全員で勉強環境を作るため
「聞く」「知る」「話す」
JR横浜線「鴨居駅」。大手の集団塾と個別指導塾20教室あまりが隣接するメインストリートを抜けて、徒歩10分。見通しの良い県道沿いに「名学館かもい校」のオレンジ色の塾舎が目に飛び込む。2010年1月4日、杉田智実さんは、新校舎の教室長として赴任。その3日後には、近隣に住む保護者が来塾してきた。
「そのお母様とは、雑談も含めて2〜3時間お話をしました。後日、その息子さんが第1号の生徒になってくれました」
かもい校は三者面談の機会を毎月設けている。父親の出席も多い。
「家庭学習ができない」、「他塾に通っているけど知識が身に付かない」、そもそも「勉強に関心がない、夢もない」。そんな状況に陥っている子どもたちを、杉田教室長は長い講師キャリアの中で数多く見てきた。大手塾の対応に保護者が抱える不満も、それを生む企業の経営論理も、嫌というほど知り尽くしている。
「興味関心を持って来塾してくれた保護者と子どもと、とことん話し合います。まずは相手の話をよく聞く。そして両者が一番求めていることを知り、その上で、本校で対応できることと、その道筋を提案する。生徒に合わせてもらうのではなく、生徒に合わせていく。そこが大手塾との差別化です」
実際、駅前の大手塾からの転塾生が引きも切らない。開校3ヵ月で塾生は約40人、1年後90人超。口コミ率8割、電話等による勧誘は一切しない。一方的に引き込んで獲得した生徒ほど、結果も出ず、退塾しやすい、と杉田教室長。チラシには生徒の顔写真入りの合格体験談や合格実績等は載せず、塾舎内外にもポスター等の宣伝媒体は少なめ。保護者には「ココに来て、塾のイメージが変わりました」とよく言われる。
これまで塾が提供してきた、確かな知識や技術、合格実績だけでは、「子どもの心は動かない」と杉田教室長は断言する。
「私の開塾の理念ですが、子どもたちに自信や一歩を踏み出す勇気を与えたい。勉強はそのキッカケのひとつ。そのためには『環境整備』なんです。自宅・学校に次ぐ、第三の居心地の良い場所を提供したい。そのために生徒、保護者、講師、地域もどんどん巻き込みますよ」
今年、夏期講習に先駆け、杉田教室長は6月末から1ヵ月、ほぼ全家庭と面談を行った。本当に必要な授業だけ受講してもらえればよい。ただ、絞った代わりに確実に結果につなげたい、と保護者に訴えた。常に「一緒に作り上げていきませんか」というスタンスで話すことを心がけている。夏期講習参加率は9割を超えた。
●運営のポイント
@保護者・子どもから徹底的に「聞くこと」「知ること」そして「話すこと」。
A大手塾にないものを提供できる場として、環境を一方的ではなく、双方向的な視点で整備する。
個別指導塾だからこそ、
講師・授業の質にこだわる
個別指導塾に保護者が感じる不安や不満に、「個別は伸びない」「指導が一貫していない」「講師がコロコロ変わる」などがある。
杉田教室長は、開塾当初からそれらは折り込み済みで、講師選抜に厳しい審査過程を設けている。体験指導を含めて三次試験まで行い、導入研修後に正式採用となる。重視するのは、生徒とのコミュニケーション能力だ。
「知識量とか学歴ではなく、いかに生徒から会話とやる気を引き出せるか。その能力の有無を評価します」
登塾してきた生徒への声かけ、授業前の雑談、生徒が答えやすい発問の工夫など、生徒が言葉でキャッチボールや意思表示できるように教室長だけでなく、講師も働きかける。そして可能な限り"人前で"褒める。
「『本当にできない子』はいないという確信を持っています。キッカケひとつで、勉強も他のことも頑張れるように変わる。その引き出しはコミュニケーションにある。2時間の授業で、必ず褒めるところが出てきます。逃さずキャッチして、その瞬間にすぐ褒めることが大切。そうすると、その生徒はぐっと伸びていくんですよ」
生徒ごとに「ゴールからの発想」で、長期・中期・短期的に何を指導すべきか講師と相談・共有し、頻繁に申し送りを行うことで、指導方針のブレを防いでいる。生徒の指導方法や授業方法を、杉田教室長や講師同士が情報交換する風景は日常的だという。「学生講師でも責任感が強く、ここまでしっかり見てくれるんですね」と保護者からの評価は実に高い。
開校1年、生徒の偏差値は「平均プラス10、プラス20も」という脅威の伸びが現れている。
●指導のポイント
@生徒のやる気を引き出す能力を持つ講師選抜に妥協はしない。
A各生徒の「長期・中期・短期」の目標および指導方針を、講師全員で共有する。
3点ドミナント出店戦略へ
半期に一度開催される名学館グループ全国大会で、2010年冬期講習、2011年春期講習優秀校として表彰、2011年上半期新人賞も受賞している。結果を出すためのポイントは、「いまやるべきことを知ること。そして確実にやること」。
「情報入手のしやすさはFCの良さです。『欲しい情報があれば、取りに行け』のフットワークの軽さは大事。『聞くこと』と『話すこと』は原点。会話からキャッチしたニーズに、塾としてきちんと対応できれば、必ず結果につながっていく」
杉田教室長自ら、その姿勢を一貫していくことで、かもい校の風通しと居心地の良さが作られる。
現在、かもい校を拠点に2校目(2011年12月開校予定)・3校目(2012年3月開校予定)の出店計画が進行中だ。名学館グループが推進する「3点ドミナント出店戦略」は、1度の広告で3校分の相乗効果が得られ、認知度アップと講師確保につながるとされている。
「かもい校に関係する人々全員が、成長できる教室でありたい」
それは見るだけでは決して終わらない、実現させる「夢」だ。 |