壺にある2つの液体
前号でストロークの壺の話をしました。今回はもう少しこれを深く考えていきます。
ストロークの壺には、2つの液体が入っていると思ってください。ひとつは「自分が自分に与えるストローク」もう一つは「他人からもらうストローク」です。
前者は、「俺って結構やるじゃん」「さすが私だわ」「これでOK」「やったね!我ながら素晴らしい出来だ」など自分に対しての肯定的ストロークです。
自分が自分の良いところを認め、自分で自分に言い聞かせます。ストロークという形で自分に与えるほめ言葉です。
アトランタ五輪の女子マラソンで有森裕子さんが、完走後のインタビュー時に「自分で自分をほめたいと思います」という印象的な言葉を残されました。まさしくこれです。ナルシストのようで気恥ずかしいという気はしますが、誰に迷惑がかかるわけではありません。時間もコストも手間もかかることもないので、少しでもいいところがあれば、どんどん活用しましょう。やればやるほど楽しくなってくるのは間違いありません。
後者は、「あなたはすごいね!」「君はいつも明るくて素敵だね」「あなたの仕事はいつも完璧で素晴らしい」「君はいつも勉強頑張っているね」など他の人からのほめ言葉ほど嬉しいものはありません。たとえ多少のお世辞が入っているとしても、嬉しいものです。
これは自分が望んでいるときに言ってもらえるものではありません。人は他人のことをほめたがりません。他人をほめると自分が損したように感じてしまうようです。しかし、自分が他人からほめ言葉を欲しいと思ったら、先に自分の方から周りの人にほめ言葉というストロークをたくさん与えてみてください。人は、もらったものはお返しをしなくてはという意識が働きます。ギブ&テイクではなく、ギブ&ギブです。そうすると徐々に自分に対しても、ストロークがやってくるようになります。
素焼きの壺
このストロークの壺が一杯になっていると、私たちの心は安定して豊かな気分になります。自然に他の人に対しても優しくなり、肯定的ストロークを与えられる余裕が出てきます。
しかし、このストロークの壺は素焼きの焼き物でできていて、時間と共に少しずつですが中の液体が漏れ出てしまいます。最悪の場合なくなってしまいます。こうなったら大変。
液体が減少するにつれて、気持ちは不安定になり、余裕がなくなってきます。自分に自信がなくなり、他の人へのストロークどころではなくなります。自分のことで精一杯という気持ちになります。悪ければ、周囲の人や自分自身へのディスカウントが始まります。
時間の使い方
液体が減少していくには、時間の使い方も関係しています。人は一日の時間を様々な使い方をします。日常的な歯を磨いたりトイレに入ったり睡眠をとったりという時間を除けば、次の6つの時間に区分されます。「閉鎖、引きこもり」「儀式、儀礼」「雑談、気晴らし」「仕事、活動」「心理ゲーム」「親密、親交」。
この中で、「閉鎖、引きこもり」は、周囲の人と心理的、物理的に離れて一人でいる時間を指します。他人からストロークがもらえない状態なので、悲観的、独善的になる傾向があります。しかし、自分の行動や感情を反省したり、気力を充実したりするプラス面に捉えることもできます。
この時間をとることが多い人は、ストロークの壺の中身が減る一方になりがちです。最近では友人とメールでのやり取りで、人と交流をもっているように感じるかもしれません。しかしこれは時間の使い方としては一人の時間、すなわち「閉鎖、引きこもり」の時間であることを忘れてはいけません。ノーストロークではないにしろ、非常にストロークを得にくいと考えられます。電話で話をすることの方がまだましといえます。
この時間が多い人は、できるだけ外に出て、人と直接話をするようにしたいものです。たとえそれが挨拶であっても雑談であっても、ストロークの交換であることにはかわりありませんから。
不安な気持ちの裏返し
ストロークの壺にはある程度の液体が貯まっていないと、気持ちに余裕がなくなり、周囲にストロークを与えることが困難になります。そこでなんとかストロークを増やそうと試みます。
自分へのストロークが少ない人は、他人からのストロークで埋め合わせようとします。「昔の俺はすごかった」と自慢する年配の男性。「私ってキレイでしょ」とブランド物の服で着飾る若い女性。これらはいずれも、他の人からの承認が欲しいために自己アピールをしています。「わぁ〜すごいですね」「ステキ!キレイ!」と言ってもらいたいのです。
自信満々のように見えても、実は自分自身は不安な気持ちでいっぱいです。自分に対して肯定的ストロークを与えることができず、他人からのストロークを欲しているのです。
2つのバランスが大切
自分へのストロークばかりの人は、また困りものです。自分が一番と本気で思っている人です。他人からはどう思われても、どう見られても全然気にならない人です。
「私は大丈夫」「私はOK」と自分へのストロークで一杯になっているので、他人からもらわなくても構わないのです。この傾向が強すぎると、他人の話は聞かなかったり、わがままな行動をしたり、マイペースに生きたりと他の人にとってはいささか迷惑な存在になります。
周囲の人とうまくやっていくためには、この2つの液体は両方とも大切であり、バランスをうまくとっていくようにしなければいけないということです。
壺はいつも満杯に
この壺は、ディスカウントという衝撃ですぐに壊れてしまうと前号で述べました。
「お前はダメなやつだ」「出来損ない」「なんてバカなことを」など他人からのディスカウント。
「私はやっぱりダメなんだ」「私にはできっこない」「どうせ私なんか…」「もう年だから」といった自分自身へのディスカウント。
これらを受けると簡単に亀裂が入ってしまいます。挙句の果ては、壺自体が壊れてしまい、中の液体は両方とも全部流れ出してしまいます。一度壊れた壺は簡単には元に戻ることはできません。だからこそ大切にしなければいけないのです。
人生を豊かに生きていくには、ストロークの壺をいつも満杯にしておくことです。そして、周りの人にも溢れ出したストロークを与え続けていくようにしなければいけません。
子どもたちに伝える
ストロークの壺は人によって大きさも、形も違います。社会経験が少ない子どもの壺は、本当に割れやすいと考えなくてはいけません。繊細な心を持つ子どもの壺ほど、少しのことで簡単に割れてしまうものです。
行為を注意する際にも、言葉を選ぶ必要があります。一つの言葉が心のトゲになって、いつまでも引っかかっていることもあります。言った方は忘れていても、言われた方はずっと覚えていることはよくあります。
子どもたちには、ストロークの壺の存在や扱い方、他人への言葉などによるストロークのかけ方の重要性を語っていただきたいものです。 |