生徒へのきめ細かい配慮で
学習障害者の不安を払拭
通信制高校に在籍する生徒が高卒の資格を取得できるよう、さまざまな角度からサポートする学校、それが通信制課程教育連携校=サポート校だ。
東京の高田馬場にある東京文理学院は、1992年創立の伝統あるサポート校。不登校や学習進度の遅れなど、さまざまな理由で高校進学に不安を抱えている生徒を受け入れてきた歴史がある。
学院長の市川匡史先生はここ数年、何らかの学習障害を持った生徒の入学や問い合わせが増えていると話す。学習障害といっても、知的な遅れがあまり見られず、普通学級と特別支援学級のちょうどボーダーラインにいるような生徒が、高校入学の時点で同校を選ぶケースが増えているのだ。
「もしかしたら、一番進路に困っているのは、こうした生徒、保護者の方々ではないかと感じています」と市川先生。
保護者の多くは、我が子に高校生らしい学校生活を送らせてあげたいと願っている。また、生徒も全日制の高校に行きたいという希望を持っている。
しかし、中学校からは職業教育がメインになる高等特別支援学校への進学を勧められることが多い。一般の高校を探す場合、都立ではチャレンジスクールという選択肢もあるが、倍率も高く、面接や作文といった試験内容は、言語的なハンディがある学習障害の生徒にとって、非常にハードルが高い。
そうした希望と現実の間で、どの学校が自分にフィットするか。一番悩んでいるのがこうした生徒ではないかと、市川先生は考えている。
同校ではそうした生徒の要望に応えようと、高機能自閉症やLD、ADHDなどの発達障害の生徒も受け入れられる体制を整えている。入学相談の時点で保護者から生徒の様子を丁寧に聞き取り、学校として配慮すべきことを一緒に考えているのだ。
「生徒を学校に適応させるのではなく、学校が生徒に配慮にする。生徒一人ひとりの不安に対応できるのが、サポート校の強みだと思っています」
好きなことから取り組み
コミュニケーション力を養う
このようにさまざまなタイプの生徒を受け入れている同校。市川先生は「生徒が安心して学校に通えるようになったら、これまでできなかったこと、苦手だったことも少しずつできるようにしてあげたいと考えています。そうしないと、社会に出てから同じトラブルで悩むことになってしまいます」と話す。
市川先生が一番伸ばしたいと考えているのは「コミュニケーション能力」だ。人とのかかわり方に問題を抱えている生徒が多いこともあり、社会人としても必要なこの力を引き出していきたいと考えている。
同校が最も配慮していることは、「知らず知らずの間にそうした力が身に付くようにする」こと。時間をとって何か特別な指導を行うのではなく、文化祭や体育祭、午後の選択授業等の活動を通して、自然に周囲の人とうまくコミュニケーションが図れるようにもっていくのだ。
「例えば、午後の選択授業では、鉄道やアニメの講座もあります。仲間づくりが苦手な生徒でも、好きな鉄道のことなら、他の生徒とコミュニケーションが図れるようになったり、文化祭で発表したりすることもできます。それがきっかけとなり、鉄道を離れても人前で発表ができたり、仲間とうまく話ができるようになるのです。楽しい学校生活を送りながら、コミュニケーション能力を伸ばしていく。それが私たちの目指しているところです」
本来、サポート校は学校行事をしなくてもよいカテゴリーの学校だ。しかし、同校が普通校と変わらない学校行事を行う意味はそこにある、と市川先生。一つひとつの学習活動を材料として、普段の学校生活の中で、生徒の可能性を引き出している。 |
同校ではそうした時の生徒の頑張りを見逃さず、少しでも成果が上がっていたら評価するようにもしている。委員会活動が盛んな同校では、入学式や体育祭などを運営する委員会をはじめ、さまざまな委員会がある。特に美化委員会の生徒は積極的に活動している。
「毎日のゴミの分別等、人が嫌がる仕事を本当によくやってくれていると思います。そうした生徒の活動を褒め称えることが、生徒の成功体験につながっていくと考えています」
生徒の伸び代に期待
謙虚に保護者の声を聞く
市川先生は、生徒の可能性はさらに伸びると期待している。
「一般の高校でも大丈夫ではないかと思われる生徒でも、保護者の方が無理をさせないようにと配慮し、本校に入学させるケースが多くなっています。そうした生徒は真面目で学習意欲も高い。本人が思っている以上に、学力やコミュニケーション能力などのソーシャルスキルを伸ばしてあげられると、手応えを感じています」
制服があり、生活指導もしっかりと行っているため、安心して我が子を託す保護者も少なくない。同校では保護者との密なコミュニケーションを「生命線」と考え、どんな細かなことでも頻繁に連絡を入れるようにしている。
「保護者の方には、何か気になることがあれば、すぐにおっしゃってくださいとお願いしています」と市川先生。大学進学希望者も増えていることもあり、謙虚に保護者の声を聞き、真面目に頑張っている生徒に結果を出してあげたいと話す。
高校生らしいのびのびとした学校生活を送りながら、少しずつ壁を乗り越えていく生徒たち。教師は温かく見守りつつも、社会に出たときに必要な力が付くよう、きめ細かい指導を続けている。
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