方にも自塾の運営があることだ。午前中は北条センターで、午後は市民会館で小・中学生を指導している理数学館の戸田幹士さんは、「土曜日だけは、保護者にお願いをして、塾の始まる時間を遅くに設定しています」と話す。当然、かかわる先生方は時間のやりくりをして、ゼミに望んでいるのだ。大東市から協会に委託料が支払われているので、講師の時間給は出ているが、塾をおろそかにはできないという。

 しかし、成果は徐々に上がっている。4年前にスタートしたときは手探り状態だったが、2年目からは充実してきたと、祖父江さんは振り返る。地域の保護者からは教育委員会に、「成績が伸びました。ありがとうございました」「中学の中間テストがすごく良かった」「通知表が上がりました」などのお礼の電話が入りますと澤邊課長参事。一方で「理科、社会の勉強方法がわからない」という相談もある。そういう場合は、学校の先生以外に、「講師の塾の先生にも、相談することもできますよ」とも助言している。

公教育との連携で
大きく展開する協会の今後

 同協会は内閣府の公益認定を受け、平成25年4月1日より公益社団法人全国学習塾協会へと移行した。新しく三重県を中心に複数教室展開をしている安藤塾代表の安藤大作さんが会長に就任、その若い力に期待が寄せられている。折しも10月14日の協会主催である塾の日シンポジウムでは、下村博文文部科学大臣の代読で、文科省社会教育課長の坪田知広氏が「土曜日の教育活動推進プラン」を発表した。学校、家庭、地域の三者が連携し、役割分担しながら、土曜日の教育環境を豊かなものにするという背景から、学習塾にも協力を呼びかけている。平成26年度概算要求には、@土曜授業推進事業に2億円、A地域の豊かな社会資源を活用した土曜日の教育支援体制など構築事業に18億円が上がっている。

 すでに同協会が大東市の要請を受け、実施している学力向上ゼミは4年間継続し、一連の成果を上げている。今後も予算申請はしていくと澤邊課長参事。続いていくのは間違いないようだ。

 12月には同プランの概算要求の結果が出て、方向性が決まる。そうなれば、各地域の自治体も土曜日の教育活動について早急に進めていくだろう。安藤会長は先を見据え、「大東市の例を各自治体がキャッチすれば、広がるのは早いでしょう。この事業を広げたいというよりも広がります。そのために協会としても早急に準備をしていかなければならない」さらに「業界として国の教育行政に参画できたらありがたい。国と一緒に日本の未来の子どもたちのために取り組んでいきたいですね。そのために、もっと会員を増やし、これからも対応できる法人でありたい」と展望を語った。

(平成25年9月から11月の取材より)

●問い合わせ先

公益社団法人全国学習塾協会
〒171-0031 東京都豊島区目白3-5-11
TEL:03-5996-8511 FAX:03-5996-9585
E-mail:info@jja.or.jp
※興味ある方はお問い合わせください。

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