■第1原則――ともかく「総量」
塾業界に限らず、チラシは狭い範囲の広告媒体として最良のツールといってよいかもしれません。そのせいか、巷には「チラシの作り方」を伝授しますという書籍類が掃いて捨てるほどあるようです。試みに皆さんも近所の本屋さんに行って、デザインや広告関係の書棚をご覧になってみればよろしい。似たようなタイトルの本がズラリと並んでいるはずです。
また、効果的なチラシ作りをお手伝いしますという業者も、かなりがんばっている様子です。良心的な業者ばかりならよいのですが、これなら絶対に集まりますよと言われて、高い料金をふんだくられた方がいるという噂もまま耳に入ってきています。注意するに越したことはありません。
ところで、こうした書籍や業者の場合、「たった1、2回」、しかも、「比較的わずかな枚数のチラシ」でたくさんの集客ができるかのようなうたい文句になっていることが少なくないようです。が、本当にそんなことが可能なのでしょうか。
普通、それは不可能です。
もちろん、例外はあるでしょう。5千枚のチラシを1回折り込んだだけで50人の入塾があった、100人の申し込みがあったという経験をわたし自身がしています。
しかし、常識的に言えば、それはあくまで何かの弾みで生じた幸運な例外で、恒常的にそんな奇跡を呼ぶチラシの制作方法など、おそらくこの世に存在しておりません。
折り込みチラシはまずは量と回数、つまりは消費者の手許に届く総量の問題――わたしはこれが折り込みチラシ集客の第1原則だと考えています。
余談になりますが、昨年2、3月期、上場塾の多くが前年比売上減という事態に遭遇しました。主な理由は、学力中間層の塾離れとされていますが、それだけではありません。一昨年2、3月期の各社の損益計算書をみると、上場塾平均の対売上広告費比率は8・2%でした。ところが昨期は7・2%。1・0ポイントも下がっています。
年間売上100億円の塾があるとします。1%を金額に直すと、言うまでもなく1億円。チラシ1枚折り込むのに5円かかるとして2千万枚分です。
チラシが2千万枚減るとどうなるか。1万枚で1人の入塾があるとすれば2千人、入塾者が少なくなっていることになります。
100億円を売り上げる塾ですから、塾生数は3万人というところでしょうか。その中での入塾者2千人減少は痛い。決算書が悪化するのは当然でしょう。
もちろん、下がった1ポイント分すべてがチラシ代とは申しません。が、大手塾の広告といえども、その半分以上は、間違いなく折り込みチラシだと思われます。
とすれば、やはり1回当たりの折り込み枚数を減らした、あるいは同量でも折り込み回数を減らしたのが直接、業績悪化につながっているとみて的外れではないでしょう。
株式を上場するほどの大手塾にしてかくの如し、いわんや中小塾においておや…。折り込みチラシ集客の第1原則は量と回数、肝に銘じておいていただきたいと思います。
■第2原則――まず「目立つ!」
2つ目の原則は、「目立つ」こと。
折り込みというのは一体、毎日何枚くらいあるものかと気になってこの週末、わが家に配達された朝刊に折り込まれたチラシの枚数を数えてみました。スーパー、電器量販店、マンション、不動産、パチンコ屋、美容室、ダイエット食品、スイミングスクール、それにもちろん塾などなど、合わせて実に36枚。金曜日の朝だけでこれだけありました。
地域や季節や曜日にもよるでしょうが、新聞には毎日かなりの枚数のチラシが折り込まれてきます。そうした中で自塾が折りこんだチラシを、消費者が手にして眺めてくれるところまでもっていくためには、とにもかくにも外観上、目立たなければなりません。さもないと、まとめて直ちに新聞の回収袋に入れられてしまいます。
では、目立つためにはどうすればよいのか。
方法は2種類あります。1つは大きさや紙質、形状等々、物理的な面を他のチラシと異なるように工夫すること。具体的には取り急ぎ、自塾の市場内に毎日折り込まれるチラシを一定期間きちんと調べて、B4判が一般的ならB3判に、コートの55sが多いようならマットの70kgにという具合に、できるだけ一段上のものにすることでしょう。
一段上のものにすれば、当然、印刷費も折り込み代もかさみます。が、たとえそれらが2倍になっても、普通のチラシの3倍の消費者が手にしてくれるようなら、元をとった上にオツリが来ると考えるべきではないでしょうか。
もう1つは、デザイン上の工夫です。両面印刷なら、少なくとも片面には目を引く原色を使う、目一杯大きな写真を入れる、大きな文字や数字を使う。すぐ思いつくのはこんなところでしょう。
言うまでもありませんが、折り込みチラシは芸術作品ではありません。キレイ汚いという尺度よりも、消費者が気づいてくれるかどうかという尺度が優先されます。その意味では、例えば、地域の誰もが知っている学校や人物の写真、身近な地名などを大きく載せたりすることも効果的かもしれません。
■第3原則――訴求対象は「母親」
訴求対象という言葉をご存知でしょう。広告宣伝を行う際、訴えるべき対象となる人物像のことです。
塾の広告の訴求対象を誰にするかは、かなり議論のあるところです。が、わたしは、少なくとも「折り込みチラシ」に関しては、保護者、それも母親に絞るべきだと考えています。何となれば朝、父親がチラシを丹念に眺める姿はあまり見ませんし、ましてや小中学生であれ高校生であれ、子どもたちがそうしている風景など、ほとんど想像もできないからです。したがって、消去法ではありますが、折り込みチラシの訴求対象は母親。これがチラシ集客の第3原則ということになります。
ところで、訴求対象を母親に絞るといっても、例えば小学校高学年の子どもを持つ30代後半の母親、中学生を持つ40歳前後の母親、高校生を持つ45歳前後の母親で、好みや意識は全く違いますし、生活レベルでも意識は全く違ってきます。それをしっかり理解した上で、自塾が提供するサービス内容に合わせて、どこまで対象層を絞れるか。絞れば絞るほど、ピタリとハマった内容伝達が可能なわけですから、このあたりが折り込みチラシの成否の鍵を握っているといっても過言ではないような気がします。
ちなみに、折り込みチラシはラブレターであるとよく言われます。30歳から50歳までの女性すべてが胸キュンとなるようなラブレター、皆さんはお書きになる自信がおありでしょうか。こう申し上げれば、絞ることの大切さがおわかりいただけるでしょう。
付け加えておきますと、折り込みチラシの訴求対象は母親ですが、高校での校門配付の場合はもちろん高校生本人、中学校での校門配布も本人、新聞広告なら父親、TVCMは本人ないし母親と、メディアによって対象は変えなければなりません。
■第4原則――記載内容の中心は「成績」
母親はなにゆえ子どもを塾に通わせるのか。もっとも根本的な理由が、子どもの「成績の向上」であるのを否定する方はおられないでしょう。母親は、わが子の成績を上げるために少なからぬ費用と、毎回の送迎という負担をあえて忍んでいるわけです。
であるならば、チラシ記載の内容の中心は間違いなく「成績」でしょう。ウチに通えば成績が上がる、ウチに通って成績が上がった――この部分が肝心かなめの部分であり、これを一番魅力的な手法で記載することが、チラシ集客の4番目の原則です。
いま、「一番魅力的な手法で」と申し上げました。
成績が中心というと皆さん、有名校に何名合格者を出したという、合格者数の面ばかりに眼が向きがちです。が、「成績」にもいろいろあります。
もちろん、地域ナンバーワンの○○高校合格者の半分以上をウチの塾が輩出したというような広告や、△△中学校の中2学年末テスト、トップ10のうちの6人がウチの塾というような広告が、一番効果的であることは言うまでもありません。
とはいえ、それができるのはホンの一握りの塾だけでしょう。また、母親の全てがそうした塾がよいと考えているわけでもありません。
もっと正確に言えば、大方の母親が求めている塾は、子どもの現在の成績や性格にピタリと合った、相性のよい塾でしょう。
いたずらに背伸びをして、派手に合格実績をうたうことはありません。個人情報の問題もあって、難しい面もあろうかと思いますが、「昨年、これだけの成績の子をこういう風に指導して、これだけ上げた」というような記載の仕方で十分です。要は、こうした「成績の向上」にかかわることをしっかりと載せておかないと、塾の広告にはならない、広告効果は半減するということをお忘れにならないでいただきたいということです。
■第5原則――「差異」の強調
最後の5番目の原則は、他塾との差異を強調することです。
わが国の広告は従来、他社の商品との比較を避けてきました。角を立てたくないという国民性なのかもしれません。しかし、消費者が一番知りたいのはその違いなのであって、それを察知したのか、ここ数年、比較広告も堂々と行われるようになってきています。
遠慮することはありません。ウチは他塾より安いというなら、他塾の料金を引き合いに出す、ウチのほうが合格者数が多いというなら、他塾の数と並べる、ウチの数学の授業時間のほうが長いというなら、他塾の時間割も提示する。実名を出すのがはばかられるようなら、匿名にする手もあります。
10数年前からでしょうか、塾業界では「淘汰」という言葉が使われるようになってきました。以来、塾関係者の間で繰り返されたのが、生き残るために「特徴のある塾を作れ」です。
わたしももちろん、そうした考え方には賛成です。が、他と全く違う特徴などというものは、自塾によほどの資質が備わっていない限り、簡単には作れません。
ならば、他との差異を強調すればよい。皆さんはどうみておられるかわかりませんが、塾を見て回るのが仕事のようなわたしに言わせれば、塾ほど個々の違いの大きい業界はありません。
まずは、同じ市場内の競合他塾を十分に研究する。その上で、自塾との差異を析出する。それを丁寧にチラシに書き込む。
繰り返しになりますが、消費者が知りたいのはまさにその「差異」であり、それを明らかにすることが消費者への本当の親切です。さらに、そうする中で、おのずと自塾の特徴も見えてくる。一石二鳥ではないでしょうか。 |