サービス産業の方向性
市場サイズは縮小、顧客数は減少の一途をたどっている。 経済環境は中小企業に特に厳しく押し寄せ、デフレスパイラルも相変わらず進行している。
この状態は明日になれば、来月になったら、来年こそはと考え、棚からぼた餅を期待していてもまずは自らの口には落ちてこない。ましてや経済環境や業界の不振を嘆いていても発展につながらない。
だから企業・組織は自力で生き残り、勝ち残りを目指し期待できそうな分野、要素に着手している。その手始めは前向きに行うコストダウン、スピードアップ、短絡化である。
つまりそこで浮いた余裕資金を投資に回す取り組みである。
しかしこれらの課題はサービス産業に多大な影響を及ぼし始めている。そのひとつに挙げられるのは、サービスを構成する「機械化・設備化・コンピュータ化」の進展であり「システム化」の傾向である。これにさらに拍車をかけているのがIT(情報技術)の急ピッチな展開である。
ちなみに安価で大容量の記憶装置が開発され、データを「集める」「蓄える」能力が向上し、大容量のメモリー登場により高性能の演算処理が手近になり、データを「活用する」効果を上げている。
このような変化はサービスのコンピュータ化・システム化の速度をさらに上げている。
特に「処理する」業務に関しては進行が顕著で、この方向における優劣は投資力に依存している。資金力の優劣が正否を決めてしまうということだ。
従って今後は、処理型業務に携わる人たちは職場を失い、収入が得にくくなっていく。収入が伴わないと支出がなされないから、さらにコンピュータ化・システム化によるコストダウンに力が注がれる。
身近な例を挙げると、外食産業のチェーン店を見ればそれが距著であることがわかる。例えば厨房は、パックされた冷凍食品や、袋から取り出して熱を加える(電子レンジでチンする)だけや、袋から山して器に移すだけなどほとんどが機械化、コンピュータ化などの自動化に依存している。
人間様が行う業務は、機械がつくつたものをお客様の席に運ぶだけ、その合間は大声で「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」を叫ぶのが仕事だ。
最初は活気があっていい店だと思って行く顧客も、そのパターンに慣れるとかえってそれが不満となる。食事に行ったつもりがエサを食べている錯覚に陥り、そのうち残った食材を顧客の日の前で一皿に集め、ゴミにしている様子を見て嫌悪感を覚え、ついには行かなくなってしまう。
一方、私どもの調査によると商品での差別化率はわずか7〜8%しかないから、矢継ぎ早に市場に発表する新製品・新メニューだけではほとんど他社に差がつかない。
しかもその新製品メニューの寿命がどんどん短命化しているからさらに効果は薄くなっている。
実際には92〜93%は総体的なサービスを顧客は選んでいる。しかもサービス品質が顧客に認められると願客の口コミ・紹介率が向上するというメリットが誕生し、繁盛につながる。口コミ・紹介は顧客の時間・労力・費用によるもので顧客の好意的負担によるものである。
いずれにせよ、どこを選ぶか、費用をどれくらい支払うかは願客の意思決定事項である。すべてのコストは顧客が負担してくれていて、給料も顧客が払ってくれているのだから、顧客をないがしろにして成り立つ企業は存しない。
人間系のサービス
ところでサービスを構成する機能にもうひとつ「人的サービス」すなわち「人間系サービス」がある。
機械化・設備化・コンピュータ化、システム化は限りなく無機質な方何に何かうが、人間系サービスはマインド(こころ)・温もり感が伴えば良質なコミュニケーションにつながり、他社の追随を許さない差別化要素となっている。
組織の誰もが温もり感のある対応ができる雰囲気は、特に背後にそのためのノウハウが伴っていれば、また関連するどの拠点においても同様のサービスが提供できれば、ライバルも真似はでさないし、追い付くことが難しくなる。しかも設備化、システム化ほど顕著な費用を要しないメリットによるものである。
そのためのノウハウはCS(疎客満足)活動にある。そもそもCSとはCSM(CS経営〉であるが、主として次の3つのポイントが基盤となっている。
(1) トップ・トップ層が顧客を基盤とする明確な企業理念の下に熱心に経営と取り組む。
(2) 顧客を基盤に考え、行動し、顧客満足を創造する組織のDNAを生み出す経営に力点を置く。
(3)「業績=顧客の支持率」を生み出す経営を目指す。
事実CS経営により弊社でお手伝いしている企業だけをとらえて見ても、毎年2〜3社ずつ上場を果たしている。
ところで、差別化要因の重要ファクターである人的サービス・人間系サービスにも問題が存在する。と言うのも、少子化により子どもがかわいがられて育つ結果、わがままで自己中心的な性格となり、他人を思いやる意識が乏しくなることからサービス業に向かない人たちが増えていて、日下のところ、その傾向に歯止めが効きにくい状況にある。
一方ではコンピュータ化・システム化、反面、サービスマインドの欠如と実に厄介な時代を迎えている。
しかし問題点が明らかになるということは、逆に言えばチャンスが見つかったと言うことになる。特に人間系サービスの質の向上は人間社会である限り、「最初と最後は人で決まる」ことから、ますます重要性を増す力を注ぐポイントである。
自分の業界しか見えていない企業は衰退化・消滅化している
業界の会合しか出ていない人たちの会話を聞いていると情けなくなる。
「業界全体が振るわないのだから、当社が悪くても仕方ない」
「定評のあるA社が伸び悩んでいるらしい。当社が同様なのも仕方ない」
「B社よりは当社のはうがまだましだ」
などはドングリの背比べであり、こうした考え方をしている業界は軒並み衰退化・消滅化に邁進中だ。
特に法律で守られてきた、資格制度で保護されてきたなどの業界が規制緩和された後はひどい落ち込みを見せている。そのような例は身近にいくらでもある。例えば酒販店、薬局薬店、ガソリンスタンドなどが挙げられる。
ともあれ顧客はほとんどの場合、業界同士の比較をしていない。
「デイズニーのスタッフは素晴らしいが、このホテルの従業員は程度が悪い」
「最近の航空機のスチュワーデスはレベルが落ちたね、近くのレストランの方がはるかに優れている」
などはよく耳にする比較である。
いまやどこがライバルになっているかボーダレス化(業種間の境界線がなくなり業態化している)の傾向にある。
私どもが行っている顧客不満足度調査により浮き彫りになった顧客の「要望」「気付き」「因っていること」「不満」に取り組むことから、顧客の心の底に潜んでいる満足が発見できる。
事実、顧客自身が何気なく発言しているところの心の底で望んでいる要素を満たすと顧客は喜び、満足してくれる。その「要素」はしかし多岐にわたり、業種での整理には当てはまらないことが多い。いま、塾・学校に対する「要望」「気付き」「因っていること」「不満」は多岐にわたっている。
例えば「何かと無機質になっている」「人生の目指す方向性別の組み立てがなされていない」「個人の資質向上に力が注がれていない」「成績依存主義」「個性を伸ばしていない」「もっと機械化を図ってほしい」「もっと潜在的な資質を見つけ、磨いてほしい」「教える例のレベルが低すぎる」「処理型で次々と生徒を片付けているようだ」「創造型人間の育成ができていない」「ホスピクリティーのある人材育成に力を注ぐべきだ」「世の中のマナーを早いうちから身につけておきたい」「国際性のある場や各種の会合に出ても物おじしないように育てておきたい」「学校や塾は不親切で雑」…など多くの意見が寄せられる。
ここでは一見矛盾する課題が浮上しているようだが、この相反するような課題に取り組む結果が新しいノウハウを生み、顧客に支持される。そのような例はまた成功事例に多い。
学校も塾も顧客である生徒、親、先生、事務担当などの「要望」「気付き」「困っていること」「不満」をあえてとらえ、これを浮き彫りにして同じ次元で取り組むことが成功の秘訣である。課題を塾や学校の縦軸の組織形態、枠にはめ込んで取り組まないことである。
塾と学校の共存共栄は異質のモノを融合し、新たな要素を生み出す優れたプロデューサーの協力により初めて達成可能となるだろう。新しい時代の新鮮な魅力は、必ず顧客から支持されるに違いない。 |