窓、そして吹き抜けの中庭からも太陽光が燦々と差し込む朝8時40分。「進学コース・文理選抜クラス」高3のLHRが始まる。「みんな、だいぶ受験モードに入ってきたので」と担任の鈴木智信先生が切り出したのは、さまざまな大学受験スタイルに応じた「作戦」だ。指定校推薦、スポーツ推薦、AO入試、一般入試…それぞれ個性の生かし方、力を入れる部分やタイミングが違う。そこへ模試の結果をどう反映させ、いかに合格を掴みとるか。スケジュールが月刻みで確認されていく。
「夏休みから伸び続ける生徒は毎年いる。C判定でも安易に推薦に流れないこと。いま伸びが見えなくても、半年後には結果に出てくる。焦らなくてもいい。低めの階段でいいから、着実に上がり続ける努力をしてほしい」
鈴木先生の言葉の一つひとつが、生徒の心に浸み込んでいく。真剣な表情や集中力が凛とした空気感をつくる。
昨夏の甲子園出場も記憶に新しい、伝統あるスポーツ強豪校だ。入試渉外部部長・小笠原健晴先生はこう語る。
「スポーツと学力は比例します。瞬間的な判断力などは、限られた勉強時間での集中力、思考力にも通じます」
特別進学・文理選抜クラスにレギュラー選手、キャプテンが多いという。彼らは、「プログレス」と呼ばれる同校独自の学習システムのメニューをしっかり受講したうえで、部活動と両立させている。だが、どちらも真面目に取り組むほど、身体の疲労と勉強の遅れとの狭間で、焦り苦しむ彼らの心理を鈴木先生は痛いほど理解している。だから、きつく巻き上げた糸を解くように、柔らかな声で語りかける。「いっぱいになる前に息抜きをすること。公園を散歩してもいいし、昼休みに英語だけで喋ってみるのも楽しいよ」。
生徒から笑い声が起き、クラスが一気に明るくなる。その勢いに乗じて鈴木先生は、力強いトーンで続ける。
「文化祭に燃えるのも全然構わない。ただ、やるなら徹底して企画を詰めないとGOサインは出せない。校内で一番目立つ企画を考えなさい。誰かが勉強を犠牲にするようなやり方はダメ」 |
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昨年の文化祭終了後、鈴木先生は賭けに出た。あえて「受験があるから、来年はやらないよ」と通達したのだ。しかし、生徒からは「今年もやりたい」と声が上がった。「その言葉、そのパワーを待っていたんです」。
この1年間、学習や行事などに「彼らは自ら動ける」と太鼓判を押すほど、クラスが成長した。クラス企画の「小論文対策」1000字作文の提出率は100%。英語の実力は特進コースにも劣らない。他の教員からの評判も良く、それぞれの得意分野でクラスを率いるリーダーたちも育ったからこそ、鈴木先生はこのクラスに高い望みをかける。「もう一段階『受験勉強』で勝負して心身に打ち勝ってほしい。『あんなにハードな状況でも頑張れた自分』を高校時代に獲得できたら、社会に出たとき、苦しみから逃げずに立ち向かえる、大きな自信になると思うんです」。
そんな「文武一体」を掲げる同校が強力なサポートとして生徒に提供するのが、夏に完成する大学受験専用学習棟「プログレス学習センター」だ。自習環境の充実はもちろん、面談を通して学習計画の支援・指導を行い、質問に対応するチューターも常時設置する。これまで以上に、効率的な学習環境と、自学自習の習慣の確立を追求した。
来たる受験に向け、充実した環境と、心身の成長を得て、文理選抜クラスは、「いけるところまで『みんな一緒に』尽き進んでいく」態勢が整った。鈴木先生は、その日のLHRをこう結んだ。
「センター試験を全員同じ会場で受ける。それがクラス最後のイベント。あと半年、楽しみながら勉強しよう」
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