思考と共創のものづくり
「ArtLab」の挑戦
STEM教育に「A」が入るとどんな価値が生まれるのか? 中学の美術科主任・瀬底正宣先生は「生産的、デザイン的な思考を『芸術(Art)』が担えると思うのです」と語る。
生徒のアイデアを実現する場所として始動した「Art Lab」は、3Dプリンター、レーザー加工機、ショップボット(デジタル木工切削機)を備え、多様な生徒が集まってくる。中学生が3Dプリンターで宇宙基地の模型をつくり、物理を学ぶ高校生がレーザー加工機で建築構造モデルをつくる。玉川学園の「ものづくり」のハブである。
「創立からの教育理念の一つ『労作教育』※が、ArtLabの活力になっています」と語る瀬底先生は、いまArt Labから新しい時代の「労作」の形を提案している。高校の文化祭「ペガサス祭」のモニュメント制作は、かつては美術好きな子たちが中心だったが、今は機械やコンピューター好きな子、盛り上げ上手な子など多才な有志が集うようになった。
「本学園にはいろんな得意分野を持つ生徒が多く、一つの作品を複合的につくり上げる面白さがありました」
国際バカロレア(IB)クラスの美術の授業では、「良いものを創る」技術的な素養より、「どのように考え、どう表現するか」といった思考展開を重視する。つくることが目的ではなく「なぜそのデザインなのか」という哲学的な探究(デザイン思考)の養成は、一般クラスにも導入されている。
「Artには、社会に寄り添ったり、批判、俯瞰など様々な立場から考え表現する、社会にインパクトを与える役割があります。『社会に役立つために何を創ろう』と主体的に思考し実行する力は、これからの世界に必要な力だと思います」
科学的思考と主体性
生き方を創る「学びの技」
玉川学園が掲げる「自学自律」の精神を最もよく表しているのが、自分の興味・関心のある研究テーマに取り組む探究型学習の授業「自由研究」だ。中学では各教科が主体となる「教科発展型」の研究を進める。
9年生(中学3年生)では「学びの技」として、テーマの決め方、情報収集などの論文作成のスキルを学び、3000字以上の論文にまとめる。10〜12年生(高校1〜3年生)では5つのカテゴリー(人文科学・社会科学・理学工学・教育・芸術)から研究テーマを見つけ、論文を書き、プレゼンテーションも行う。玉川学園の探究型学習
「自由研究」はまさにSTEAM教育に直結している。「学びの技」の授業を担当する高校の国語科・後藤芳文先生はこう語る。「自由研究に必要なのは批判的思考と主体性です。意見を主張するなら、異なる意見も検証すべきですし、根拠となる資料、グラフやデータの見方、扱い方を学ぶ必要もある。多面的に検証するのが科学の基本姿勢です」
8年生(中学2年生)の授業「データサイエンス」では、統計資料がどんな意図でつくられたか検証する観点を学ぶ。統計的思考は「よき市民」になるための教養、と後藤先生は力をこめる。
9 年生(中学3 年生)の「学びの技」では研究を通して、場面場面で必要な探究スキルを学ぶ。問題提起、テーマ選択ではあえて「反対意見がある問い」を設定させるという。
「独りよがりな議論にならないように、異なる立場や反対意見をしっかり検証する場を必ずつくっています。異論反論も熟知した上で『自分はこう考える』と説得できる力を養います」
1年間の「学びの技」で最も大切な瞬間が、10月末の中間発表「ポスターセッション」だ。5分間の発表原稿と資料をつくり、ペア・グループワークで練習を重ねる。当日は、生徒や保護者、教育関係者に向けて計6回のセッションを体験する。
「この経験が10年生(高校1年生)以降の自由研究に非常に良い影響を与えます。他者に説明して納得してもらえた充実感、苦労した活動が実を結ぶ達成感。この自信が原動力となって、主体的に動けるようになるのです」
多くの生徒が自由研究を大学での研究へとつなげ、社会との接点を見出して「生きる道」を切り拓いていく。
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感性と知性を磨き
夢を実現する行動力
を養う
こうしたSTEAM教育の根底にあるのは創立以来揺るがない「玉川モットー」だ。創立者・小原國芳は全人教育を提唱し、「人生の最も苦しい いやな 辛い 損な場面を 真っ先に 微笑みを以って担当せよ」という言葉を残した。これは玉川学園で学ぶすべての「玉川っ子」が共通して目指す実践目標となっている。
「自ら困難に立ち向かい、それを担う気概ある人材こそ次世代のリーダーとなると考えています」と中学部長の中西郭弘先生。中学では「触れて」「感じて」「表現する」をキーワードに、様々な体験をするように呼びかけている。そうした体験により感性が磨かれ、新しい発想が生まれる土台をつくっていく。
もう一つ生徒が取り組んでいるのが「玉川しぐさ」だ。これは玉川っ子としての粋な振る舞い(他人や社会全体を考えて行動するなど)のこと。中西先生は「丸み、深みのある大人になるために、様々な体験と玉川しぐさの2つを実践できるといいね、と生徒たちに話しています」と語る。
高校では中学で磨きをかけた感性に、知性を加えた「知性と感性の共創」を目標に掲げている。高等部長の長谷部啓先生は「感性が豊かでも知性が足りないと、表現の幅は狭まってしまいます。高校では将来の夢を実現するため必要な知性を身につけさせていきます」と話す。
中西先生は「玉川学園は将来への可能性を見つけられる学校です。いろいろな夢を描いている子どもたちにぜひ来てほしいですね」と話している。
※「百聞は一見に如かず、百見は一労作に如かず」。労作は自ら考え、体験し、試み、創り、行うことで、強い意志と実践力を備えた人材育成を目的としています。仲間とともに校舎を美しく整えたり、田畑で作物を育てることで、他者と自分との関係や、社会性を身につけます。
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