コモデティ化した業界で
勝ち抜くチラシ
最初に千樹会を主宰する小林弘典氏(PS・コンサルティング・システム代表)が勝ち残るためのチラシづくりのポイントを解説した。
チラシは、まず何よりも早く準備することである。
特に昨年は、折り込み時期が東日本大震災の前と後で明暗を分けた。3月11日以降にチラシ広告を予定していた塾は、2週間完全にストップしてしまったからだ。一方で、大手塾は震災前に集客をほとんど終えていたため、少子化にもかかわらず、今期の売り上げが伸びると思われる。
「兵は拙速を尊ぶ」と孫子の兵法にあるように、早めに準備して、早めにチラシを打つ。早ければ失敗しても何とかなるが、遅れると取り返しがつかない。
次に、広告の中身は、競合との違いを明確にすること。
いま塾は景気がよくない。これは不況と少子化という外的要因だけでなく、内的要因としての「学習塾のコモデティ化」がある。コモデティ(commodity)とは日用品を意味し、コモデティ化とは、「ある商品のカテゴリにおいて、競争商品間の差別化特性(機能、品質など)が失われ、主に価格あるいは量を判断基準に売買が行われるようになること」をいう。商品の成熟期の特徴のひとつだ。顕著な例がティッシュペーパーである。どれも品質が同じで、違いがわからない。塾も個別指導においては、完全なコモデティ化が起こっている。集団指導も、外から見て、違いがわからないという点でコモデティ化に近いと言える。
商品の違いがわからないとき、客は何を基準に商品を選ぶのだろうか。
まず、価格である。ティッシュを買いに行ったとき、同じ品質、同じ枚数であれば、客は安いほうを買う。塾の場合も、自宅からの距離がほぼ同じであれば、月謝が安いほうに目が向く。
もうひとつの選択基準は、「付随サービス」。塾の本質的サービスは指導内容だが、そこに差が認められないとき、建物がきれいとか、車での送迎など、付随的なサービスで選ばれる。
以上のことから、コモデティ化した塾業界で、我々が勝ち抜いていく方法は、次の3つしかないことがわかる。
@コストダウンして、他塾よりはるかに安くする。
安すぎると「いい加減な塾」と思われないかという不安もあるだろうが、「親は安いほうを選ぶに決まっている」と考えたほうがよい。
A付随サービスに力点を置く。
授業の他に客にプラスになるものを見つける。例えば、保護者面談の回数を増やす。競合塾の面談回数が平均して年に2〜3回とすれば、その倍をやると差がつく。その他、イベントや塾報などもある。ただし、客にとってメリットのあるものでなければならない。
Bコモデティの中から抜け出す。
ティッシュペーパーの隣にウェットティッシュがあれば、明らかに別の物とわかり、客の選択基準が変わる。塾であれば、あくまでも大手と同じ土俵に乗らないことである。「差別化」「特化」など、他塾とは違うものを打ち出す。しかし、自分たちが「違う」と思っていることと、客が「違う」と思うのは別問題。客が他塾とは全然違うと思わなければならない。例えば、医学部受験に特化した塾、個別指導でありながら、先生が立ってホワイトボードに板書する授業など、客からはっきりわかる形にする。
効果的なチラシとは、このうちのいずれかが一見してわかるチラシである。
以上の観点から、今回の勉強会では29塾のチラシを検討。小林氏と代表幹事の河野優・開進スクール塾長が講評した。その一部を紹介する。
■「ダサイ」チラシに反応あり
関東で5教室を展開するA塾は、赤と黒の2色刷のチラシで、冬期講習の売り上げを前年比2倍まで伸ばした。
以前は大手塾のチラシを真似て、表面をイメージ広告にしていたが、反応はよくなかった。2年前にフルカラーをやめ、2色刷りの一見「ダサイ」チラシに変えたところ、問い合わせが入るようになったという。
今回のチラシで工夫した点は、表面のキャッチコピー。「公立高校入試で50点以上アップさせる」と、何をしてくれるかを表現した。しかし、言葉だけでは信憑性に乏しいので、卒塾生3人の直筆メッセージを顔写真入りで掲載。さらに「責任もって指導する塾」という印象を与えるために、塾長自身の顔写真も載せた。また、文字が多くなると全部は読んでもらえないので、強調したい部分を赤文字にしている。
裏面の工夫は3点。@塾の雰囲気が伝わるように、授業風景や生徒のスナップ写真を、「勉強が楽しくなりました」などの吹き出し付きで並べた。直筆のコメントの数も多い。A料金は、小学生高学年の算数3日間で6千円など、問い合わせしやすい価格設定だけを掲載。B料金説明の下に目立つように「無条件返金保障制度」を入れている。これは、「授業がわかりにくかった」など、冬期講習に不満があれば、全額返金するというもの。ただし、実際にはまだ返金の例はない。
【講評】 2色刷りがすっきりして目に入りやすい。表面に生徒の手書きがあるのは、実際には読まれないとしても、図柄として良い。同様に裏面に写真が並んでいるのも好印象。逆に「無条件返金保証」は、安っぽくなる。安心感を与えたいという思いからだろうが、逆に怪しく見える。実際に返金した例がないのだから、チラシに載せる必要はない。
■比較広告で自塾の優位性をアピール
B塾は自然豊かな海辺の町で、集団指導3教室と別ブランドで個別指導3教室を展開している。今回は個別指導用の冬期講座チラシを検討した。
表面はフルカラー。紙面を上下に2分割するように、笑顔のさわやかな若い男性講師と女性講師がホワイトボードを前に授業をしている写真を縦に配置した。中央に大きく「1クラス4名まで 少人数だから伸びる」の文字。上部に冬期講習の日程、下部に塾名と電話番号を載せている。シンプルでわかりやすい。
裏面は、イラストや図をバランスよく配置して、なぜ少人数クラスがよいのかという説明文を掲載。そのうえ、一斉授業だけの塾、個別指導だけの塾と比較して、自塾の優位性をアピールしている。これは競合する大手塾を意識してのこと。地域の保護者にはどの塾を指しているかがわかる。
今回のチラシには掲載していないが、B塾では毎月1回、テーマを決めて、教育説明会を開いている。前回は大学進学説明会を開催。高校生の保護者だけでなく、小・中学生の保護者にも参加を呼びかけた。そこでは、国公立大学と私立大学でかかる費用がどれだけ違うかを比較して、国公立大学進学のメリットを説いた。そのうえで過去のデータを挙げて、高校1年の冬までに成績を上げておかないと、難関大学進学は難しいことをわかりやすく解説。「早めに入塾してください」とのメッセージを出した。また、入りやすい割に就職に有利な大学など、一般には知られていない情報も提供している。そうすることで、有益な情報をもっている塾として認知され、大学進学に関する問い合わせが寄せられている。
【講評】 B塾のある地域は、高校入試の平均倍率が0.99倍。ほぼ全入である。そのため、子どもたちは放っておくと勉強しない。しかし、高校卒業後はやはり大学に行きたいと思う。そのためにはどうしたらよいかを、大学進学説明会で丁寧に説明している。これは辺境の地で塾を開いている人の義務だといえる。地域の子どもたちが幸せになってくれるように、プラスになることをする。そのためには自分も勉強しなければならない。地域に貢献しながら自分も成長させていただく。地域にも自分にもプラスになる。塾は自分だけが儲けるビジネスではなく、ソーシャルビジネスであることを忘れてはならない。
■手書きチラシ800枚で5件の問い合わせ
北関東の地方都市にあるC塾は、難関大学進学を目指す高校生がメインの学習塾。市内全域に折り込みチラシを入れると費用が高くつくため、昨春はポスティングと校門での手渡しを合わせて800枚を配布。5件の問い合わせが来た。
表面は手書き。「受験に才能は要らない!」のキャッチコピーの下に、「受験に勝つためのルールを知っている者だけが合格する」「逆転合格を狙う人のためのハイブリッド学習塾」という文章が続く。紙面中央には、実際に「逆転合格」した卒塾生たちの顔のイラストと高校2年次の成績、合格大学を掲載。合格大学は、東大や北大、上智などいずれも難関大学だ。
このチラシの反応が良かったので、今春も手書きで1万枚をポスティングと校門配布する予定だという。
【講評】 手書きイラストと「逆転合格」はインパクトがあり、当たる可能性がかなり高いチラシになっている。
キャッチコピーは、何を強調するかによって印象が変わる。受験に「才能は要らない」という否定形か、あるいは「ルールを知っている=合格」を強調するか。全文を見ると、言いたいことは「ルールを知っている者は逆転できる」ことだと思われる。それをストレートに書くほうが読み手に伝わる。「才能は要らない」は不要。キャッチコピーも本文も、何度も眺め直して、いらない言葉を削る。削って、削って、残った言葉が生きる言葉であり、読み手に届くメッセージになる。
この他に、医学部進学専門塾や数学単科塾、地域トップ塾など、さまざまな塾のチラシが紹介された。塾の規模や運営形態、地域性によってチラシも変わる。効果的なチラシづくりを考えることは、同時に自塾をより強くする方法を考えることでもある。勉強会に参加した塾長らは一様に真剣な面持ちで講評に聞き入っていた。 |