他とは違う戦い方をする「確率戦」
チャンバラでは、どんな剣の達人でも、3人以上でかかればまず勝てなかったと言われます。太平洋戦争でも、アメリカの戦闘機隊は必ず編隊を組んで戦いました。強者は1対1の戦いを避け、弱者を数で抑え込むことを考えなければなりません。
これらは敵対味方2者の戦いですが、企業間競争では数多くの企業が互いに戦っています。
複数の企業間で戦う時には、いかに他とは違う戦い方をするかといった「確率戦」をすることが必要であり、その際、強者は有利な立場にいることになります。
信頼感、安心感を与えて選択させる
「確率戦」で強者が有利な理由は、次のことから言えます。まず、同業者が多ければ多いほど、顧客はどこで購入するか迷います。
その時、知名度、実績がある強者は選択肢のトップになる確率は高いと言えます。信頼感や安心感などを顧客に与えてくれそうだからです。
また、多くの企業がしのぎを削る、競争が激しい場面においては、弱者同士も戦うことになり、消耗戦になることもあります。これが今日の企業間格差の要因の一つにもなっています。
強者は、自社内の営業マン同士にも競争させることで、死角をなくし、弱者に食い込むスキを与えないようにします。
製品ラインの拡大
メーカーにおいては、製品ラインを拡大することで、お客様から選択される確率が高くなります。
製品のフルライン化をして個々のアイテムを増やし、弱者の製品それぞれにバッティングさせます。これにより、弱者が入り込むことを困難にさせます。
この際、必要なのは、弱者が製品を発表する前に情報を入手し、先手を取ってラインの拡大を図ることが必要です。
お客様の頭のシェアNo.1
卸売業、小売業においては、商品の品揃えを強化することで、お客様からの選択の確率を高めるようにします。
大型食品スーパーで、例えばレトルトカレーで品揃えを多くするということが行われています。100円のものから数百円のものまで、また、地方で作られた珍しいカレーが置いてあるようなことです。
品揃えが充実されており、その中に珍しいものがあるとなれば、お客様が立ち寄ってくれるのは理解できます。
「あそこに行けばとにかく揃う」「これを買うにはあのスーパー」というくらい、お客様の頭の中のシェアをNo.1にするのです。
自社拠点を増やす
今は少し下火になってきましたが、一時コンビニエンスストアが数多く出店していた時、一定の地域または一つの幹線道路沿いに、同じチェーンのコンビニがあるのを見かけました。
それぞれの店の経営者にしては、あまりうれしくないのかもしれませんが、コンビニの本部では、どこの店で買ってくれても、自社の売上や利益になるという確率戦だったのです。
この戦略は、大型店に対しても行われました。一つの大型店に対して同じ規模の大型店を出店するのではありません。その店の周辺に小規模や中規模の店を多数出店することで、お客様が来店される確率を高めるという戦略でした。
駅前の大手塾と住宅地の中小塾
では、塾においてはどういった戦略が確率戦にあたるのでしょうか。
駅前のビル内などに構える進学塾があります。電車を利用して遠くから生徒に通塾してもらうためです。でも駅から少し離れた住宅地に、中小の塾があります。確かに大手の塾は魅力だが、子供に通わせるのには近いほうがいいと考えてしまう保護者が数多くいるのも事実です。
そうなると、駅前の大手塾は、遠くからは生徒が来てくれるが、地元の生徒が少ないということになります。
連合艦隊の戦略に学ぶ
冒頭にアメリカ軍の話を書きましたが、アメリカ連合艦隊の方式がここで役立ちます。
連合艦隊では、空母などの旗艦船を中心として、周りに小さな駆逐艦が取り囲んでいる護送船団方式が取られていました。それぞれの船の役割がキチンと決められていて、確実に目的を達成する方式です。
小売業界でも、この方式を展開しているスーパーは数多くあります。大型のスーパーを旗艦店として出店し、その周りに中規模のスーパー、小規模のコンビニを随所に配置することで、お客様の同社での購入機会を増やすようにしています。
大型塾と小規模塾のコラボ
駅前またはロードサイドなどにたくさんの生徒を収容できる大型の塾を作る際には、次のことが考えられます。
そこにすべてを集中させるのではなく、周辺にある特急通過駅の前や、地元の主婦が利用するスーパーの隣などに、小規模の塾を作る船団方式です。
その際、通常は近くのところに通塾して、日曜や長期の休みの際に、スクーリング形式で、旗艦塾に生徒を集めて授業を行うということができます。
これの良いところは、全体として生徒数が多くなるため、様々なクラスや科目を設定することができます。
例えば、理科実験クラスにしても、一つの塾ではなかなか生徒が集まらず成立しないクラスでも、周辺からスクーリングに来てもらうと生徒数が確保でき、クラスができるということです。
優秀な教師の確保と活用
教師の有効活用ができるのも利点になります。例えば、英会話クラス担当の外国人教師を雇った時に、一つの塾で1〜2クラスしかできなくても、教師に移動してもらうことで、全部の塾で英会話クラスが成り立ち、しかも教師にも十分な給与を支払うことができます。
これは優秀な教師を雇うには、非常に重要なことです。経営者は雇用するスタッフの生活全般について考える義務があるからです。
グロスでの採算を考える
確率戦とは、お客様に自塾やクラスを選んでもらえる確率を高めるという戦略です。
そのためには、保護者や生徒にいたるところで自塾のことを目にし、話題になることが重要です。様々なクラスを展開するなど、いろいろなことを試行錯誤しているということも話題の一つになります。
船団方式で経営する際は、一つ一つの塾での採算よりも、グロスで採算が取れ利益を出すという考えを持つ必要があります。一人ひとりの生徒からの小さな授業料の積み重ねで経営が成り立つところから、様々なニーズをとらえたクラス設定や塾展開をしていくのが確率戦の言わんとするところです。 |