優等生を意識改革させる
緻密な個人別アシスト体制
高等学校で3つの新コース体制(S特コース・特進コース・進学コース)がスタート。中高一貫6年間の新2コース(先進コース・総合コース)を設置、そして共学化へ。創立90周年を目前に、安田学園は大きな転換期を迎えている。先駆けとして、新たな教育改革を実践しているのが高校の「S特コース」である。東大など最難関国立大学を目指す13人の第一期生を担当するのは、S特コースサブリーダー兼担任の大野一樹教諭。新生・安田学園をリードする先鋭の生徒たちと1学期間、真正面から向き合ってきた。
「ずっと優等生だった生徒たちが、目から鱗が落ちるような新鮮な学びを、この1学期間、重ねてきたと思います」と、大野教諭は手応えを語る。
同校では、学習の達成度・弱点など個人データを教員が分析・共有し、生徒にフィードバックするシステムを全コースで展開するが、S特ではさらに緻密な対応をしている。生徒と保護者は、入学式前の「事前全体説明会」で「高校生としての学習法」の詳細なレクチャーを受ける。授業の受け方、ノートのまとめ方など、一つひとつが実践されているかどうか、「学習法チェックリスト」に基づき、確認を受けるのが、中間試験を挟んで2回行われる「学習法探究合宿」だ。生徒は同校の鎌ヶ谷研修所(千葉県)から通学し、寝食を共にする教員から、自己学習の仕方や生活習慣まで、昼夜を問わず徹底的に行動様式を見直される。中学での内申点も高かった彼らは、勉強については、逆に先生の面倒見を受けてこなかった生徒たちだ。
「『自分でできるだろう』と彼らが思っている部分に、我ら教員があえて切り込んでいくんです。中学ではうまくいった勉強法・思考法も、そのままでは高校で通用しません。東大をねらえるポテンシャルの子どもたちに対して、我ら教員が入学してくる以前から万全の状態で練り上げてきたプログラム、すなわち東大合格への確かな道筋を示すことが現段階で重要なことなんです」
二者面談は5回にのぼり、対話も多い。濃密な関係を築きつつあると大野教諭。
「一番の変化は、生徒たちが『本来の自分』を出せるようになったことですね」
「教科学習」と「探究」で
受験を超えた「知」を獲得
今春の大学進学実績は、国公立大学の現役合格者が昨年より増加。要因として大野教諭は、高3の「放課後進学講座」「センター模試演習」「国立2次対策講座」の内容の綿密さを挙げた。東大・最難関国立大を目指すS特も、文・理に偏らず、全教科の弱点克服をするコンセプトのもと、カリキュラムや指導体制が組まれている。さらに、総合的学力を構築するS特1・2年次は、「教科学習」と「探究」を二本柱とし、「教科学習」では、生徒も学習シラバスを常に把握し、教員は個々人の全教科において、体得すべき力を意識して指導にあたる。例えば、現代文の教員の「要約力はついてきたが、より正確な読解力を要する」という評価をもとに、他教科の教員は「量より思考力を高めるトレーニングを」と情報を共有。生徒にも提示され、自分の学習計画に反映させていく。彼らには越えてほしい壁がある、と大野教諭。
「『受験のためにやっている』という考えの枠から脱することです。教科学習や探究活動を通したすべての行動が『学びの本質』の獲得につながる。S特では実際の技法を通して、体感しながら最難関大学を目指そう、というのがS特の掲げる『知の構造を革新』なんです」
その具体的実践が、「探究」の授業だ。今年は、隅田川の水質についてグループ探究を実践。1年次では文・理の探究技法を習得し、論文を作成。2年次では論文を英語に翻訳、シンガポール・フィールドワークで、現地大学生へのプレゼンテーション、ディスカッションを行う。さらに個人探究へと展開し、2年生の秋の「安田祭」で発表する。 |
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「今はまだ『学問の形と枠』をしっかり作る段階なので、教員と併走している状態。受験期が始まる2年生の秋には、生徒主導へと移行させたいですね」
自ら考え学ぶ力を育成する
「自学創造」へ新たな改革
S特にとって「東大」はどんな価値を持つのか、大野教諭の回答は明快だ。
「日頃の学習法や探究、多様な教育プログラムを積み重ねて培われる『自学創造』の力を発揮できる場所です」
授業だけでなく、1年次より職業フィールドワークと題して、自分が将来目指す分野で活躍する教授や研究者に直接会いに行く試みや、東大の五月祭、先端技術センターを訪問している。「東大」を中心軸に、キャリア教育も、教科学習も、探究も、結びついている。
S特コースは入学金・施設設備費・1年次の授業料全額が免除されるが、2月11日に行われる「S特特待入試」枠で特待合格すると、3年間の授業料全額が免除される。S特特待入試は、都立日比谷高校の自校問題に準拠した試験問題だ。安田学園では『自学創造』自ら考え学び、創造的学力・人間力を身に付け、グローバル社会に貢献できる人材へと育成。それが学園全体の改革の源であり、共学化もそのあるべき姿だ。
来春新設される中高一貫「先進コース」では、6年という長い時間で育成できる分、探究活動に厚みを持たせる。先進コースは全員が6年間授業料全額免除である。内部進学生と高校入学生は別クラスだが、切磋琢磨できる存在としてお互いを認め合い、「入試は団体戦」において相乗効果となっているという。安田学園の育成する「人間力」の躍動こそが、大改革を推進する原動力となりそうだ。
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