新校長就任で一気に改善進む
就任以来、さまざまな見直しを進める大阪福島女子高等学校の延原観司校長は、13代目にして同校初の民間出身の管理職で、大手商社での勤務経験を持つ。つつがなく任期を満了するだけに終わらず、将来進むべきビジョンを明確に示し、到達するための方向性を具体的に挙げ実践していくタイプだ。
就任の第一声は、「学校は生徒のためにあります。ことをなすにあたり、常にそれは生徒のためになるかを考えてください。」であった。毎朝の校門での挨拶や授業参観を日課とするだけでなく、率先して生徒指導にあたり、生徒との対話を何より大切にしている。自ら生徒の中に飛び込みたいと、好んで校内を歩いて回る校長に、生徒も気軽に声をかける。
同校は1937年大阪市此花区に創立(後に福島区となる)されたが、その後の移転で現在は西淀川区に立地している。「大阪福島」は一定の認知度があるが、受験生や保護者に学校の意気込みを明確に伝えるためにも、来春から「好文学園女子高等学校」と改称する。好文とは中国での梅の異名を「好文木」といい、「文を好めば即ち梅開き、学を廃すれば即ち梅閉づる」という故事に由来し、本に親しむ生徒を一人でも多く育てたいという校長の気持ちが込められている。
学校名の改称を機に、「穏健着実」という校訓はそのままに、より明確な教育方針を示した。即ち「自立した社会に、貢献できる女性を育てる」がそれである。この方針を達成するため、生徒自身が気づいていない優れた持ち味を教師が見つけ、それを伸長する「個性創造」をスローガンとして掲げている。さらに、重点目標として「基礎学力の向上」と「女性としての教養とマナーの習得」を挙げる。「何も無いところから個性は生まれない。基礎ができて初めて個性が開花する。」との校長の考えに基づくものである。
「本校の生徒は、自分は勉強ができないと思い込んでいるところがあり、自ら可能性を閉じようとしているのを見るのは、実にもったいないこと」と延原校長。「学力と教養は教育の両輪。学びを通じて人としての優しさ、思いやりのこころを身につけてほしい。スポーツでも勉強でも努力する人が報われる学校を目指したい。」と、抱負を語る。『やればできるは魔法の言葉。自分サイズの未来を開くチャンス・メーカー好文学園』と、自ら来年度に向けたキャッチコピーを創り、生徒が自信を持って生まれ変われる学校でありたいと訴えている。それはまた、大阪福島女子が好文学園として新生するための魔法の言葉でもある。「改革というよりは、変化に対応するためのインプルーヴメント(改善、進歩)」という延原校長の言葉は新鮮だ。それは人が新陳代謝によって日々成長するように、生徒も教員も常に向上心をもって変化し続けることの重要性に気づかせてくれる。
幅広い選択肢各コースの特色
教育内容の見直しでは、従来の総合コースを「特進選抜」、「標準進学」、「総合選択」の3コースに分割し、既存の情報コミュニケーションコースを「ITライセンスコース」と改称する。
「特進選抜」コースについて延原校長は「有名大学進学を競い合うことを目的とするわけではない。チャンス・メーカーとして生徒の選択の幅を広げる意味がある。」と、設置に至った経緯を語る。「やるからには目標がなければならない。」延原校長は企業経験者らしくP.D.C.A(Plan Do Check Action)で説明する。Planとは、20名の少人数クラス編成で国公立大、関関同立への合格を目指すことであり、Doは大手予備校との連携を図り受験ノウハウを獲得すること。Checkは、一人ひとりの生徒の学習到達度を定期的にチェックする。Actionは到達度に見合った個別指導を行い、落ちこぼれのでないようにすることである。こうした体制は生徒に対してだけでなく、これまで受験対策に積極的とはいえなかった教員側にも、その実践が求められる。「生徒による授業評価制度」の導入など授業改善への取り組みが始められ、系統だった研修も検討中である。
「標準進学」は、AO入試や指定校推薦枠を利用した進学を希望する生徒のためのコースで、1年終了時に本人の希望と審査により転コースが可能となっている。
「総合選択」コースは、入学段階で進路を決めかねている生徒が、2年次以後に進学、就職のどちらでも選択できるよう、必要なカリキュラムを組んでいる。「標準進学」同様の条件で転コースが可能。
「ITライセンス」はこれまで同様、IT関連の資格取得を強力にサポートし、メディアのプロによる特別授業を実施するなど、ITスペシャリスト養成のためのコースである。
ほかに、スポーツ分野で活躍する人材を育成する「体育」コース、保育の専門家を目指す「保育進学」コース、イラストレーターや漫画、アニメーション作家を目指す「マンガ・アニメーション」コース、絵画、デザイン部門での表現技術を身につける「デザイン美術」コースが設けられている。
また、各コースを活性化するため、教員全体でアイデアを絞っている。例えば、デザイン美術部門では、学外のコンテストへの積極的な出展だけでなく、街の画廊に作品を出すなどアウトプットのチャンスを増やして、生徒の意欲を刺激する。延原校長自身の名刺には、在校生がデザインしたイラストが採用されているのも、生徒のヤル気を引き出し、自信を見出させる「個性創造」の教育方針の一環で、褒めて育てる教育の実践を垣間見ることができる。 |
着実に努力できる環境を創り上げる
現在建設中の校舎はクラシックモダンをコンセプトとする4階建てで、30の教室とレストラン、職員室が配置される予定。来年の2学期には新校舎での学園生活が始まる。これにさきがけ、新しい制服は新入生の入学に合わせ4月から導入される。紺を基調としたブレザーとチェックのスカートは、清楚なイメージで、在校生のアンケート調査の結果をもとに採用されたという。
「学び」はその姿勢からをモットーに、頭髪や衣服を整え、言葉や態度をきちんとする「身嗜み」の指導に今後も力を注いでゆく。「怒鳴る事は厳禁し、辛抱強く語りかける指導を1学期は続けてきたが、いつまでも指導に乗らない生徒については、その行為が自分自身を貶めるだけでなく、真面目に努力している他の生徒の進路に悪影響を与えることを憂慮して、2学期からはけじめをつけて厳しい姿勢で臨む。」と、保護者面談や出校停止もありうることを明言する。4月からの校門指導は着実に成果をあげており、「明るく挨拶を返す生徒の数は飛躍的に増えている。」とは、来校者の声である。
最後に延原校長に、新生、好文学園の進むべき方向性を尋ねると、「敢えて中堅女子校を目指す」との答えが返ってきた。進学校を目指す高等学校が多い中、生徒一人ひとりが自分の可能性を信じ、コツコツと努力を重ねることができる環境としての学校。その創造に取り組む意気込みが伝わってきた。
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