多様化する進路を見据えて
来春、さらにコース内容を充実
「この3年間の経験をもとに、今年はジャンプするための基礎固めです」と神代校長は温和な笑顔で話を始めた。
進学実績は満足していません、と謙遜する校長だが、京都大、神戸大、大阪教育大、大阪市立大などの国公立大を始め、関関同立へも多数が進学している。
「女子校時代は指定校推薦が多く、系列の大阪大谷大学への学内推薦もあったため、一般受験をする生徒が少なかったのです。ところが男子が増えたことで、進路も多様化してきました。難関大を目指す生徒も少なくありません」
そこで、進学面を強化するため、現在の3コースの名称と内容を見直し、来春に向けて新しい体制を構築した。国公立大や難関私大を目指す「特進コース」は、週38時間の授業だが、2年では39時間、3年になると40時間のカリキュラムに。夏休みには、3泊4日の勉強合宿・特別編成授業を行う。
言語・国際コースは「国際コース」へと名称を変更。留学制度を充実させていく。これまで2週間程度の語学研修は実施していたが、もっと長期間に渡って勉強したいという要望が強まってきた。それを受けて、3ヶ月コース、1年コースを新設。ニュージーランドでホームステイをしながら、現地の学校で集中的にレッスンをする。
「留学に関しては、生徒個人の希望を認めるだけでしたが、学校主導にしました。教員が手厚く面倒を見ます。在校中に留学したいという生徒が多く、先日も説明会を開きましたが、関心を示す生徒が多かったですね」
国際コースでは、第2外国語も必須となっている。スペイン語、フランス語、中国語、韓国・朝鮮語の中から選択する方式だ。授業数も現行の週1時間から2・3年次各2時間に増やす。
「昨年、学校説明会で国際コースを紹介した際、生徒が習ったスペイン語でサラっと説明をしたのです。これには驚きましたね」と校長は、うれしそうにエピソードを披露してくれた。
「進学コース」は勉強とクラブを両立させ、有名私大や併設大学を目指すコースだが、ここも外部受験を希望する生徒が増えており、選抜クラスを設定するなど、進学サポート体制を強化する。
独自の「10年未来プロジェクト」と
「探究ゼミナール」で主体性を養成
時代に即したプロジェクトも数多く実施している。そのひとつが1年次の「10年未来プロジェクト」。28歳になった自分を想像し、そこへ到達する道筋を作っていくキャリア教育である。
「実際、高校に入ったばかりの生徒に10年先のことを尋ねても、明確な答えは返ってきません。まず、身のまわりで関心のある仕事を見つけ、その職業に就くには何を勉強するのか、どんな学部へ行けばいいのか、そして、どの大学へ進学すべきか?そのようにして少しずつ漠然とした考えから具体的なプランへと進めていきます」
10月には、キャリアガイダンスと称して、様々な領域で働く卒業生が来校。具体的な仕事現場の話をしてくれる。
「薬学部へ進んだある卒業生が、『国家試験に向けて勉強したことは、ほとんど高校時代に習ったことばかり。いかに高校の勉強が大事だったかを痛感している』と言っていました。そういう声を在校生に届ければ、職業観も明瞭になるでしょうし、勉強面でも意欲が湧くと思います」
2、3年次になるとアクティブラーニングの一環として「探究ゼミナール」を行う。3、4人でチームを組み、興味関心のある社会事象をテーマに、調査・研究を行っていく。まずはクラスで発表。そして、クラス代表に選ばれたチームが、3月に全校生の前でプレゼンテーションを行う。最終的に8000字の論文にまとめる。
「『なぜ日本人は誕生日の歌を英語で歌うのか』、『ボールと球技の関係性』といった独創的なテーマもあって、感心する場面が多かったです」
プレゼン大会は、タブレット端末やパワーポイントを駆使しながら、大人顔負けの発表を行ったそうだ。また、「探究ゼミナール」の一環として、2年次は「NIE(新聞を教育に)」と連携してグループ研究の内容を新聞としてまとめることも行っている。 |
目指すは、人間教育を行う進学校
保護者の入学時負担軽減制度も
東大谷高校は、1909(明治42)年の創立。開学の地は、大阪の中心地・御堂筋本町である。今の南御堂(難波別院)に建てられた校舎を原点として、長らく女子教育を推進してきた。その根幹に生きているのは、親鸞聖人の教え「報恩感謝」である。
毎日の朝礼と終礼では、姿勢を正して瞑想を行う。讃仏歌を斉唱し、合掌礼拝で生徒は自分の内面を見つめる時間を過ごしている。また、登下校時には、必ず校門で一礼をするのが伝統となっている。
「男子の中には、入学した当初、なぜ一礼するのかと思った生徒もいたそうですが、すぐに定着しました。3年も続けているとすっかり習慣が身につくので、大学に入っても、つい校門で一礼するようになってしまう、と笑って話す卒業生もいました」
大阪府では私立学校授業料支援補助金を支給しているが、それに対して「保護者の入学時負担軽減制度」を設けているのも特色のひとつである。府からの補助金は、通常11月に支給されるが、4月の入学時には一旦、各家庭が立て替えて納付しなければならない。50万から60万円もの現金を用意するのは、なかなか大変だ。ということで、同校ではそれを立て替える措置を採っている。来年度も継続する予定で、少しでも保護者の負担を軽くしていく方針である。
グッドデザイン賞にも輝いた新しい校舎や、電子黒板、タブレット端末などの最新の設備。そういった環境に身を置きながらも、いにしえの教えも受け継いでいく同校。取材の結びに、「人間教育を行う進学校でありたい」と神代校長は凛と答えた。
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