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2006/7 塾ジャーナルより一部抜粋

学校の「組織力」を高める

小松 郁夫(こまつ いくお)
1947年秋田県生まれ。東京教育大学大学院博士課程修了。東京電機大学助教授を経て、1993年10月より国立教育研究所学校経営研究室長に就任。その後、2回にわたって英国バーミンガム大学客員研究員となる。現在は国立教育政策研究所で教育政策・評価研究部長と初等中等教育研究部長(併任)を務める。また、横浜市教育改革会議委員(学校運営部会長)、川崎市教育改革推進協議会(座長)、足立区学校支援委員会(委員長)など、各自治体での教育改革に関与している。〈主な著書〉『学校経営の刷新』(共編 教育開発研究所)、『諸外国の教育改革と教育経営』(共編 玉川大学出版部)、『現代教育行政の構造と課題』(共編 第一法規)など。
 

1.学校の組織マネジメント改革

 近年の教育改革論議で、学校の組織マネジメントが重要なテーマになってきている。全国各地でそうして教員研修が盛んになっており、PDCAというマネジメントサイクルは、いまや多くの学校管理職たちの関心の的である。PDCAとは、いうまでもなく、PがPlan(計画)であり、目標を設定して、それを実現するためのプロセスを設計(改訂)することを指す。DはDo(実行・実施)であり、計画を実施し、そのパフォーマンスを測定することである。CはCheck(評価・監視)であり、測定結果を評価し、結果を目標と比較するなど分析を行うことである。最後のAはAct(改善)のことであり、プロセスの改善・向上に必要となる変更点を明らかにすることである。学校を含め、組織の経営改善として、このプロセスを順に実施し、最後の改善を次の計画に結び付け、らせん状に品質の維持・向上や継続的な業務改善活動などを推進するマネジメント手法であり、それによって、より質の高い成果を継続的、発展的に実現していくことが求められているのである。

 実質的な内容を考察すると、私は最初のPはPlanというより、Design(企画)的な機能を想定した方がより実質的な、意義あるプロセスを構築できると思うことがある。また、最後のActも、同じAで始まる単語でも、Adjust(調整・調節)的な機能を想定し、単に何か実践をすればいい、という漫然とした改善過程を避けるように留意することが大切ではないかと考えている。なにはともあれ、量的改革から質的な改革、革新が求められる昨今、1950年代、品質管理の父といわれるW・エドワード・デミング(Dr. William Edwards Deming)博士が、生産プロセス(業務プロセス)の中で改良や改善を必要とする部分を特定・変更できるように、プロセスを測定・分析し、それを継続的に行うために改善プロセスが連続的なフィードバックループとなるように提案した、このデミングサイクル(Deming cycle)の考え方は、非常に重要な指摘であることは間違いない。

 このPDCAには、組織全体に渡る大きなPDCAから、組織成員の業務単位の小さいPDCAまでさまざまな規模が想定できる。組織レベルの大きなPDCAとは、経営のトップが戦略的な方針を決定し(P)、これを元に事業活動を行い(D)、ミスやトラブルがないことを監視し(C)、あればこれを改善する(A)、というようにイメージできる。組織成員レベルの小さなPDCAとは、ある朝に、その日の業務の優先度を決め(P)、その順番で業務を行い(D)、うまくいったところとダメだったところを比較し(C)、ダメだったところは明日はうまくいくように改善してみる(A)、と表現できる。

2.組織力を高める方法

 学校を訪問すると、しばしば自分の授業には高い関心と改革意欲を示すが、児童生徒の立場に立って、学校組織全体の教育力をどのように高めるか、そのために自分はどのように業務を遂行すべきかに、ほとんど関心を示さない教員が少なくないことに驚く。いうまでもなく、学校は寺子屋でもないし、個人塾でもない。小学校では6年間、中学校や高等学校では3年間を通して、育てたい児童生徒の姿があり、学校とは、校長のリーダーシップの下で、教職員が組織的に教育活動を行う場であり、公教育機関としては、社会公共的な使命を果たす場である。それを計画的、組織的に運営していくために、学校の組織マネジメントがある。それでは、学校がその組織的力、組織力を発揮するにはどのような課題があるのであろうか。

 もちろん、組織がその使命を果たすには、それぞれの組織成員の基礎的能力が高くなければならないし、リーダーにはさまざまな資質能力が求められる。さらにいえば、組織成員の能力が高く、リーダーが優秀でも、基礎となる条件、たとえば予算が極端に不足していたり、施設や設備が貧弱であっては、十分な成果が期待できないこともある。ここでは、そうして基礎条件が一定程度整備され、その上で組織としての成果を最大限にするには、どのような創意工夫があるかを考えることとする。

 さて、ここで取り上げる組織の力とは、「組織が引き受けた役割を最大限に発揮し、その成果をもっとも価値あるものとするために、自らを変革し、期待される結果を出していく力」と想定する。その上で、「組織力」をわかりやすく、業務に関する「戦略の企画立案能力」(「戦略能力」とする)と業務の「効果的な遂行能力」(「遂行能力」とする)との2つに整理して考える。

3.「戦略能力」は環境との交換能力

 まず、組織の目指す方向や目標に関わる「戦略能力」について考えてみよう。学校で行われる教育活動は、他の組織的活動とやや異なって、相互に意思を持つ教授者と学習者(児童生徒)の間の相互作用による、オープンエンドな活動であるという特徴を持つ。確かに、きっかけは教授する役割を引き受けた教師の側からの教育的働きかけから始まるが、それが学習者に主体的に受け止められ、学習意欲を喚起しなければ、その段階でこの「教授−学習」関係は不成立に終わる。あくまで、学習者の側に学習過程の変化が派生し、さらにそれに働きかけるという、相互作用が成立することが要件となる。しかもそのプロセスは、オープンエンド、すなわち、これで満点であり、終了というプロセスではなく、さらにその上の価値を目指すという、終わりのない相互作用である。

 学校は未来社会で生きる人間を育てる組織である。そのためには、現実の社会がどのようなものかを的確に認識し、外部環境の変化に敏感に反応し、それに適応する力(「外部環境の変化に適応し、必要な働きかけをする交換能力」)が求められる。これを組織の「戦略能力」と考える。この能力は、関係者にとって、できるだけわかりやすく、目的や目標との間では、整合性がとれている必要がある。学校が目指す姿を組織の内外に明確に示し、関係者の間で意識を共有することが肝心である。

4.「遂行能力」は本務に関わる能力

 組織力は、「戦略能力」と「遂行能力」の相乗効果によって形成されると考えられるが、後者の「遂行能力」とは、業務を着実に実行していく能力のことである。組織活動の本丸の活動である。したがって、この業務は、組織成員にとって本務的な業務と考えられる。スポーツでも監督が優秀で、チームの基礎的条件が整っていても、肝心の選手が戦略を理解し、戦術を的確に遂行できなければ、勝利は勝ち取れない。

 優れた組織とは、リーダーが組織を率いて明確なビジョンや戦略をわかりやすく示し、それを個々の具体的な戦術に落とし込んで、できるだけ無駄なく遂行して成果を出すことと、逆に、各組織成員が日々の業務遂行の中から、発見された問題点や改善課題を、いち早く実践しながら、全体的な戦略や戦術へと昇華させることが肝心である。

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