「感恩奉仕」の人間教育の深化と
学ぶことの楽しさを実感させる
境校長が同校の今後を見据える上で、重視していることが二つある。一つは「感恩奉仕」に基づく人間教育の「深化」だ。「感恩奉仕」とは、同校の創立者である長谷川良信氏が掲げた校訓で、「人として生んでいただいたことや社会に生かされていることに感謝し、他者や社会に尽くすことでその恩に報いる」という意味がある。大乗仏教の教えを基本にしたこの教育方針の下、思いやりにあふれる人物を育てている。
境校長は就任前の昨年から学事顧問として、同校を研究。「感恩奉仕」については中高生たちに浸透していると感じていた。しかし、今後は生徒が日常生活の中で自然と「感恩奉仕」を実践できるまで、深化させることが重要だと考えている。
同校では開学以来、毎日朝会が始まる前に仏法を説き聞かせる法話を聞く「洗心の会」を開いている。また、道徳にあたる「淑徳の時間」も設けており、そうした場で「感恩奉仕」について深く考えるテーマを投げ掛けているのだ。
テーマは、例えば『陰徳』と『陽徳』について。「これは見返りを期待した思いやり(陽徳)と無償の思いやり(陰徳)のことです。本校の生徒が示すべき思いやりについて考えさせます」。
もう一つ、生涯学び続けられるよう、学ぶことの楽しさを実感させたいとも考えている。同校の正門近くには学祖が理想とした「生涯にわたり学び続ける求道者」の象徴・善財童子の像がある。その学祖の理想をいま一度伝え、未来を生き抜く力を身に付けさせたい考えだ。
「現在の成績も大切ですが、本来、学びとは一生を通じて継続していくもの。しかし、そこに楽しさがなければ、学び続けることはできません。楽しさを感じるためには、学ぶことで自分自身が変化し、成長したと実感することが不可欠です」
そのため、推進しているのが、学習の目標管理と知的好奇心の維持だ。特に知的好奇心においては、珍しいものではなく、日常生活の中で当たり前だと思っていることにも疑問を持つように指導している。
プロジェクトチームを発足!
教育改革の3つのポイント
現在、境校長はプロジェクトチームをつくり、「教育改革」に着手している。そのポイントは「大学入試改革対策」「先進教育の推進」「感恩奉仕による人間教育の『Wしんか』」の3つだ。
「大学入試改革対策」では、合教科に対応するため、教科中心型から教科横断型への移行も視野に入れ、中高一貫教育の強みを活かした2ヵ年ごとでの3段階の6年一貫教育カリキュラムを作成した。「先進教育の推進」では、アクティブラーニングやICT教育の導入と同時に「グローバルランゲージラボ」を設置してネイティブ教員を配置。校内で日常的に異文化と接触する機会を増やした。「感恩奉仕による人間教育の『Wしんか』」とは、感恩奉仕による人間教育を『深化』させつつ、現代社会の発展に合わせた形に『進化』させ、同校独自の教育方法・手法を開発することだ。
いずれもスタートしたばかりで、クリアすべき課題も多いが、その分、伸び代が大きいと境校長は意欲を燃やしている。 |
100周年にあわせて
歴史と伝統も再現
「楽しく学ぶためには、学校環境も重要な要素」という境校長は、施設整備も計画中。最初に手掛けたいと考えているのは正門だ。
「現在の入口からでは、100周年を迎えようという本校の歴史が感じられません。校長室に写真が残っていますが、良信先生が創った巣鴨女子商業の校門を再現できないかと検討しています。この校門が本校の原点だからです。そんな本校の歴史が感じられる校門を通ることで、生徒たちは学校に誇りを持ち、学ぶ意欲も高まるはずです」
もう一つは、同校の創立者・長谷川良信氏の記念館を開設すること。
「100周年を機に、良信先生の思想をさらに深め、現代が抱えている社会問題に適合・進化させた形で発信できるものを創りたいと考えています。開校当初に良信先生がセツルメントとして、貧しい人たちと一緒に住んでいた住居跡に設置できないものかと考えています。良信先生の思想や行動は『利他心』(自分よりも他者の利益を優先する考え方)に基づくものですから、利己心の強い人が増えた現代にだからこそ伝えるべきものがあるように思います」
教育はエデュケーションではなく
デベロップメント
ここまで紹介したことは淑徳巣鴨が変わっていくための着手の段階であり、「ホップ・ステップ・ジャンプ」の「ホップ(基盤づくり)」だと境校長はいう。
「良信先生の言葉に『潜在的仏性を顕在化する学習環境の創造』というものがあります。思いやりの心(潜在的仏性)はすべての人が持っているが、それは秘められているため、外に出してあげるには学習環境を創ってあげなければならないという意味なのですが、非常に感銘を受けました。誰もが持っている思いやりの心を実践できる人にしていくために学習環境を提供するのが教育の役割。そのように考えると、本校の教育は教え込む『エデュケーション』ではなく、包まれた才能を開いていく『デベロップメント(開発)』に近い。まだまだ時間が必要だと思いますが、生徒たちが自ら花開くように、じっくりと基盤(学習環境)を創っていきたいと思います」
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