リベラルな校風を
受け継いだ生徒たち
河合孝允校長が校内を巡回し、中庭に差し掛かったとき、中学の教室から生徒たちが校長に向けて手を振り出した。我も我もとなり、授業にならない。あとで教師から「校長、授業にならないので、巡回はしないでくださいね」と言われた。こんなところにも同校のリベラルな校風がうかがえる。
高校2年のスーパーアドバンス文系で学ぶ二宮遼くんは、中学受験で入学した。中学当初は勉強に苦戦をしたが、小テストなど授業以外のサポートが多く、基礎の定着が図れたことで、実力がついた。将来は実家が天台宗のお寺のため、後を継ぐことになるが、社会である程度の経験をしてから継ぎたいと話す。大学では東洋思想学を学ぶ予定で、勉強に取り組んでいる。和太鼓クラブの部長もしており、毎日が有意義だともいう。
印象深い行事は高1のときの比叡山研修。あまりにも非日常にカルチャーショックを受けた。「食後は残ったたくあんで、お湯でお茶碗の中をきれいに洗い飲み干すんです。写経に住職の講話などすべて正座です。正座は中学から宗教行事で慣れていますが、夜中の30キロの山歩きはきつかったです。でも、平常心とか忍耐とかの経験が部活で役立っています」。
高校3年のスーパーアドバンス理系で学ぶ澤部英壮くんも中学受験で入学した。現在は大学受験を目指して、スイッチが入っている。
「東京理科大学の工学部を考えています。高1のときは生物志望でしたが、職業を聞く会で工学部の話がおもしろかった。生物の先生に相談したら、大学に入ってから学んでも遅くないとアドバイスをいただいたので決めました」
駒込に入って良かったことは、先生の授業がわかりやすかったことだという。英語は苦じゃなく、物理は先生がおもしろいので好きになった。「先生方の教える力は僕たちに影響します」と少々辛口のコメントはさすが3年生だ。
二人が共通しているのは、校長室を度々訪れることだ。校長先生は理系のおもしろい話題が多く、「結構聞けます」と澤部くん。二宮くんは文系なので「ちんぷんかんぷんです」と言ったものの、「でも、心に訴える話です」とフォローをするところが駒込生徒の流儀のようだ。
内申の評価
オール4の徹底が今に
同校が都立ナンバーワン校(偏差値70以上)と戦える学校としてマニフェストを掲げたのは昨年のことだ。実際25年度の大学実績を24年度と比較すると、GMARCH48人が61人、早慶上理が24人から31人、国公立が3人から15人と顕著な伸びを示している。
浅井紀子進路指導部長は、「入学してくる層が上がってきたのは確かです。それには、3年前から推薦入試での中学の内申をオール4以上と徹底したという背景があります。徹底できていなかった頃は、一般入試で優秀な子が受けてくれても、学則定員がありますので、断らざるを得なかったのです。だったら、評価を上げても良いじゃないかとなりました」。その結果、今までゆうに400人が入学していたのに、300人まで落ち込んだという。翌年もぶれずに入試体制は変えなかったが、400人超が入学してきたというから、勇気ある決断は正解だった。
高校入学後の各学年の行事も生徒たちのモチベーションを挙げている。
「1年次の比叡山研修や2年次の日光山研修では、体験を通じて、将来、その職業に就くためには、いま何をやるべきか、自分の羅針盤を作りなさいと伝えています」
3年生になると、生徒は積極的に自分の道を切り開いていく。5月に本校で実施している大学説明会後、浅井部長は大学担当者から生徒のバイタリティーのあるところを聞き、驚くことがある。 |
「Aさんは2年生のとき、オープンキャンパスに何回も来てくれたので、覚えてしまいました」「生徒さんと意気投合して、研究室に来るように招待しました」(大学担当者)
これらの積極的な生徒の行動は、先生方が生徒に指導しなくても、先輩から後輩へとすべて伝授されるというから心強い。
仏教主義を全面に
打ち出した内部改革
本校の人気が急激に高まったわけではない。駒込の改革は構造改革から機能改革へと30年に及ぶ。都立・公立の復権ということで聖域なき学校改革が実施された頃、私学としての存在意義を問い直し、独自の受験市場を開拓してきたことは大きい。異彩を放ったのは、当時、禁じ手だった仏教主義を全面に打ち出し、「嫌だったら来ないでください」とまで市場に訴えたことだ。
河合校長は「本校は江戸時代から330年続いた理念体私学としての地盤があるわけですから、これを失って、利潤追求型の私塾化した学校を作っても意味がないんです」と語る。
一方で、国際化時代に対応した学校づくりを実施。ネイティブによるイマージョン授業、英語キャンプ、中学にハワイ研修、高校でシンガポール・マレーシアへの修学旅行など積極的に取り入れた。
駒込の覚悟が見えたのが、昨年760万円未満世帯授業料無償化を打ち出したことだ。ただし、この措置は経済政策でも福祉政策でもない。理念を理解し、高い志を持ったご家庭の子どもであれば、援助し、人材を育てましょうという主旨なのだ。
来年度には宗門だけでなく卒業生も入れて、授業料補助のためのいわゆる慈善事業としての後援会を立ち上げる。幾度となく書いているが、すべての人に手を差し伸べる駒込の学校改革は「慈悲」にあるといえる。
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