「戦争抑止には女性の力を」
創立者の強い思い
恵泉女学園中学・高等学校の創設者・河井道は、新渡戸稲造の教えを受け、津田梅子も留学したアメリカのブリンマー大学に入学。帰国後は日本YWCAの総幹事を務める等、国際的な舞台で活躍をしていた。当時は世界が戦争状態に突入し、経済も混沌としていた時代。河井道は「平和をつくり出すためには、女性が世界情勢に関心を持ち、自ら決断し、発言をしていかなくてはならない」という強い思いを抱き、50歳を過ぎたとき、同校の設立を決意した。
「この教育理念を実現させるため、本校では通常のカリキュラムに加え、『聖書』『国際』『園芸』の3つの学びを大切にしています」と話すのは、下田千春入試広報部長。
「聖書」が教えてくれるのは、神の前ではどんな人間も平等であるということ。他者を認めることは、ありのままの自分も認め、大事にすることにもつながっていく。人種や立場を超えて、互いを認め合うことを礼拝や聖書の授業から学んでいる。
同校の目指す「国際」で大事にしているのは、「お互いに尊重し合う心を持つこと」。国際理解を深めるため、実用的な英語力を身に付けるだけでなく、すべての教科・教育活動において、国際的な視点を持つことを大切にしている。
「園芸」では「人間も自然の一部であり、自然に対して謙虚であれ」と教えている。同校の正門を入ると左手に広がるのは畑の景色。1年生と4年生では園芸は必修で、通常収穫までに3年程かかる、しいたけの栽培もしている。
「1年生は園芸が必修ではない2年生、3年生のホダ木の面倒も見ます。そして4年生の時にやっと収穫ができるのです。生徒たちは作物を育てるには時間がかかることを学びます」
また有志が参加する「カワヨ・グリーン牧場キャンプ」では、鶏を絞めて食べることも経験。生徒はいのちの大切さを、身を持って体験していく。
また同校は制服がなく「自由服」。一定のルールはあるが、その時々において、自分にふさわしい服装を選ぶ力を養わせている。
「服装は自由ですが、校章はバッチかペンダントとして付けることになっています。これもどちらか自分で選びます」
下田先生は同校の生徒を「物おじをしないというか、必要があれば踏み込んだ発言もする。それでいてやさしい生徒が多い」と話す。生徒は温かく見守られながら、自立することを学んでいく。
自分を信じる力を
与えてくれた恵泉の教え
毎年11月に開催される恵泉デー(学園祭)。昨年、そこに設けられた入試相談コーナーに、卒業生と保護者から回答を得たアンケートが展示された。質問は「恵泉で学んだ日々は、今の自分の生き方の中で、どのようにいかされていますか。どのような意味を持っていますか」というもの。手書きのアンケート用紙からは、恵泉での日々が、その後の人生を大きく支えていることが綴られていた。
大学進学した卒業生の保護者の声はこうだ。
「大学入学当時は、周りを意識しすぎ、地に足がつかず、自分らしさを見失っている様子がうかがえました。ある時『恵泉では切磋琢磨して、互いを高めあっていた』と口にしました。その頃からだったと思います。周りをよく観察し、自己との違いを分析し始めました。すると不思議と自分の目指していることが見えてきたようでした」 |
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卒業生本人からは、さらに力強い言葉が綴られている。
「恵泉で育まれた自立心は大いに今の私に役立っている。私の入社した会社はまさに男性社会。その中でひるむことなく、一生懸命、社会のために役立とうとする原動力は恵泉で培われたことだと信じて疑いません」
「何が正しいか自分で考えなさいという教えを叩きこまれたことが、私のベースになっていると思います。見て見ぬふりをして通りすぎるか、それとも傷つくのを覚悟で言うか。岐路に立ったときに後者の道を選ぶことができるのは、恵泉のおかげだと思います」
「私が生物を専攻するキッカケとなったのは、恵泉で自然と触れ合う機会があったから。現在研究している細胞生物学にもつながっています。正直、女子学生が東大で博士課程を取るにはいろいろな困難がありました。しかし私は、個性を尊重し、認めてくださった中学校の先生のおかげで自分を信じることができました」
現在、小学校で教師をしている卒業生からはこんなコメントも。
「服装も個性も多種多様。初めは自分とは全く違う個性を持った人が受け入れられず、戸惑ったこともありました。しかし、6年間の日々の中で、意見をぶつけ合ったりしながら一つのものを作り上げていくと、その人の意外な一面を見つけることができました。『みんな違うのに一体感がある』。これは今の私の学級目標になっています」
下田先生はこれらのコメントに対して、「河井道の教育が80年以上経っても、着実に育っていると思います」と話す。
生徒の進路先は、医療や環境、語学、芸術とさまざま。進学実績を上げるためだけの指導はしていないと胸を張る下田先生。
「人間を育てたいという原点を持って、全教員が取り組んでいます。それが生徒たちの生きる力の一部分になればと願っています」
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