自分の大切さに気づき
本当の喜びを知る
「君は大切な人」。東星学園では入学式当日から、建学の精神を表すこのメッセージを新入生に送る。同校の入学式はとてもユニークだ。新入生は舞台前に並んで座る。そして新入生と向かい合うようにコの字状に在校生と教員、保護者らが座り、お互いの顔が見える和やかな雰囲気の中で行われる。
会の進行役は高3生だ。毎年テーマを決めて、新しい仲間を迎えている。今年のテーマは「陽(ひ)」。東星学園の温かい雰囲気の中でさまざまなことを学び、太陽のように他者を照らす人になっていってほしいという思いを込めた。
キリストの愛の精神を建学の精神としている同校。大矢正則小学校・中学校・高等学校校長は「すべての人は神様から愛され、一人ひとりユニークな価値と使命を与えられています。『君は大切な人』ということを生徒に伝えるためには、周囲の大人から大切にされる体験が必要だと私たちは考えています」と話す。
同校では、不登校など課題を抱えている生徒を支えるため、手厚いサポート体制を整えている。担任や養護、生徒指導の教師の他、カウンセラー、学校心理士などで構成する「校内委員会」を設置。さらにその生徒のための「コアチーム」をつくることもあり、そのチームには保護者も参加する。生徒一人に複数の大人がかかわり、よく話を聞きながら解決方法を導き出すことで『自分は本当に大切にされている』と実感できます」と大矢校長は話す。
以前、別の中学校で不登校になり、東星学園に転入してきた生徒がいた。転校後も不登校が続いていたが、カウンセラーを中心とした校内委員会で対応。徐々に登校できるようになり、高校のときには文化祭である「ヨゼフ祭」の舞台で、堂々と劇の主役を演じるまでになった。その生徒は今、芸術系の大学に進学し、自分の目指す進路に向けて突き進んでいる。
「聖書の中にイエスが弟子に向かって『父の家(神の国)には住む所がたくさんある。もしなければ、あなたがたのために場所を用意しに行く』という言葉があります。私はその言葉がとても好きです。同じように本校にもすべての生徒の居場所をつくりたいと努めています」と大矢校長は語る。
全員がリーダーを経験
意見を持った芯のある人間に
「この学校ではクラスの中で役割のない生徒はいません」と話すのは、英語科の東海林美生先生だ。4月に行われるヨゼフ祭で、中2生は英語劇を行う。生徒は自分たちで英語の台本をつくり、照明係や道具係など全員参加で劇を作り上げていく。「ヨゼフ祭は人間関係づくりや協力することを学ぶよい機会となっています」と東海林先生。
誰もがリーダーとなる機会も多く用意している。その1つが「沈黙の掃除」だ。毎日昼食後の15分間、中1から高3まで縦割りチームで掃除をするもので、リーダーは高3生が務める。リーダーの指示以外、私語は禁止で、掃く音を聞きながら、静かに自分と向き合う時間にもなっている。
「沈黙の掃除を通じて、生徒はリーダーの大切さを実感しているようです。本校は行事も多いので、全生徒が何らかの役割を持ち、リーダーシップをとりながら行動することを経験します。そのことを通して、自分の意見を持った芯のある人間に成長していると感じます」(東海林先生)
英語でも自分の考えを表現できるようになってほしいと、英語の授業の一環として中3、高1では英語のプレゼンテーションを、高2、高3では「私の夢」についてスピーチを行っている。
「生徒はスピーチの中でも『WHY』の理由をきちんと説明できるようになっています。今後ますますそうした人材が求められると思いますので、言葉で自分を表現できるようになってほしいですね」と東海林先生は話している。
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少人数の丁寧な進路指導
東星学園は帰ってきたい場所
同校では教科の指導においても、徹底した少人数教育を行っている。同校の「少人数教育」とは「一人ひとりに合った教育」という意味だ。
中学の英語・数学は習熟度別クラスを設定。英語は中1の中間テスト後の6月から習熟度別になる。早い段階から分けて授業を行うことで、伸びる生徒は伸ばし、ゆっくり進む生徒には手厚いフォローをしている。数学は中2から習熟度別クラスになる。
高3では希望進路に合わせて、最大8単位の選択科目が選べるようになっている。「たった1名でもその授業を希望すれば、その授業を1年間行います。それは補習授業も同じです」と企画広報センター長の石原慎一先生。
大学入試の進路指導においても、面接や論文指導の場面では、複数の教員が生徒にかかわり、バックアップ。「生徒が受ける大学は必ず教員が見学に行きます」(石原先生)というほど徹底した個別指導を行っている。
キリスト教系大学(上智、聖心女子、白百合女子など)を希望する生徒が多いが、情操教育を大切にしていることから、芸術系大学に進む生徒も増えている。「みんなからこんなに大切にされているのだと知りました」「仲間と一緒に一つのものを作り上げていく喜びを知りました」「東星学園はおばあちゃんのうちみたいに帰って来たいところです」…。そうした言葉を残して生徒は巣立っていく。
「これらの言葉に、生徒の成長が凝縮していると思います。本校が求めるのは、東星学園の友人や教師とかかわることによって成長し続けることができる生徒、これだけです。ここに自分の居場所を見つけ、皆と一緒に成長したいと思う人にぜひ来てほしいと思います」と大矢校長は話している。
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