ものづくりで得た
モノの大切さと友情
モノが溢れ、苦労しなくても何でも手に入る現代社会。その中に生まれ、育った生徒たちに、創ることの大切さと楽しさを体で教えることを目的とした体験学習が、埼玉栄中学校では中学3年間の毎年採り入れられている。1年生ではうどん作りと紙すき、2年生は益子焼の手びねり、3年生では藍染めを、それぞれ産地とする場所まで出かけ、実地体験する。
「自分で打ったうどんを家庭に持ち帰り、両親と食べたと話す生徒の目の輝きや、手びねり・藍染めでオリジナルのものを作り上げたときの達成感に満ちた表情はとても素晴らしいものです。教師も生徒と共に行い、学ぶことで、生徒の教室では見られなかった一面を発見したり、成長を間近に見ることができますね」。
体験学習を担当する国語科の遠藤大介先生は、友人同士が互いを手伝ったり、苦手な部分を早く終わった生徒がフォローする姿を見て、机の上では得られないことを中学時代に行う大切さを実感していると話す。
高校でも、宿泊研修などの体験学習が実施されるが、その時には中学時代に得た「興味あることに打ち込む姿勢」が充分に発揮されることであろう。
日本の学校を変える
埼玉栄の新たな動き
新たな埼玉栄中学校のキャッチコピーとして掲げられているのが「日本(ニッポン)の中学を変える」というものである。佐藤栄学園に系列の小学校が開校。さらに法科を中心とした大学院・ロースクールの誕生が予定されているため、のべ19年に渡る教育体制が確立されることから、ゆとりを持って新たな教育のあり方を追究しようというものである。 埼玉栄中学校の特徴は「できるまで・わかるまで・のびるまで」の指導である。細分化した学習計画に基づいて進む授業で、次の単元に進む前に学習到達度を確認し、到達していない生徒には補充学習で確実に理解してから次のステップへ進むというローリングステップシステムで、まず成績下位の生徒をフォローする。そして、アルファテストと呼ばれるテストやアルファゼミ(実施予定)で成績上位の生徒はさらに上へ上がるように指導が進められている。
「埼玉栄高校では、平成14年度より東大を含む難関国公立大学をはじめとした日本最高水準の大学への進学を目指すアルファコースを設置しており、そこでは偏差値67以上のハイレベルな生徒が学んでいます。埼玉栄中学校から高校へ入学した生徒の中で、偏差値が65以上ある生徒は、その教科に限り(5教科内)、アルファコースで共に切磋琢磨しながら学べるというシステムを採っています」。
松坂勝彦中学校教頭の言うように、今年度高校へ進学した1期生の内数名が、卓抜した学力をさらに磨くためにアルファコースでいくつかの教科の授業を受けている。
また、昨年までは3年次で学力アップを重視する第1学系と、部活動での活躍と学力向上の両立を目指す第2学系へ分かれていたが、来年度からは入学時において、この学系を選択。より長い時間をかけて、自らの目標到達へ力を入れることができるようになる。
「内部進学生は、この3年間で偏差値で言うとほぼ10程度アップすることができました。さらに高校の3年間で伸ばし、各々の夢へ到達することができるようになるでしょう勉学のみならず、それぞれの夢の実現を可能にする。これこそが、これからの学校のあるべき姿だと思うんです」。
教頭の言うように、数年後には東大をはじめとする最高レベル大学への合格者が多く輩出されることは、この伸び率から考えても揺るがないと思われる。
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「読む・書く・聞く」で
コミュニケーションを上達
活発な生徒が多いことでも埼玉栄中学校は有名だが、入学時から全員がそのような生徒だったわけではない。前出の遠藤先生は、入学当時は自分の意思をうまく表現できない子もいたと話す。
「もの静かな生徒も多く、他人とのコミュニケーションをうまく取ることができない場合も見られました。そこで、『書く・読む・聞く』力を身につけることで、他者とのコミュニケーション能力を向上させることにつなぐよう、生徒を指導しています」。
人の言うことを聞き、書くことでその考えを理解し、自分の意見を読むことで相手に気持ちを伝える。この何気ない一連の動作が、いずれ社会に出ても役に立つコミュニケーション能力につながると言うのである。
生徒を指導するために、若い教員が中心となり、教師の意識改革を進めているが、一定年齢以上の教員も進んで改革に取り組み、成果をあげている。生徒指導には様々な面があり、その時々に応じて合った年齢層の教員が対処できるのも、埼玉栄中学校の良い特徴となっている。
教員が様々な改革や学校への貢献をしている背中を見て、生徒が自らを振り返り、内省しながら自分も行動する。この方針が、より一層生徒の成長を促し、目標達成に近づくための精神的基盤を確立しているのは間違いない。
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