初の卒業生校長が誕生
礼拝での「感話」で心が育つ
今年、卒業生初の校長が誕生した恵泉女学園中学・高等学校。本山早苗校長は「恵泉の卒業生として、昔から本校が大事にしていることを継続しつつ、今の時代に必要なことを、次の世代の生徒たちや教員に伝えることができたらと考えています」と抱負を語る。
同校の教育の3つの柱は「聖書」「国際」「園芸」。その中でも「聖書」と向き合う時間は「自分はいかに生きるべきか」を深く考える時間となっている。
「恵泉生は自分の頭で考え、自分の意見を周りの人にしっかり伝えることができます。同時に、自分の意見だけを押し通すのではなく、相手の意見にも耳を傾けることができる人に育っていると思います」と本山校長。
相手の考えを認めて受け入れる。その教育の土台となっているのが、礼拝での「感話」だ。生徒は理想の生き方や友人との関係など、様々なテーマで感話を書き、それを礼拝時に他の生徒の前で述べる。
「言葉は人格の表れです。相手の心から発せられる言葉を尊重して受け止めることは、相手の人格を受け止めることと同じです。生徒たちはそれを6年間繰り返し体験します。相手の話を聞きながら、自分ならどうするだろうか、と考える。それが自分の考えを持つ、主体性にもつながっていくのです」
同校では4月の休校中も、朝8時から礼拝の動画を配信した。それは生徒だけでなく、保護者もアクセスして見ることができた。「恵泉が大事にしている宗教教育の価値観を、期せずしてご家庭にもお伝えできる機会になりました」と本山校長。
「キリスト教は、一人ひとりを大切にする本校の教育のベースです。自分と同じように、周りの友達も神様に愛されている大切な存在。相手を尊重する心は、恵泉の教育目標の一つである『国際』につながります。国や文化、様々な立場を超え、お互いの人格を尊重し合っていく。創立者の河井道先生は、戦争に向かう時代に本校を創立しました。平和な世界を創るために貢献できる女性を育てるのが恵泉の使命。変わらない教育目標として、大切に伝えていきたいと思います」
中学受験生が大幅に増加
見学して環境の良さを実感
本山 早苗 校長
この春の中学受験では、2月2日が日曜日だったことで、3回の入試がすべて午後入試になった同校。昨年に比べ総受験者数が延べ500名以上増加し、大きな注目を集めた。
受験生が増えた理由の一つは、今まで午前入試では受けられなかった層の受験生が学校見学に訪れ、同校のリアルな姿を知った影響が大きい。花々が咲き誇る園芸畑や木の温もりを感じる清潔な校舎、1階から4階まで吹き抜けのメディアセンター(生徒の自立学習を助けるための情報センター。約9万冊の蔵書の他、様々な活字メディア・電子メディアを備える)など、素晴らしい学習環境を見て、受験を決めたケースが多かったようだ。
さらに評価されたのが「確実に英語力がつく」教育だ。中学から英語を本格的に学ぶことを前提とし、教科書も中高一貫校用ではなく、検定教科書を使用する。しっかり基礎を積み上げながら、エッセイライティングやスピーチコンテストなどで4技能をバランス良く伸ばしている。6年生(高3)の英検準1級以上の取得者は10%、5年生(高2)のGTECのスコア平均は925・3(全国平均771)にも上ることが、高い評価を得ている。
来年度の中学受験では、2日目は午前入試に戻るが、4科の入試方法が変わる。今まで理科と社会はまとめて45分各50点満点だったが、来年は分離させ、30分ずつ各70点満点とした。入試における理社の割合を高めた形になる。
「学習指導要領が変わる中、本校の定期試験でも、教科を横断し、思考力や表現力などを問う問題が増えています。中学受験においても、4科をバランス良く勉強してきた受験生が、より力を発揮しやすくなるように考えました」と本山校長は話している。
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みんながリーダーでなくていい
個性を認め合える、女子校の良さ
本山校長は生徒たちに「女性活躍」についてももっと意識してほしいと願っている。
「みんながリーダーにならなくてもいいんです。自分の置かれた場所で、底支えとしてしっかり仕事をする。実力があり、自分らしさを大切にしながら、相手の意見を認めて共に働ける人。それも立派な活躍です。日本の男女格差はG7の中で最下位。悲しい状況ではありますが、男性も女性も生きやすい社会にするためには、女性が活躍しなければならないことに、生徒たちには気づいてもらいたいです」
2019年11月には、同校の卒業生で、経済同友会前副代表幹事の小林いずみ氏を講師として迎え、創立90周年記念式典が開かれた。小林氏は高校からの3年間を恵泉で過ごし、後に世界銀行グループのMIGA(多国間投資保証機関)長官などを歴任した女性リーダーのロールモデルだ。同氏は本校での思い出を語るとともに、生徒たちに「全員がサラブレッドにならなくてもいい。色々な役割がある中で、自分の果たすべきことを見つけ、未知の世界に挑戦してほしい」というエールを送った。
本山校長は「女子校の良さは、思春期に異性の目を気にすることなく、生徒一人ひとりの個性を認め合える風土があること。素顔を見せられる生涯の友達ができ、自分の居場所を見つけることができます」と語る。
最後に本山校長は「本校は『神と人に喜ばれる学校』であり続けたいと思っています。『神に喜ばれる』とは、神様から愛されている自分を大切にすること。つまり、自己肯定感を持って生きる人間の育成です。もう一つ『人に喜ばれる』とは、自分の特性を生かし、周りと協力し合い、社会に貢献できる人を育てること。本校では『園芸』の授業を通して、命の尊さや協働することの大切さを教えています。生徒たちが将来社会で活躍できる第一歩として、希望する進路を実現できるよう応援していきたいと考えています」と語ってくれた。
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