行動の意味を知る
全人教育は作法から
就任から3年目を迎えた児玉道仁校長は、大阪府立岸和田高校の活性化に寄与したことで知られる人物。熊本県は天草の禅寺に生まれ、苦学の末、府立高校の教員となった児玉校長は、自ら希望し定時制高校で教鞭をとった経験も長い。その原点は、どんな問題を抱える子どもに対しても正面から向き合い、最善の対応をとろうとする信念にある。
教員となる直前まで、病気入院中の父にかわって檀家回りもしたという児玉校長。真宗大谷派の教えを教育理念にもつ東大谷との出会いにも縁が感じられる。
そんな児玉校長が就任後まもなく挙げた「東大谷進化目標5項目」のひとつに、「品格を重んじ、礼儀・モラル重視の教育」がある。宗教による情操教育を実践する同校にとってはコアとなる教育目標だ。伝統によって培われてきた荘重なオーラ、雰囲気は、日常の行動に意味を見いだしてこそ守られ、受け継がれる。
なぜ、そう振る舞うのかという意味を説かなければ、伝統は慣習化すると児玉校長は指摘する。たとえば、毎朝行われる講堂礼拝では、生徒は一礼して講堂に入場する。が、これを一旦立ち止まって行うのと、歩きながら行うのとでは、伝統と慣習の違いがある。
講堂朝礼は自ら修養する時間でもあり、そこに入るには謙虚な心で、立ちどまって一礼する行動に結びつかなければならないというのだ。このように行動には意味があることを説くことで、自らの振る舞いについて考える教育を実践する。そこが公立との強力な違いとなっている。
情操教育の理念は、生徒のメンタル面でも個に応じた指導として行きわたっている。不登校などで出席日数の足りない生徒のケアを手厚くするため、カウンセラーと連携をとり、「ほっとするーむ」を設置している。悩みの相談や精神的サポートを行うことで、登校意欲の回復に努めている。「縁あって入学してきた生徒には最後まで丁寧に接したい」という理念教育の実践のひとつだ。成果は上がっており、ここ2〜3年の退学率は激減している。「来年は退学ゼロを目指す」と児玉校長。
魅力増す高大連携と
授業力アップの実践
昨年、関西大学のパイロット校として提携を結び、16名の入学枠を得た同校では、「関大・関学シフトクラス」(2クラス80名、高2〜)が設置されている。
特に関西大学との連携事業は幅広く行われ、生徒の人気も高い。昨年だけでも大学教員による生徒向け講演会は3回実施されている。ほかにも関大生が来校し、クラブ活動やサマーセミナー、放課後自習の指導も東大谷生には好評のようだ。さらに、教員免許取得を目指す関大生が教育実習の場として同校を訪れるなど交流は盛んだ。関西圏の人気大学との連携事業は、生徒の進学に対するモチベーションを刺激している。
もっとも、「関大・関学シフトクラス」に在籍する生徒全員が両大学のいずれかに進学を保証されているわけではないが、少なくとも両大学への進学または同等の学力レベルを保証するとしている。
さて、他に例を見ない取り組みとして、大阪府立高校との教員派遣研修を紹介したい。事業は「私立学校と公立学校の双方が所管教員を相互に派遣し、派遣先における教育活動に従事しながら、組織体制や学校運営、人材育成等について、教員としての視野を広げ、資質の向上を図る(大阪府事務事業案内サイトより)」ことが目的。転勤がない私立の教員にとって、外部の教育ノウハウに触れることは貴重で、実際に1年間の派遣を終えた教員は、得がたい経験をしたと感想を述べている。
教員研修では、ほかに予備校に20名程度の教員が自発的に出向き、受験ノウハウの習得も行っている。分かる授業、面白い授業、役に立つ授業を目指し、授業力アップのための取り組みが進められている。 |
四角いスイカは
まずい
児玉校長就任以来、今年で開催3回目を迎える「親学支援教育セミナー」は、「品格を重んじ、礼儀・モラル重視の教育」を家庭環境の側からサポートしようとした取り組みだ。「子どもたちのさまざまな心の問題事象は、ほとんどが親の問題の投影」と見る児玉校長。セミナーでは脆くなっているといわれる親子の絆についてふり返り、よりよい親子関係の構築を呼びかけている。
「昔から子どもが育つ三要素に良き師、良き友、良き書が挙げられてきたが、現代は良き親というのも必要だ。師、友、書は選べるが、親は選べない。だからこそ親の責任は大きい」と児玉校長。少子化はすなわち少親化。子を持ったとしても、一人の親が育てる子どもの数は少なく、親として学ぶ場面も減っている。
そうした時代に、セミナーでは多くの子どもを見つめてきた現場の教員が問いかけ、社会が抱える問題を研究してきた学者が語る。親としての自分を見つめる親学セミナーは「報恩感謝」を建学の精神とする東大谷ならではの企画といえるだろう。親の枠にはめた育て方がいかに危ういか、児玉校長の「四角いスイカは値は高いが、食べるとまずい」というひと言は端的だ。
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