サイト内検索:
 
中学・高校受験:学びネット

 学びネットは、中学、高校受験のための情報ページです。学校紹介や塾経営にお役立て下さい。

今月号の紹介 学校散策 塾長のためのマンスリースケジュール 購読案内 会社案内
特集・スペシャル
   
2005/1 塾ジャーナルより一部抜粋

技術立国崩壊の危機 連載第2回 筒井 勝美
最近の子どもたちの数学嫌いは何故なのだろう?

筒井 勝美(つつい かつみ)
1941年福岡生まれ。九州大学工学部卒業。九州松下電器(株)入社、16年間新製品開発エンジニアとして、工場長として勤務。1979年円満退職。同年、中学校受験専門塾「九州英才学院」設立。その後、高校受験部門を加え「英進館」と改称。現在は、生徒数15,000人を超え、中学入試・高校入試ともに西日本トップの合格実績を誇る塾の館長。著書に『「理数教育」が危ない!』(PHP研究所)『どうする「理数力」崩壊』(PHP研究所、共著)がある。
 

日本の子どもたちの理数離れの現状

 最近、特にこの10数年、日本の子どもたちは年齢が高くなるに従って数学嫌い、理科嫌いの割合が増えているというデータがあります。また、世界の主要国の中学2年生を対象に数学の好き嫌いを調査したところ、日本の生徒たちは「好き」と「大好き」が主要国中最下位であり、しかも、1995年と1999年の差においては、5ポイントも「嫌い」が増加しています(図表1)。

数学の学校外での学習時間も理数科目の年間総授業数も日本の生徒は主要国の平均を大きく下回り、最下位となっています(図表2,3)。宿題を出す頻度も量も他国と比べ極端に少ない値となっており、年を追うごとに少なくなっています。また、自宅でまったく学習しない子どもも増加しています。

理数嫌いは受験勉強のせい?

 これまで、ゆとり教育推進派の教育学者や文化人は子どもたちの理数嫌いの増加は受験勉強によるストレスやテクニック中心の詰め込み教育が原因だと言ってきました。そのため、旧文部省は理数教育を中心に教科書内容の大幅削減(前月号で紹介)や授業時間数を減らし、子どもたちへの負担を減らせば、子どもたちはもっと勉強を楽しめ、好きになるのではないかと考え、ゆとり教育を推進してきました。

 果たしてこの考えは正しかったのでしょうか。ゆとり教育の導入により、学習内容、授業時間共に大幅に削減され、最近では、推薦入試が増え、受験競争の圧力も1980年代中頃をピークに軽減されました。それにもかかわらず、図表1のデータから明らかなようにむしろ理数嫌いは増加しています。

 たとえば、シンガポールは日本よりもはるかに理数教科内容は過密で受験競争が激しく、小学校高学年からエリートコースへの選抜があったり落第があるほどの国です。勉強による子どもたちのストレスは大きいと考えられますが、先ほどの図表1にもありますように、シンガポールの子どもたちの理数科目の「好き」「大好き」の割合は日本の2倍、世界第1位の多さです。日本とシンガポールでは一体何が異なるのでしょう。

理数好きのシンガポールの教育は

 シンガポールは淡路島ほどの大きさの国で、資源に乏しく、飲み水でさえ他国からの輸入に頼っている国です。しかし、シンガポールはNIESの一角を担う国であり、アメリカに次ぐ世界第2位の国際競争力を持つ国なのです。なぜ、シンガポールはこれほどまでに国際競争力を備えているのでしょうか。

 そのシンガポールは、受験勉強が大変盛んな国です。大学も国内に2校しかなく、幼い頃から数度にわたる全員試験でエリートを絞り、それぞれのコースに分けられます。コースによって進路が決められており、日本では批判的である教育に競争原理を反映させた知識重視、詰め込み教育を行っています。シンガポールの国民は資源が乏しい国家として、人的資源が国の繁栄を決める唯一のものであると全国民が理解し、教育に最重点を置くことを支持しています。

 日本とシンガポールの小学2年生の授業時間を比較すると、週当たりの授業時間は日本が1008分、シンガポールが1500分と日本が週当たりで7時間、約1日分少なくなっています。また、科目別に見ると、国語はほぼ同程度の授業時間であるのに対し、算数は日本の2倍もの時間を費やしており、教科書内容も日本より約100ページ(2倍)も多くなっています。

 そのような状況ではシンガポールの子どもたちのストレスは非常に大きいはずです。しかし、シンガポールでは多少のストレスがあっても、受験勉強による知的レベルの向上や、競争に早くから慣れ、将来の競争社会でのストレスに免疫をつけるなど、鍛えられるメリットを重視し、それを国民が支持しているのです。そればかりか、シンガポールの子どもたちの理数科目の好感度はシンガポールの児童全体の3分の2にも及び、調査国中第1位を示しています。

ゆとり教育がもたらした子どもたちの理数嫌い

 今まで、教育学者や文化人が言ってきた主張が正しければ、シンガポールは理数嫌いが多く、日本は理数好きが多いはずです。しかし、結果は全く逆であり、しかも、前述しましたように、日本の生徒の理数離れは年々進んでいます。なぜ日本はこれほど理数離れが進んでいるのでしょうか。

 それはゆとり教育に原因があるのではないかと私は以前より考えておりました。旧文部省は授業内容を削減し、レベルを下げることでもっと勉強を楽しめるのではないかと考え、ゆとり教育を推進したのですが、このシンガポールの例やゆとり教育以前の日本の教育。理数内容が豊富で理数力が高く、理数好き国民だったことを考えれば、大きな失策でした。数学や理科などは一見とっつきにくい教科かもしれませんが、理解できるようになればなるほど、解答を導く楽しさ、面白さが芽生え、「好き」に転じる学問なのです。さらに、難しい問題に挑戦し、難問が解けた達成感でもっとやる気が出てきます。一方、どこかでつまずくとその先がわからなくなってしまう積み重ねの学問でもあります。「良薬は口に苦し」というように一時期はいやがってでも解ける喜びを味わわせるよう、つまずかないよう半ば強制的にでも勉強させる必要がある学問なのです。すなわち、最近の日本の子どもたちの理数嫌いは、とっつきにくい科目指導をおろそかにし、無理やりにでもさせるべきだった教育が衰退した結果だと私は確信しています。低学年で理解できていなければ、高学年になるほどついていけず、理数嫌いが増えるのは自明の理と言えるでしょう。
いくら「総合的な学習の時間」を設けても、その前提となる知識がなければ意味がないのです。

 当塾が行った「学力コンクールアンケート」結果と、生徒指導の実感からも、明らかに知識が多い子、学力のある生徒の方が数学に興味を持っていることがわかりました。つまり、学習内容の減少、学校以外での勉強不足、つまずきなどで、数学や理科に関して理解が不十分となり、難易度が増す高学年ほど理解できず、嫌いになるという悪循環が生じているのです。初めから楽しい勉強だけが勉強ではありません。初めは嫌でも、我慢しながらやっていくうちに面白さがわかって好きになったり、苦手科目が得意科目になったりするものです。

 資源が少なく、人的資源が大きな役割を果たすわが国では、教育が非常に重要な役割を果たしています。戦後、日本が経済的、技術的にもこれほどの大国になったのは、現在よりも高度な教育を受けてきた人達がいたからこそです。くり返し述べてきたように、今、日本の教育レベルは急降下しています。20年、30年先の日本の将来がとても気掛かりです。科学技術の発達により工業化が進み、戦後以降の高度成長を実現したものづくりの国、日本を以前のように復活させるためにも、特に理数教育の改革が急務です。教育は国民に跳ね返ってきます。充実した理数教育の実現が、日本の技術立国としての将来の発展につながるのです。

特集一覧

 

 
  ページの先頭へ戻る
manavinet」運営 / 「塾ジャーナル」 編集・発行
株式会社ルックデータ出版
TEL: 06-4790-8630 / E-mail:info@manavinet.com
Copyright© 2004-2003 manavinet. all rights reserved.