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2008/7 塾ジャーナルより一部抜粋

“学習塾力”活用セミナー
子どもたちのために「学習塾は学校と、こう連携する」

  2008年6月8日(日) / 於 東京芸術劇場 大会議室(東京都豊島区)
主催 社団法人全国学習塾協会
 
     
 文部科学省は今年度から「学校支援地域本部」事業をスタートさせた。これは保護者や地域住民らがボランティアとして学校教育を支援するもので、学習塾の果たす役割にも期待が寄せられている。そこで、社団法人全国学習塾協会は6月8日(日)、“学習塾力”活用セミナーを開催し、文部科学省より事業の目的とその内容について説明を受けた。また、特別ゲストとして杉並区立和田中学校前校長の藤原和博氏を招き、会場との質疑応答を通じて学習塾と学校との連携の可能性を探った。

 冒頭、社団法人全国学習塾協会の伊藤政倫会長は「PISAで日本の順位が下がっている。しかし、学校と学習塾が連携することで、日本の子どもの学力を再び世界一に輝かせたい。本日がその第一歩となることを祈念する」と主催者挨拶を述べ、セミナーを開会した。

 セミナーでは、最初に、文部科学省生涯学習政策局社会教育課地域・学校支援推進室長の佐藤弘毅氏が「学校支援地域本部」事業について説明した。

■「学校支援地域本部」事業の概要

 文部科学省は今年度、50億円の予算を計上し、全国1,800ヵ所の全市町村を対象に「学校支援地域本部」事業をスタートさせた。全国の中学校区を基本的な単位として、地域全体で学校教育を支援する体制づくりを推進していく。

 佐藤氏はこの事業の趣旨として、次の3点を挙げた。

  1. 子どもたちの教育の充実。地域の大人がさまざまな形で学校に入ることにより、多様な教育プログラムが可能となる。
  2. 参加する側にとっては、知識・経験を発揮する場であり、社会教育的な側面もある。
  3. 子どもの教育を通じて、地域の大人が連帯することで、地域の教育力がアップするとともに、地域の活性化にもつながる。

 学校支援地域本部は、地域教育協議会・地域コーディネーター・学校支援ボランティアの3つの要素で構成される。地域教育協議会は、学校長や教職員、自治会長などが参加し、全体の方向性などを協議。地域コーディネーターは、学校と支援ボランティアの間を調整する役割を担う。支援ボランティアは、学習支援や部活動指導、学校の環境整備など、実際に支援活動を行う。

 佐藤氏は、学習塾のかかわり方について、「学校教育と地域の両方に通じている人材として、地域コーディネーターという形で、ご支援・ご協力いただきたい」と期待を語った。

■学習塾と学校の連携

 次に、全国[よのなか]科ネットワーク事務局長の若江眞紀氏(株式会社キャリアリンク代表取締役)が、具体的な取り組みについて説明した。

 同事務局は、文科省の委託を受けて「新教育システム開発プログラム」事業を担当。「地域とつながる学校経営」をテーマに調査検証を行い、学校支援地域本部をつくるためには、まず学校において、「世の中とつながる授業」を実施できる教員養成が必要であると、全国各地で校長・教員研修を開いている。

 若江氏は「学校支援地域本部」事業の一番の目的は「学習支援」であるとし、ボランティアの活動例として、学習教科指導のATやTT、総合的な学習、キャリア教育などを挙げた。

 また学習塾については、「地域住民の1人であると同時に地域の事業者としての立場もあり、CSR(Corporate Social Responsibility)が期待されている」と話し、「教育と『世の中』の両方を知る塾の先生方に地域コーディネーターとして、学校と地域の橋渡しをしていただきたい」と理解と支援を求めた。

 この後、特別ゲストの藤原和博氏を迎え、伊藤会長の進行で会場から質問を受け付けながら、学習塾と学校との連携について語った。

 藤原氏は東大経済学部卒業後リクルート社に入社。東京営業統括部長・新規事業担当部長・フェローを歴任して、2003年に都内で義務教育初の民間人校長として杉並区立和田中学校長に就任。地域住民による学校支援活動を組織化して「地域本部」を発足。土曜日の午前中に生徒が学校で自習する「土曜寺子屋(ドテラ)」や、外部講師による英語の授業「英語アドベンチャーコース」を開始した。今年1月からは「地域本部」主催で、塾講師による有料授業「夜スペシャル(夜スペ)」を開始。3月31日に同校を退任した。

■杉並区立和田中学校前校長・藤原和博氏に聞く

伊藤 本日は会場から質問を受け付けながら、藤原先生にざっくばらんに語っていただきたいと思います。

[質問者] 子どものために学校を支援することに異論はない。しかし、なぜ教師の本業である学習指導にまで、地域の力が必要なのか?

藤原 教員だけではもう限界だからです。今の社会はすべてが多様化しているのに、保護者を含めて大人たちはいまだに子どもが一様だと思っています。昔は例えば、数学ができない子、できる子、普通の子と分けることができました。しかし今は、数学ができない子どもをひとくくりして指導するのは不可能です。できない子ども、小学校で算数を履修してこなかった子、計算は得意だが、文章題ができない子、家庭に問題があり、落ち着いて勉強できない子など、横に細かく分かれています。一方、学校の先生は、評価が「3」の子を「4」にするのが得意です。次に意識が向くのは「2」、次は「4」という順番でしょう。つまり「4」や「5」の子どもを「6」に引き上げることや、「1」の子の指導まで、全部を先生に任せることには無理があります。特に事情のある子どもには、個別に対応しなければなりません。そのために、地域の大学生や塾の力が必要です。実際に和田中では、障害があって算数ができなかった子どもを、ある塾の先生がDSを使って集中的に指導し、「4」に近いところまでもっていってくれました。
子どものことを考えるなら、全国1万の中学校は、今すぐにでも地域の力を借りなければならないはずです。

伊藤 学習塾との連携というと「夜スペ」が有名ですが、全国どこでもすぐにできるものではありません。私はむしろ「土曜寺子屋」に塾の先生の出番があるように思います。

藤原 5年前に「ドテラ」を始めたときは、大学生のボランティアが1人、生徒は20人でした。今では大学生が35人で、全校の半分近い150人の生徒が通っています。「ドテラ」に学習塾の先生が、大学生を指導する立場で入ってきていただくことは十分に考えられます。先ほどの塾の先生のように、数学ができない子どもを引き受けてくださると、学校の先生でも頭の開けた人はありがたがると思います。ただし、なかにはプライドから、塾の先生をなかなか受け入れられない人もいますが…。土曜日の午前中3時間の「英語アドベンチャーコース」は、塾長や大学の准教授に担当してもらっています。これは有料で月額6千円です。生徒に好評で、今の2年生は150人のうち70人が受講しています。和田中では授業時間を50分から45分に短縮してコマ数を増やし、英語は週に4コマ設定しています。選択授業で英語を受講するとプラス1コマ。さらに土曜日の3コマを加えると週に8コマになります。その結果、現3年生は英検準2級以上が20人以上、3級が40人以上になり、全国1万校中50位以内に入りました。生徒たちは帰国子女でも特別な英語教育を受けてきたわけでもありません。英語をもっと勉強したいという子どもに3コマを追加しただけです。現2年生はさらに驚くべき成果を上げると確信しています。ベスト10にランクインすれば、他の中学も少しは慌てるでしょう。英語や数学は、ついていけない子どもに合わせるとどこまでもレベルが下がっていってしまいます。分けて指導するしかありません。そこに塾の先生に入っていただく方法がよいのではないかと思います。

[質問者] 藤原先生は、学校の中に地域社会を取り組む努力をされてきた。しかし、学校支援地域本部は地域の組織なのだから、学校で何もかも背負い込まずに、生徒を外に出すという発想があってもよいのではないか。

藤原 私も校長として赴任するまでは同じ考えでした。例えば、部活動はサッカーのクラブチームのようなところもありますから、機能を分化できます。しかし、現場に入って2ヵ月で考えが180度変わりました。もっと学校で背負い込まなければならないと。なぜなら、家庭が破綻しているからです。具体的には言えませんが、約3割の家庭は学習フォローがほとんどできない状態。1割は完全に破綻しています。今はどこの公立中学でも、生徒の3人に1人は家族に問題を抱えています。学習塾で預かっている生徒はおそらく上位3割が中心でしょう。下の3割の子どもは学校が全部抱えてつなぎとめなければ、警察か病院あるいはもっと悲惨な状況に追い込まれてしまいます。ですから、放課後も土曜日も家に戻さず、学校で面倒をみる必要があるのです。例えば、虐待を受けた子どもは集中力に欠け、忍耐力もありません。クラブ活動を続けさせるのもだましだまし。出てこないときは先生が迎えに行っています。そういう子どもたちが少なくないのが、今の日本の現実です。

 この後も会場からは「教育長や校長に求める資質は?」「今後の活動予定は?」など質問が次々寄せられ、終了予定時間を過ぎても熱心な議論が展開された。最後に藤原氏は、いま取り組んでいるゲームについて語ってくれた。

「目の前に、100×100=1万の升目で構成されたオセロ盤があります。全国1万の中学です。10年前はすべて黒で埋め尽くされていました。5年前に和田中が白に変わりました。あと5年ぐらいで盤を真っ白にしたいと考えています。そうしなければ、もう学校がもたないからです。塾とも大学生ともPTAのOBとも手を握り、そのモデルを全国に広げていかなければなりません。その仕事を2年前から、若江さんが教員研修という形で始めてくれていて、いま20〜30が白くなりました。今年中におそらく200〜300は白くなるでしょう。

 あとは残りの3隅をどう取るか。ひとつは学校支援地域本部。もうひとつは民間校長。学習塾の塾長にも民間校長になっていただきたい。そして残りの1隅は、今ここにいる先生方です。皆さんに今日からこのゲームに参戦していただけますよう、切にお願い申し上げます」。

 藤原氏が語り終えると、一斉に拍手が沸き起こり、会場に共感の輪が広がった。

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