「1中学校区に1教室」を経営戦略に、京都府南部と大阪府北部で5教室を展開する学習塾ドリーム・チーム。開塾から6年、1年に1教室のペースで事業を拡大し、売り上げは、7月現在ですでに今年度の目標の達成が確定という業績を上げている。36歳の若さで代表を務める岩井俊夫氏は、大手企業を経て、不動産業界から転身した異例の経歴の持ち主。前歴を生かし、果敢なチャレンジ精神で、さらなる事業拡大を目指す。
万全のテスト対策で
60点アップの塾生も
阪急線茨木駅から徒歩5分、市役所などが並ぶ官公庁街の交差点を曲がると、2階にドリーム・チームの教室が入ったビルがある。掲げられているのはドリーム・チームではなく、「養精ゼミナール」の看板。「養精」とは、大通りを挟んですぐの「養精中学校」を指す。
地元の公立中学校名をあてるのは、すべての教室名に共通する。ドリーム・チームのコンセプトは「1中学校区に1教室」。「中学校名を出すことで、あの中学校の専門の塾だとわかってもらえる」と岩井代表。
塾生(中学生)の100%が養成中学校の生徒だ。全教室では、対象中学の1クラス10〜15%が塾生という。目標はシェア20%。
ひとつの中学校に特化しているだけあって、その指導は学校のノートまで把握したきめ細かさが特長だ。テスト前には、合計2,000分以上の対策授業を無料で実施。学校の指導方法・進度・教員・過去問題を研究した万全の内容で、点数が60点近く上がる塾生も多くいるという。
「テストの成績を上げることが、子どもたちのやる気を上げる一番の方法。ひとつの中学校に絞ることで、綿密な指導が可能になります。一長一短はありますが、メリットのほうが大きい」と岩井代表は話す。
しかし、「1中学校」に特化すると、学年によって集客率にムラがある場合、不利益を被りかねない。その弱点を補うのが組織展開。ドリーム・チームでは、店舗数を確保することで、スケールメリットを出している。「2012年までに12店舗、年商3億円」が、短期目標だ。
●経営のポイント
- 「1中学校区に1教室」のコンセプト、学校の成績を上げるという初期目標が明確でわかりやすい。
- 集客率のムラは店舗数を確保し、スケールメリットでカバー。
中学生予備軍も視野に
的確な店舗展開
岩井代表がドリーム・チームを設立したのは、30歳の時。開塾への道というと、大学時代のアルバイトの延長線上、あるいは大手塾に勤務した後に独立といった形が一般的だが、岩井代表はそのどちらにも当てはまらない。
再就職した不動産会社がたまたま学習塾を運営していた。未経験で責任者を任されたものの、1年足らずで塾が閉鎖。子どもたちと接するうちに目覚めた教育への情熱と、かねてから抱いていた起業の夢が結び付き、設立したのがドリーム・チームだった。
異例の転身だが、それまでの経歴が学習塾運営に大いに役立った。例えば、店舗展開。「1中学校区に1教室」のコンセプトのためには、「中学校から至近」というのが立地の大前提。住宅街や文教区は駅前よりはるかに家賃が安く、また、競合する塾が少ないといううま味も伴う。
さらに、「1学年200人以上の中学校区」かつ「0歳から5歳までの中学生予備軍の人口が多い地域」というのが必須条件。出店には、人口分布に照らし合わせた入念な地域調査が必要になる。その際、前職で得た地域情報、店舗の良しあしを見分ける目は、岩井代表の大きな強みだ。
また、内装工事の段階でも、自分で図面を描いてプランニングし、できる部分は自らスタッフと一緒に作業することで、費用を低く抑えている。「自分たちで創ることで、より一層塾にも愛着がわきます」と岩井代表。
自身を「素人」と言ってはばからない謙虚な姿勢も、プラスに働いた。経費がかかることより、「会社を早く大きくする」ことを最優先してコンサルタントに相談、料金設定などはプロに任せている。何より、自分の強みや弱みを客観的に把握できるようになったという。
●運営のポイント
- 出店は立地条件に徹底的にこだわる。ターゲット層だけでなく、予備軍の人口分布までチェック。
- 内装工事のプランニングや作業を自分たちでこなし、経費を低く抑える。
- コンサルタントに相談し、プロのアドバイスを生かす。
人生は楽しい!と伝えたい
初任給30万円が目標
ドリーム・チームは中学生をメインに、小・中・高校生が対象。地域密着型の集合授業を基本に、苦手教科補強のための個別指導も行う。さらに、集合と個別の両方の授業を受講できる「ハイブリットコース」も用意、塾生の多様なニーズに対応している。
また、今春は個別指導だけの教室を開き、新しい試みも始めた。
課題はスタッフの育成。現在、正社員10人、学生アルバイト39人を抱えるまでに規模が拡大し、研修の充実を図っている最中とのこと。
しかし、岩井代表は「塾は人。スタッフが楽しそうによく頑張ってくれている」と賞賛する。「子どもたちに一番教えたいのは、人生は楽しいということ。そのためには、大人が楽しく働いている姿を見せなければダメ。子どもたちに塾の先生はいい仕事だよと言えるように、初任給30万円が目標です」と熱く語る。
異業種出身であることを武器に変え、明確な目標とビジョンに向かってチャレンジする岩井代表。こうした若手のパワーが、学習塾業界を元気にする。 |