志願者2,800人突破の人気校
大谷中学校・高等学校は、JR奈良線と京阪本線の「東福寺」駅より徒歩5分と、交通アクセスに恵まれている。また、京都駅からも徒歩圏内だ。朝の鴨川の景色を眺めながら塩小路橋を渡るコースは、所要時間18分で学校に着く。通学の利便性から、京都府内はもとより大津市など滋賀県から通う生徒も多い。
同校は、明治26年に現在地に移転し、大谷尋常中学校と改称。戦後の教育制度改革によって大谷高等学校となり、その後は中学校開校、コース制導入、共学化など学校改革を重ねてきた。
その成果もあり毎年の高校入試では、京都府内の私学で、最も多くの受験生を集める人気校となっている。今年は2,815人が志願し、内部進学者63名を含めて505人が入学。クラス数も増加した。
大橋眞悟中学教頭は、「昨年より厳しめの入試でしたが、予想以上に受験生のレベルが上がっています」と笑顔を見せる。
高校だけでなく中学校の人気も高まっている。こちらも募集定員を超える102人が入学したため、マスターJrクラスが2クラスになり、コアJrクラスの2クラスと合わせて4クラスとなった。
中学校は当初、単一のバタビアコースとしてスタートした。5年前に高校のコース制と合わせる形で改革し、バタビアコースにマスターJr(1クラス)とコアJr(2クラス)を設置した。マスターJrクラスは、国公立大学への進学を目指して進度を速め、中学1・2年で国語・数学・英語の中学課程をほぼ修了する。
一方コアJrクラスは、難関私大を目標とする。最初の2年間で基礎学力の充実を図り、その後は苦手科目を克服し得意科目を伸ばしていくために、古典・数学・英語において習熟度別授業を実施。きめ細かく指導している。
生徒を見守り
自主的な学習習慣へつなげる
バタ担
中学校の人気の要因のひとつとして挙げられるのが、バタビアシステム(バタ担)だ。クラス担任が生徒と一緒に授業を受ける授業形態である。名前の由来は、アメリカニューヨーク州バタビア市の学校で始められたことによる。
同校では、昭和35年の中学校開校と同時に導入し、時代の変化に対応して改革を重ねながら50年以上受け継いできた。現在は、コアJrクラスの1・2年生において、英数国3科目で実施している。
クラス担任は教科担任と連携し、授業中の生徒の学習状況を確認しながら机間巡視や個別指導を行う。これにより、クラス担任は生徒と同じ目線で授業を受けられると同時に、生徒一人ひとりに目を配り、必要なときに適切なタイミングで手を差し伸べられる。生徒にとっても担任の存在は心強い。
マスターJrクラスは、学習面において自立できている部分が多いことから、システムとしてのバタ担は実施されていない。しかし、日常的にクラス担任が教室を覗いて生徒の学習状況を確認している。ときには大橋教頭自身が教室に入ることもある。
「バタ担は、生徒一人ひとりを見守りながら自立へ導くという本校の教育の根幹。マスターJrクラスにおいても伝統として引き継いでいます」
またコアJrクラスでは、バタ担に加えて担任指導も行う。毎週火曜と金曜の7時限目に、クラス担任は教科担任と相談して、英数国を中心に1週間の確認テストを実施。その結果から生徒の理解度を確認し、必要に応じて課題を与えたり、補習を設定。目標達成まで繰り返し指導する。バタ担で、生徒の状況を把握している担任だからこそできる指導だ。この担任指導により、生徒たちは自主的な学習習慣も身につけていく。
伸びる進学実績
今年は医歯薬系が躍進
高校では、多様な進路希望に応じて、バタビアコース(マスタークラス・コアクラス)とインテグラルコースを設置している。バタビアコースは中学と同様に、マスタークラスは国公立大を、コアクラスは難関私大を進学目標とし、インテグラルコースは、学業と課外活動を両立させながら希望進路の実現を図る。
大学進学実績は着実に伸び続け、特に一昨年度から国公立大の合格者が飛躍的に増えた。一昨年が25名に対し、昨年は60名。今年も北大や京都府大、滋賀大などに58名が合格した。
「昨年より少し減ったのは、私立難関大の医歯薬系志願者が増えたことによります」と大橋教頭。
医歯薬系大学に進学した生徒は、国公立大と私大を合わせて昨年は8名。今年は一挙に20名に増えた。そのなかには、富山大学や高知大学など国公立大の医学部医学科も含まれる。
生徒たちが希望の進路を勝ち取るために、サポート体制も充実している。
校内予備校の「AIゼミ」は、受験指導専門の外部講師による授業。対象は高校1年から。学校の授業と連動させて効果の高い受験勉強が期待できる。衛星放送講座の「駿台サテネット」は、自分のペースで学習したい生徒向き。分からないところは教科担当の先生に質問できる。
高3生対象のセンター対策は、年末の2週間と年始の1週間で、各種予想問題を使って直前特訓トレーニングを実施する。センター入試後は、志望大学ごとに個別指導する「赤本指導」だ。およそ3週間、それぞれの大学の入試問題に精通している教員が希望者に入試問題対策を行う。
「中学・高校に関係なく、主要5科目の全教員が指導にあたります」 |
指導は、朝の始業前や授業の合間など、生徒も教員もまさに寸暇を惜しんで、入試問題対策に取り組む。国語担当の大橋教頭も今年、看護学科を志望する3人の小論文を指導した。結果は残念ながら国公立大には届かなかったが、第2志望の私大に合格を果たした。
これら手厚いサポート体制により、コアクラスで勉学とクラブ活動を両立させながら国公立大にチャレンジする生徒も少なくない。今年は26人が受験し14人が合格した。中学時代から女子ハンドボール部で活躍し、昨年インターハイに出場した生徒も京都教育大学合格を勝ち取った。
来年は、中学校のマスターJrクラス1期生が大学受験を迎える。進学実績のさらなる飛躍が期待できそうだ。
創立140周年に向けて
生徒が広告を制作
大橋教頭は、同校に多くの受験生が集まる要因を、「バランスの良さ」と考える。
仏教を基盤とする人間教育、安定した進学実績、クラブ活動や学校行事。どれかに偏ることなく、どれにも一生懸命に取り組む。たとえ硬式野球部や女子ハンドボール部などの指定クラブだとしても、学業第一が部活の条件だ。
また、ときにはボランティア活動に参加する。20年ほど前から活動を続けるボランティアグループのハレジャは、定期的に福祉施設を訪問したり、路上生活者支援のための募金活動を行っている。メンバーは10数名だが、阪神・淡路大震災や東日本大震災など大災害の際には、多くの生徒が一斉に活動の輪に加わる。
「自分ひとりで生きているのではなく、生かされていることに気づいて、どう生きるかを考えているのだと思います」
同校のスローガンである“To Be Human(人となる)”は、いただいた命に感謝し、自分の命を懸命に生かし切ること、同時に他人の命の尊さを認め、人間として成長していくという意味が込められている。
毎週の宗教の時間や講堂礼拝だけでなく、学校生活のあらゆる場面で、この教育理念が浸透している。
大橋教頭は、「人は存在そのものを認められ、成長を応援されると、安心してベストを尽くせます。この安心感が本校の伝統です」と話す。
今秋、同校は140回目の創立記念日を迎える。10月3日に京都国際会議場で開かれる記念式典に向けて、生徒が参加する企画がいま進行中だ。大谷をテーマに高校生がプロモーションビデオ、中学生がポスターを制作しコンテストを行う。審査員は、CMディレクターの中島信也氏とCMプランナーの藤井亮氏。夏休み前に藤井氏によるワークショップが開かれ、制作上のポイントがレクチャーされた。記念式典で審査結果を発表し、最優秀賞に輝いたポスターは駅に掲示。プロモーションビデオは実際に大谷のCMとして民放のテレビで放映する。
「大谷の看板はいま生きている生徒たちですから、生徒中心の記念式典にしたいと考えました」と大橋教頭。
140年前から引き継がれてきた伝統の、新たな担い手となる生徒たちが、大谷中学校・高等学校をどう表現するのか。楽しみである。
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