京北の将来に賭ける夢――
新校長と教員が挑む大改革
「夢のあるお話だと思いました。新しい学校を作るわけですから!」
新校長就任の依頼を受けた時の心境を、石坂康倫校長はこう振り返る。
創立125周年を迎える東洋大学では、記念事業プロジェクトとして、中高大連携を含めた「総合学園計画」を推進中だ。併設校となって2年目の京北中学校・高等学校も、3年後の新校舎移転、男女共学化への転換と、ダイナミックな改革期の真っ只中にいる。
同校が掲げる最大の改革目標は「進学校」としての進化だ。足がかりとして、今春から中学校・高等学校の入試問題の難度を引き上げた。入学生の偏差値は、中学校4〜5ポイント、高校3ポイント上昇。来春の入試は同じ難度で実施することが決定しているが、平成27年度の共学化に向けて、段階的にレベルアップを図る予定だ。一方で、受け入れた生徒の学力を確実に向上させるカリキュラム開発とその充実も必須。着任して3ヵ月ほどで、石坂校長は大いなる可能性が見えたという。
「まず生徒が礼儀正しい。先生たちも生徒に対して、懇切丁寧です。授業を見て、一生懸命学ぼうとする姿勢、ひたむきさに感動しました。この先、学校のレベルが上がり、より優秀な生徒が入学してきても、本校の先生たちなら、充分対応できると思います。生徒の実情を把握して、生徒に合った指導をする、一人ひとりの良さを見出して伸ばすという習慣が、先生方にはすでに根付いていますから。実際、在学中に驚くほど成績を伸ばしている生徒が大勢います。それは単純に『面倒見が良い』だけではなく、やはり本校が自発性・自主性も育成できる学校だからこそ、可能なことだと思います」
石坂校長にとって、新しい学校づくりは二度目の挑戦。醍醐味も大変さも知り尽くしている。
「本当の教養」を身に付けた
宇宙から俯瞰できる国際人へ
国公立大学・難関私立大学に進学できる進学校になるために――。石坂校長の構想案をもとに、今後は「開設準備室」を設け、平成27年度の始動に向けて、教育改革が着々と進められていくことになる。全科目履修型のカリキュラム開発・授業時間増加による時間割改編・第二外国語ほか、情操教育、部活動の充実・行事内容の見直しなど、学校全体で進化のステージを駆けのぼる。
先駆けて、高校では来年度カリキュラムに学校設定教科「国際教育」を導入する。科目は「国際英語」・「国際理解」・「国語で論理」の3つ。「国語で論理」の授業は、いずれ中学校にも導入したいと石坂校長は考えている。
「日本の存在価値を高めるために、世界の舞台で対等に意見交換ができるような若者を一人でも多く育てたい。日本語でも外国語でも、自分の考えを齟齬(そご)なく相手に伝え、相手の言うことを正確に理解する土台は『論理的思考力』です。語学堪能というより、自分の意見をしっかり相手に伝える『力』と『心』。それは、知識の多さだけではなく物事を俯瞰して全体を観る力と、一方で、ひとつのことを探究し、深く考える力。物事を多面的に観て、捉えられる豊かな心と、他者の立場を理解して行動する思いやりの心です。この『力と心』を備えた『本当の教養を身に付けている国際人』を育成することが、我々の学校改革の目指すところです」
中学校では、1・2年生で「プロジェクト・アドベンチャー(PA)」という冒険体験を通して、心身を成長させるプログラムをすでに導入しているが、来年から「プロジェクト・ベース・ラーニング(PBL)」も導入する。こちらは主体的に学習する力・調査研究する力・プレゼンテーション能力・コミュニケーション能力などを磨くプログラム。さらに「国際教育」と連動させることで、厚みのある人間力を身に付けていくことができると期待されている。 |
「諸学の基礎は哲学にあり」
倫理観と哲学のある人生を
平成27年度に向けた、石坂校長の将来構想の第一の項目は、「哲学を重視すること」だ。高校の来年度カリキュラムの「公民」の科目には「政治・経済」と、哲学に最も近い学問として「倫理」を必履修科目として導入する。倫理観を持つ、ということは、「自分自身の生き方を持つことだ」と考えている。
石坂校長が、新しい京北に夢を賭けてみようと思い立ったのは、東洋大学、そして京北の創立者であり、哲学者・井上円了氏の言葉「諸学の基礎は哲学にあり」に出会ったときだったという。
「本当に、素晴らしい言葉だと思いました。いろいろな学問から物事の見方や考え方、生き方などを自問自答し続けていくと、世のため人のために尽くして生きることができる――これが、井上円了先生が立てた大きな柱です。それが自分の生き甲斐、ひいては自分自身の良い人生につながると私は考えています。探求心を持ち続けること。それが人生において、自己の哲学を持つということにつながり、その精神が備わってこそ、勉強に対する心構え、そして実践が伴うのだと思います」
そして最後にこう結んだ。
「そんな哲学的な地盤を持っている生徒たちであれば、このグローバルな世界で貢献できる、非常に強い心と力を持った若者になれるはずです」
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