東大・京大など超難関校も視野に入れた
ハイレベルのカリキュラムを実践
「中学生はかわいくて仕方ないですね。純朴で前向きで」と目を細めるのは今春、着任した稲吉陽作校長。その視線の先にあるのは、初々しい中学1年生の集合写真だ。61名の屈託のない笑顔が、校長室の一角に飾られている。
2010年4月、京都橘中学校が誕生した。新入生は地元京都を始め、大阪、滋賀から広く集まった。「滋賀県の長浜から新幹線で通っている生徒もいるんですよ。学校説明会に来られた親御さんが、当校の校風や方針をとても気に入られたようです」と語る稲吉校長の言葉には、新たな学校誕生に対する保護者の期待の高さが伺える。出願者201名から入学を果たしたのは、61名(男子33名、女子28名)。新しい価値(Value)を創造できる生徒を育てたい。そんな願いを込めて「Vコース」と命名された6年制の中高一貫コースは、全員が国公立大学への合格を目指す。加えて、上位2割は東大・京大など超難関校への進学を想定。ハイレベルなカリキュラムが用意されているのが特徴だ。
Vコース中学3年間の学習時間は、2910時間。これは公立中学の標準的な学習時間(1925時間)の1・5倍に相当する。週6日制を採用し、週2回は7時限目まで授業が行われる。カリキュラムにも随所に工夫が凝らされている。朝の時間を有効に活用するため「0限モジュール」という制度を導入。これは朝のショートホームルームと1限目前半25分間を一体のものとして活用するというものだ。中1の1学期は、生徒がお互いをよく知り、落ち着いた気持ちで学校生活が始められるような時間を特に大切にして進めている。2学期以降は読書、ドリル、小テストなどに取り組んでいく。脳細胞が活発な朝の時間帯を活用することで、1日の授業をスムースに展開していこうという試みである。また、授業前後の時間も無駄なく過ごせるように校内に自習室を完備。朝は6時半から、放課後も自由に利用できる。中学校開設に伴い、施設のリニューアルも行われた。すべての教室に最新のICT機器を設置。WEB教材や映像を駆使した授業を行えるようになったのも特筆すべき点である。
明治35年の創立以来「自立・共生」を教育理念に掲げてきた同校だが、中学校の開設は、高校生の自主性の涵養にも良い影響を与えていると稲吉校長は語る。「中1生を受け入れるために、高校の生徒たちが“中学生あたたかく迎え隊”というグループを自主的に作ったんです。彼らは入学前の登校日に校内を案内したり、お昼どきには中1生と班毎に食堂で一緒にランチタイムをしたり、とても親切に面倒をみています。高校生いわく『中学生をあたたかく迎えられる学校は、私たち高校生にとってあたたかい学校になるはずだから』と言うんです。うれしい言葉ですよね」と誇らしげだ。先輩たちの影響を受けてか、中1生も積極的に活動している。同校では2009年から小学生を対象とした「いきいき体験教室」という公開授業を行っているが、5月の開催日には、休校日にも関わらず、中1生の有志28名が自主的に登校。体験授業を手伝い、小学生たちをサポートしたという。
校長が全教員の授業を見学指導
さらなる指導力のレベルアップを目指す
一方、中学校の開校に先立ち、京都橘高校では2009年度にコースの再編が行われた。国公立特進のSコース、難関私立大を目指す英数特進Bコース、総合進学Aコースの3コースに分かれ、それぞれ順調に成果を出している。高校でも校舎をリニューアルし、第2グラウンドの整備を始めるなど、いくつかの動きがみられるが、特筆すべきは教員の指導力向上に関する取り組みであろう。
稲吉校長は「生徒の学力を上げるには、教師のレベル向上が何より先決です」と語気を強める。その一環として4月から校長自らが、すべての教員の授業を視察し、授業改善へのアドバイスを始めた。「当校の教員はもともとモチベーションも高く優秀な人材がそろっています。若手教員から現場の授業を見にきてほしい、という要請がありましたので、いま時間を作って授業を見学しているところです」。見学後は、校長が教員一人ひとりに評価レポートを作成し、フィードバックを行っている。
また、年に3回行われる「公開授業週間」も指導力向上を大いに支えている。これは教員同士が互いの授業を見学し合い、その結果をディスカッション。改善ポイントなどを議論していく試みだ。秋には系列の京都橘大学から教育学の教授陣を招き、指導法などの助言を請う「研究授業」も行う予定である。 |
民間企業の幹部社員も迎え
学校モニター制度で常に改革を図る
京都橘中学・高校は、外部の目による学校評価に力を注いでいるのも特徴だ。同校が「学校評価」を教育現場に取り入れたのは15年前のこと。以来、生徒による「授業アンケート」を欠かさず実施している。毎年一学期末に一斉にアンケートを実施し、集計結果は夏休み期間中に各教員にフィードバック。教科別研修会で結果を分析し、指導法の改善に役立てている。加えて、一昨年からは「保護者へのアンケート」も始まった。伝統的に保護者会活動が盛んな同校だが、寄せられる用紙には、びっしりと評価や要望が書き込まれ、期待感の高さがひしひしと伝わってくるという。
また全国の学校でも珍しい、ユニークな試みとしては「学校モニター制度」がある。
これは卒業生の父母や地元の経済界、学識関係者にモニターになってもらい、授業参観、各種の学校行事、教育研究会などに参加した上で「一般社会の目」から見た助言を受けていく、京都橘ならではの制度である。今年度は伏見区に本社をおく、ある世界的企業にモニター派遣を依頼した。「社会貢献の一環ということで、幹部社員の方に快く引き受けていただきました。学校空間にいると、どうしても一般社会の視点から遠ざかってしまいます。よりよい教育を実現するためには、小さな改善を積み重ねていかなくてはならない。そのためには外部の目と声が非常に重要だと思います」と稲吉校長は、長年、現場で培ってきた教育観を語る。
伝統とブランドに甘んじることなく、常に改善を怠らないことが、よりよい教育の実現につながり、生徒の大いなる将来を拓いていく。京都橘ブランドは、日々の工夫を重ねつつ、大きな飛躍を遂げようと動いている。
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