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2006/5 塾ジャーナルより一部抜粋

教育組織経営のビッグバン

小松 郁夫(こまつ いくお)
1947年秋田県生まれ。東京教育大学大学院博士課程修了。東京電機大学助教授を経て、1993年10月より国立教育研究所学校経営研究室長に就任。その後、2回にわたって英国バーミンガム大学客員研究員となる。現在は国立教育政策研究所で教育政策・評価研究部長と初等中等教育研究部長(併任)を務める。また、横浜市教育改革会議委員(学校運営部会長)、川崎市教育改革推進協議会(座長)、足立区学校支援委員会(委員長)など、各自治体での教育改革に関与している。〈主な著書〉『学校経営の刷新』(共編 教育開発研究所)、『諸外国の教育改革と教育経営』(共編 玉川大学出版部)、『現代教育行政の構造と課題』(共編 第一法規)など。
 

 現在の日本では、国も地方自治体も財政再建や行政改革が喫緊の課題である。その理由は、いつまでも続くと思われていた右肩上がりの経済成長が終焉し、国や地方自治体の歳入の基本となる税収が落ち込み、他方で様々な需要が膨らんできているからである。一端、公費支出への道を開いた公共サービスは、それにともなって職員が雇用され、組織も整備されるから、収入が減少しても、そう簡単には縮小や廃止はできない。まして今日の日本社会は少子化と高齢化、ますます進行する都市部への人の移動などにより、不均衡に地域の発展と衰退が進行しており、それぞれの地域の行財政的課題は多様化している。

 これまでにも国や地方自治体は公共事業の見直しなどを進め、業務の効率化や歳出削減に工夫を重ねてきているが、現在の状況はきわめて深刻で、そのような技術的な対策だけでは追いつかなくなっている。いわば、「節約と我慢」の手法では限界があり、今後は、限られた資源と人材を取捨選択し、重点化と戦略に基づく効果的な資源配分を推進するという「選択と集中」の手法を採用せざるを得なくなってくる。選択や集中の手法を採用し、効果的に事業運営をするためには、第一に目的を明確化すること、第二に何が最適な事業であるかを見極めること、第三には、費用対効果を基軸に多面的な基準で成果を見極めることが重要である。そのことを、教育組織を題材に考えてみよう。

1.業務の「効率化」から「価値の最大化」へ

 相変わらず教員の多忙感が解消されない。それを改善するためには、学校全体の業務の見直しや効率化がまず先決であろう。ある学校で職員の机の配置を変更したり、コピー機の場所を変えただけで、意思疎通が図られたり、職員のムダな動きが減少したと言われる。学校は他の組織にまして、きめ細かいコミュニケーションが必至な組織である。問題のある学校では、職員がお互いの想いを効果的に交流し合うのではなく、目指す方向などがチグハグなままで、暗黙の了解の下で合意形成をしてしまうことがよくある。さらに、お互いを斟酌するという日本的な人間関係のために、一旦意思疎通がうまくいかなくなると、誤解や意思の行き違いが生じ、各人がストレスをためてしまうことが少なくない。その結果、授業への取組みそのものが粗末になって、教室での子どもとの関係も悪化していく。

 多忙感を解消するための取組みとしては、計画的で順序性のある業務遂行計画を立案することが基本となる。重要なのは、組織が向かう目標と方向性を明確にし、関係する組織や人がその目標を共有し、実現するためにとる行動を取捨選択し、職務遂行の状況の工程管理を的確に行うように支援することである。そこで提案されているのが、バランス・スコアカード(Balanced Scorecard)という手法である。これは、NPM(新公共経営)論の考え方を実際に試行・導入する際に試されている手法、ツールである。

 バランス・スコアカード(以下、BSCと省略)は、複数の評価指標を矛盾なく整合させ、戦略の共有化を図る経営システムとして、1992年にロバート・S・キャプランとデビッド・P・ノートンによって提唱されたものである。スコアカードとは、文字どおり成績表のことである。いろいろな視点で設定された「成績」をバランスよく均衡のとれた形で(Balanced)実現すること、そのために多角的、多面的、さらには相補的に職務遂行し、成果(成績)を挙げようとするのがBSCの手法である。そこでは、組織や組織を構成する下部組織(部局)のミッション(使命、役割)を明確にして、これを実現するために、組織内の各部署はどのような目標を樹立して、その実現を目指すのか(戦略の策定)を、様々な視点からバランスよく成果が挙がるように努力をすることを意味する。

 つまり、目指す目標に照らして、限られた資源をどのように総合的、組織的に投入し、活用したら、最大の成果が挙がるかを考えることが基軸になる。最近の企業的な組織では、単に利潤を生み出せばいい、という一面的な組織評価ではなく、ルールを遵守し、企業の成長を支持する顧客やその企業を支える従業員の満足度を高めてこそ、企業は長期的に、安定的に継続し、成長するものであるという理解が進んでいる。教育組織の場合は、学校であれ塾や予備校であれ、顧客としての児童生徒やその背後にいる保護者は、それほど流動的な顧客ではなく、一定期間、信頼関係や契約の下で、サービスを享受する人たちである。それゆえ、児童生徒の学力テストの成績だけというような、一面的な評価で学校などのパフォーマンスを評価するのは適切とは言えない。あくまで、組織が目指す教育的価値の実現、その価値の最大化を目指すのが関係者の目標であるはずだ。

2.バランス・スコアカードの意義

 企業活動でも教育組織の活動でも、どんなに自らが意義のある活動だと思っても、相手から支持されて、受け入れられなければ、商品やサービスは売れないし、サービスは満足してもらえない。サービスの需要者と供給者の間で齟齬のあるような過程では、従業員や職員も徒労感が増し、やがて、職務活動そのものが停滞をし、質が悪化する。「マーケット・イン」、すなわち市場や顧客の要求を的確に捉え、要求にあったサービスをタイムリーに供給しなければ、製品やサービスは購入してもらえない。教育の場合は、企業活動よりも複雑で、専門的に判断して必要と認め、相手が潜在的にでも求めていると考えるもの、あるいはその重要性を何らかの形で承認させられるものを提供することが重要である。
  提供者の側からの一方的な戦略に立脚した活動ではなく、相手の視点に立った戦略を策定することが重要である。そして、競合する組織と比較して、質の高いサービスを提供し続けるためには、優れた技術やプロセスを有していなければならない。さらに、そこで働く職員、従業員がサービス提供に対して、前向きな姿勢を持っていること、その上で不断により質の高いサービスを開発しようとする意欲の高い人間が集まっていることが肝要である。あるいは、そのように動機づけられたスタッフが必要である。

3.バランス・スコアカードの基本モデル

 BSCの基本では、企業組織の場合は、財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点の四つの視点を定めている。この手法の基本モデルを構成する主要な要素は、以下の通りである。(1)ミッション(使命)、(2)ビジョン(将来構想)、(3)戦略テーマ(ビジョン、目標をいかにして実現していくかの具体的な方策)、(4)前述のBSCの四つの視点、(5)戦略目標(四視点ごとに着手すべき具体的方策をブレークダウンしたもの)、(6)重要成功要因(何が重要な成功要因であるかを見定めることが重要。たとえば、学力向上とか進路意識の涵養など)、(7)業績評価指標(何で評価するのかについて、出来るだけ測定可能な指標を見つける)、(8)目標の設定(たとえば7割というように、どの程度の目標とするか)、(9)実施計画(具体的業務活動であり、行動計画)、(10)BSCの実行、(11)結果の分析と報告、である。

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