2030年代の社会で
活躍できる人材を育成
新コースの名称となっている「グローバルナビゲーター」とは、今の中高生がおよそ30歳になる2030年代に活躍できる人物である。京都学園はその人物像を「豊かな創造力と旺盛な好奇心があり、多種多様な国や文化、立場、言語を乗り越え協働でき、多角的な視野をもって専門的知識を関連付け、失敗を恐れず実践し行動し続ける」と定義している。6年間の中高一貫教育でグローバルナビゲーターを育成することを目標に設置されたのがGNコースだ。
GNコースは、「GN一貫」と「GN探究」の2つのクラスを設定している。「GN一貫」は独自の中高一貫カリキュラムで学び、難関国公立大学や海外難関大学進学をめざす。「GN探究」は自己探究を深めながら進路を考え、高校進学時に「特進ADVANCED」「国際」「特進BASIC」「進学」の4コースのなかから適性に応じたコースを選択できる。
今年度入学した第1期生は両クラスとも26名ずつの52名。中学部の佐藤樹部長は、「かつてないほど高い学力レベルのお子さんたちが入学してくれました」と頬をほころばせる。
自己肯定と他者肯定を習慣化する
京都学園の中高一貫生は入学後の伸びが目覚ましい。毎年のように東大や京大、阪大など超難関国立大学に合格者を出し、英検取得においても、中学卒業時点で準1級取得者が3年連続で出ている。準2級以上の取得は中学校170人のうち36人にも上る。
GNコースには今まで培ってきた生徒を伸ばす教育プログラムを集約している。なかでも重きを置くのが心を磨く人間教育だ。
新入生が入学早々に体験するのは「コミュニケーションスキルアップトレーニング」。専門家の指導のもと、脳科学を取り入れたワークショップで友だちづくりや正しい距離感について学ぶ。
その翌々日には、コミュニケーションスキルを活用するオリエンテーション実習。ランダムに分けられた数人のグループで、野外でのカレー作りに挑戦する。まだ名前も知らない同士での協働作業だ。
「見ていると、材料を切ったり火を熾したり作業を分担しながら、『ありがとう』の言葉が飛び交っていました。人に感謝を伝えるとともに、自分も感謝されるという環境で学校生活をスタートできました」
5月には校外学習の愛宕山登山。このときも事前学習を行う。慣れない登山は疲労困憊し、つい弱音を吐きそうになる。そんなとき、どのような声かけが皆の気持ちを高められるかを考え、声に出してみる。
そして迎えた登山当日。生徒たちは息を切らしながらも声をかけ合い、全員が予定時間通りに登頂することができた。
佐藤部長は、「行事に限らず、日常の学校生活のなかで相手を気遣う心を育てています。プラスのコミュニケーションが習慣化され、自己肯定と他者肯定の空気が生まれます」と話す。
京都から世界へ、視野を広げる地球学
京都学園独自の「地球学」は、視野を広げ地球規模でものごとを考える力を育てる。環境保護や多文化理解などをテーマに年間20回実施し、講義や実験、フィールドワークを通して学びを深めている。
例えば「食」に関する取り組みでは、1・2年生は秋に京都丹波地域の京野菜農家に民泊し、世界に誇る京野菜を育てる人々の苦労や思いを知る。
3年生の4月には京の台所・錦市場で「食材仕入れ」と、ミシュラン二つ星の「祇園さゝ木」監修のもとでの「おばんざい調理実習」を体験する。 |
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そのおよそ1ヵ月後はカナダ研修旅行。現地で交流校の生徒に料理を振る舞う。
「海外から学ぶだけでなく、料理を通して日本の心と食文化を発信する。生産から流通、加工まで学んだからこそ、自信と誇りを持って海外への一歩を踏み出せます」
学年末には地球学プレゼン大会が開かれる。1・2年生は1年間で特に興味を持った分野について考えをまとめて発表する。3年生はテーマを自由に設定し、半年かけて研究に取り組み、卒論にまとめる。幅広い分野を学んできただけあってテーマは多彩だ。ある生徒は、アニメのピカチュウで悪役が電気攻撃を受けても、なぜ毎週無事に登場するかをテーマにしたいと思った。
「一見アカデミックでなくとも、生徒が本気でやりたいことに向き合って応援すると、思いも寄らない方向に展開します」
その生徒は、導体や絶縁体について研究し、透明導電膜という電気を通す素材を見つけた。「10万ボルトをこらえる方法」と題した論文は、その年の最優秀プレゼンに輝いた。
佐藤部長は、「これが正解だと押しつけず、生徒を型にはめない校風が伸びる力を引き出しているのでは」と考える。
ホームルームはオールイングリッシュ
従来の国際コースで導入されていた2人担任制(日本人・ネイティブ)もGNコースの全クラスに引き継がれている。
始業前、ネイティブ担任による20分間のモーニングアクティビティの後、連絡事項も伝える。もちろんオールイングリッシュだ。入学したばかりの生徒は「!?」。そこで日本人担任が机間巡視しながら連絡事項をメモできているか確認する。
佐藤部長は、「2人担任制の目的は、外国人への心のハードルを下げることですが、予想外の収穫がありました。これまで1件も忘れ物がないのです」と嬉しい驚きを見せる。
日本語で伝えるよりも意識が集中し、自分で情報収集しなければならないという自覚が芽生えてきたのだ。日常的に英語をインプットし活用できる場と、影でフォローしてくれる日本人担任の存在が生徒たちの英語コミュニケーション力を着実に伸ばしていく。
卓越した教育プログラムと、自ら伸びようとする心が育つ土壌。GNコースへの期待は大きい。
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